どんなに優れた商品・サービスだとしても、販売の仕方が間違っていればうまくはいきません。「まったく見向きもされない」「認知されるまでに時間がかかりすぎてしまう」「売れたとしてもコストが予算をオーバーしてしまう」などといったことも起きてくることでしょう。
ビジネスを成功させるためには、顧客のニーズや自社の強み、リソース、取り巻く環境などを考慮しながら、効果的な販売戦略を立案することが重要です。
今回は、販売戦略にフォーカスし、立案方法や成功事例などを紹介していきます。商品・サービスの売れ行きに悩んでいる方や新商品・サービスのリリースを控えている方などは、ぜひ参考にしてみてください。
販売戦略とは
そもそも販売戦略とは何でしょうか?販売戦略とは、自社の商品・サービスをどう販売していくか(誰に対して、どういった価値を、どのように提供していくか)ということに関する計画や方針のことをいいます。
販売戦略を立てる際には、まず顧客のニーズを把握することと、自社の強みを把握すること、この2点が重要なポイントとなります。
顧客のニーズを把握する
どんなに優れた商品・サービスであっても、顧客が求めていないものであれば売れません。
まずは市場にどのようなニーズがあるかを把握する必要があります。
自社の強みを把握する
ビジネスは、自社の強みを活かすことで有利に進められるようになります。
強みの例としては、「社員の技術力が高い」「絶対的人気商品がある」「立地が良い」「ホームページのアクセスが多い」「スピーディーに生産できる」「物流体制が整っている」などが挙げられます。
顧客のニーズおよび自社の強みを把握した上で、ターゲット、商品・サービスの形、販売経路、販売手法、販売価格などを具体的に検討していきます。
販売戦略を立てるメリット
販売戦略を立てることには、どのようなメリットがあるのでしょうか?
まず挙げられるのが、リソースの面です。ただ場当たり的に販売業務を進めていっても、ヒト・モノ・カネ・ジカンといったリソースを無駄にしてしまうでしょう。強みを活かす、ターゲットを絞る、特徴を明確にするなど、効果性を意識した戦略を立てることで、リソースの利用を最適化できます。
次に挙げられるのが、説得力の面です。直感や雰囲気などではなく、理にかなった販売戦略を立てられれば、上司や役員などに対して、説得力を持った説明ができるようになります。それだけ賛同を得やすくなりますし、サポートもしてもらいやすくなるでしょう。
さらに、効果検証の面でもメリットがあります。明確な販売戦略を立てれば、明確な指標のもとでの効果検証ができるようになります。それだけPDCAサイクルを回しやすくなり、結果として売上アップにもつながっていきます。
代表的な販売戦略手法
ここまで、販売戦略の意味とメリットについて解説してきました。続いて、代表的な販売戦略の手法を5つ紹介します。
ランチェスター戦略
ランチェスター戦略とは、自社にとって有利な戦局を作り出すための戦略のことで、戦争理論がベースになっています。
なお、ランチェスター戦略は、すそ野の広いジャンルであるため、ここですべてを解説することはできません。ここでは、一般的によく使われている「弱者逆転の法則」について解説します。
戦争において、優れた武器や兵員を大量に保有している軍隊と、優れた武器も兵員もわずかしか保有していない軍隊がまともに戦った場合、どういった結果になるでしょうか?たいていのケースで、前者が勝つことになります。
しかし、局地戦(一定の地域に限って行う戦い)に持ち込んだ場合はそうとも限りません。局地戦では、「大きい方・多い方が勝つ」といった「数の論理」が通用しません。その局地においては、後者が勝つ可能性もあるでしょう。
これは、ビジネスにおいても同様に考えることができます。ブランド力やリソースのない中小企業は、ブランド力やリソースのある大企業と真正面から戦っても、通常は敵いません。しかし、自社の強みを生かせる領域に一点集中したとしたらどうでしょう。その領域においては、自社が大企業を上回ることができる可能性が出てきます。
ニッチ化戦略
ニッチ化戦略とは、競合がほとんどいない隙間市場で、トップシェアの獲得を目指す戦略のことです。
しっかりとしたニーズがあり、かつ自社の強みに合致した市場を発見・開拓できれば、価格競争などに巻き込まれることなく、大幅な利益を期待することができます。市場のパイオニアとしてのブランディングもできるようにもなるでしょう。
自社にあった隙間市場を見つけるのは、簡単なことではないかもしれません。しかし、変化の激しい現代、現時点で適当な市場が見つからなくても、時代の流れとともに新しく適当な市場が現れてくることも考えられます。
※前述したランチェスター戦略とニッチ化戦略は似ているところがありますが、ランチェスター戦略は「戦いやすい領域を選ぶ」、ニッチ化戦略は「戦う必要のない領域を選ぶ」という違いがあります。
コストリーダーシップ戦略
コストリーダーシップ戦略とは、価格の優位性を競争力の源泉とする戦略のことです。価格の優位性を実現させる手法としては、大量生産、物流コスト削減、人件費削減、直接仕入れなどが一般的です。
なお、あまりに過度なコストリーダーシップ戦略を取ると、市場での価格競争を招き、いずれ自社の首を絞めることになるため注意が必要です。
サンドイッチ戦略
サンドイッチ戦略とは、「平均を好む」という日本人の心理を利用して、売りたい商品を顧客に選択してもらう戦略のことです。
たとえば、1,000円のプランA、2,000円のプランB、3,000円のプランCと3種類のプランがあった場合、真ん中のプランBが多く選ばれる傾向があります。このとき、プランBに利益率の高い商品や在庫の多い商品、新しい商品などの売りたい商品を持ってくれば、それを選択してもらいやすくなるというわけです。
もちろん、「プランA、プランB、プランC」という名称は一例です。「松、竹、梅」「ライトプラン、ベーシックプラン、プレミアムプラン」などとしても良いでしょう。
バンドル戦略
バンドル販売とは、複数の商品をセットにして販売する手法のことです。「抱き合わせ販売」と呼ばれることもあります。
バンドル販売の例
- ・サンドイッチ+サラダ+ドリンク(飲食店を想定)
- ・スーツ+バック+シューズ(紳士服専門店を想定)
- ・テレビ+冷蔵庫+洗濯機(家電量販店を想定)
価格は通常、それぞれを単品で購入するよりも安く設定します。
バンドル販売には、顧客側には「割安価格で購入できる」というメリットがあり、販売側には「単品販売よりも売上の向上が狙える」「(売れ筋商品と売りたい商品を組み合わせることで)売りたい商品を売りやすくなる」といったメリットがあります。
ここでは、5つの代表的な販売戦略手法を紹介してきました。あくまで代表的な販売戦略であって、実際にはこれらを雛形あるいは参考にして、個々の条件にあわせて最適な形を考えていく必要があります。
販売戦略を立てる際に役立つフレームワーク
営業戦略を立案するときには、フレームワーク(思考を助ける枠組み)を活用するのがおすすめです。フレームワークを活用すると、イメージや思考の整理、チーム内での情報交換などが行いやすくなります。ここでは、販売戦略を立てる上で役立つフレームワークを4つ紹介します。
3C分析
3C分析とは、「Costomer(顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」の3つの項目で物事を分析するフレームワークです。自社と自社を取り巻く環境を整理するのに役立ちます。
各項目で分析すべき要素には、次のようなものが挙げられます。
- ・Costomer:ユーザーのニーズ、ユーザーの消費行動、市場規模、市場の成長性
- ・Competitor:競合各社のマーケットシェア、競合会社の特徴、新規参入予定会社の特徴
- ・Company:企業理念・ビジョン、強み・弱み、各種リソース、実績
4C分析
4Cとは、顧客から見た「Customer Value(価値)」「Cost(費用)」「Convenience(利便性)」「Communication(対話)」、これら4つの項目で物事を分析するフレームワークです。顧客目線で物事を見る際に役立ちます。
各項目で分析すべき要素には、次のようなものが挙げられます。
- ・Customer Value:機能、性能、デザイン、ブランドイメージ
- ・Cost:価格、時間、心理的ハードル
- ・Convenience:アクセス、商品説明、決済方法
- ・Communication:コールセンター、展示会、SNSやブログ
4つすべての項目で顧客のニーズを満たせそうであれば、それは成功しやすい戦略といえるでしょう。
SWOT分析
SWOT分析(スウォット分析)とは、「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の4つの項目で物事を分析するフレームワークです。
4つの項目は、下にあるようなマトリクスで表現されます。
プラス要因 | マイナス要因 | |
---|---|---|
内部環境 | Strength | Weakness |
外部環境 | Opportunity | Threat |
SWOT分析をすると、勝負しやすいジャンルや有利なタイミングなどが見えてきます。
ペルソナ分析
ペルソナとは、自社で作る典型的な顧客像のことで、ペルソナ分析とはペルソナに基づいて行う顧客分析のことです。ペルソナ分析は、顧客の心理や行動をイメージするのに役立ちます。
ペルソナ設定をする際の基本項目には、次のようなものが挙げられます。
- ・基本情報(生年月日、性別、血液型など)
- ・居住地
- ・勤務先
- ・年収・財産
- ・学歴・資格
- ・家族構成
- ・ライフスタイル(生活リズム、食事内容など)
- ・趣味
- ・消費行動
- ・乗っている車・バイク
- ・使用しているITツール(パソコン、スマホ、アプリなど)
- ・インターネットの利用頻度
- ・悩み・課題・目標
通常、ペルソナは可能な限り詳細な情報まで落とし込んで作ります。詳細になればなるほど顧客の視点を持ちやすくなり、それだけ顧客のニーズに沿った販売戦略を立てられるようになるためです。
販売戦略における成功事例
では、販売戦略の成功事例を3つ紹介します。具体的なイメージを持って頂ければと思います。
マクドナルド(日本マクドナルドホールディングス株式会社)
ハンバーガーショップ「マクドナルド」は、主に「コストリーダーシップ戦略」と「バンドル戦略」を取っています。
マクドナルドでは、製造工程や物流行程の最適化、従業員マニュアルの徹底などによって圧倒的な低価格販売を実現しています。「お金がないからマック(マクドナルド)で食事をする」というのは、ある種の常識のようなものとなっています。
また、利益率の低いハンバーガーと、利益率の高いポテトやドリンクをセットにした「バリューセット」は、顧客から見て大変なお得感があるため、1994年の開始以来、ずっと変わらずに大人気です。
QBハウス(キュービーネット株式会社)
カット専門店「QBハウス」は、「ランチェスター戦略」と「コストリーダー戦略」を取っています。
QBハウスでは、従来から理容サービスとして一般的なシャンプー、ブロー、ひげ剃り、マッサージをあえて省き、カットだけに一点集中することで、「10分・1000円カット」を実現しています。
その手軽さから、時間に余裕のない男性サラリーマンを中心に客足を伸ばしてきました。また、「オフィス街に出展」「年中無休」「夜間営業」などといった営業スタイルを打ち出すことで、さらに差別化を加速させています。
YKK株式会社
ファスナー製造販売会社YKK株式会社は、「ニッチ化戦略」を取っています。
洋服でも、鞄でも、財布でも、寝具でも、日本で使われているファスナーの多くのものがYKK製です。これは、業界の方だけでなく、一般の方でさえ認知していることです。たくさんの方が、「YKK」と表示されているファスナーを見たことがあるでしょう。
YKKは、生産システムを自社製造する、「薄いファスナー」「伸びるファスナー」など細かいニーズ対応するといった取り組みにより、ファスナーの日本シェア95%、世界シェア45%という圧倒的な地位を確立しています。
販売戦略の効果検証に役立つツール
販売戦略というものは、ただ立案・実行して終わりというものではありません。売り上げや利益を最大化させていくためには、効果検証をしながら、PDCAサイクルを回していく必要があるでしょう。
この効果検証の際には、「MA」「SFA「「CRM」といったITツールが役立ちます。
MA
MAとは、「Marketing Automation(マーケティング・オートメーション)」の略で、マーケティング活動を支援してくれるツールのことです。
新規見込み顧客の獲得から育成、マーケティング施策の分析、アクセス解析、顧客スコアリングなどを行ってくれます。
マーケティングオートメーション(MA)とは?市場規模・ツールと機能・活用事例
SFA
SFAとは、「Sales Force Automation(セールス・フォース・オートメーション)」の略で、営業活動を支援してくれるツールのことです。
過去案件および現在進行中案件について、担当者の基本情報、アプローチ履歴、顧客の反応、スケジュール、アクションプランなど、商談に関するデータを一元管理してくれます。
SFAとはどんな機能を持ったツール・システム?導入のメリットとは?
CRM
CRMとは、「Customer Relationship Management(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)」の略で、顧客情報を管理してくれるツールのことです。
顧客の基本情報、購入履歴、問い合わせ履歴、アンケート結果など、顧客に関するデータを一元管理してくれます。
こういったITツールがあると、「いつ、誰が、どこで、何を、いくつ購入してくれたか」「どの販売経路から来ている方が、顧客になってくれているか」といった情報が可視化されるため、分析が行いやすくなります。効果検証を行う際に役立ちます。
CRMとはどんな機能を持ったツール?導入のメリット・おすすめシステム
まとめ
自社の商品・サービスをより多くの顧客に認知・購入してもらうには、顧客のニーズや自社の強みやなどを把握した上で、綿密な販売戦略を立てることです。ただ場当たり的に進めていくのはNGです。売れないばかりか、販売活動自体が大きなコストにもなりかねません。
今回紹介した代表的な販売戦略、販売戦略策定に役立つフレームワーク、成功事例などを参考にして、自社に合った販売戦略手法を確立していきましょう。
最初は失敗してしまうこともあるかもしれませんが、PDCAサイクルを回していくことで、理想的な販売戦略に近づいていきます。諦めることなく取り組んでいきましょう。