オンラインショップの普及などにより、物流業界は売り上げを伸ばし続けている一方、人手不足や業務負担の増加に悩んでいる企業が多い分野でもあります。
物流というと流通システムの改善に注目が集まりますが、営業業務を効率化することで人手が不足している部門にリソース分配することも可能です。
今回は物流が抱えている営業部門の課題を整理し、どのように解消すべきか紹介します。
物流業界の現状
物流業界で深刻化しているのが離職率の高まりです。
2018年には運輸・郵便業で40%近い人材が入社3年で辞職しており、従業員を育てることが難しい時代に差し掛かっています。
離職率が高まると同時に、物流・運送業の需要は高まっています。その要因がEC市場の成長です。
2018年には全体で18.0兆円規模まで拡大したことで、宅配便の取扱件数は5年間で約6.7億個にまで急増しました。この結果、小口の取り扱いが増え、トラックドライバーや配達員の不足が深刻化しています。
他業界から人手を集めてでも、小口需要の急増に対応しなければならないのが、物流業界全体が抱えている課題です。
物流の営業が抱える課題
物流の営業分野が抱えている課題はどのようなものが挙げられるのでしょうか?
主な課題として、次の3つが挙げられます。
人手不足
一つは人手不足です。物流では現場の配達員やドライバーの不足に注目が集まる一方、営業担当者の不足も懸念されます。
物流業界においてもう一つ需要が高まっているのが、物流賃貸施設の存在です。世界同時不況の影響で一時下落した物流施設の整備ですが、近年は再び増加傾向に転じ、施設需要も高まっています。
物流賃貸契約を結ぶための競争熱も高まっており、シェア獲得のためには営業に力を入れなければなりません。そのための営業人材の必要性も同時に大きくなっています。
参照元:経済産業省「物流を取り巻く動向と物流施策の現状について」
負担の大きな労働環境
上述した離職率の高まりやドライバーの不足によって、営業担当に割ける人員も各組織で減少傾向にあります。そのため、営業担当者は必然的に多くの業務をこなさなければならず、慢性的な負担増加が問題として取り上げられてきました。
負担の大きい労働環境が常態化すると離職を促すだけではありません。新規に人手を確保することも難しくなるため、早急に改善が必要な問題です。労働環境を改善し、働きやすい職場づくりを進めることは重要です。
顧客の多様化
物流業界はクライアントも多様化の傾向を見せており、一人ひとりのニーズに対して応えなければならない傾向も見られます。
交通インフラやオンラインサービスが向上したことで、ECなどでも扱える商品のバリエーションは非常に豊かになっています。
そのため、さまざまな形状の荷物や、性質を持った荷物を物流企業が扱うケースも増えています。クライアントの期待に応えなければ新しいクライアントを確保することは難しくなりました。
潜在顧客のニーズを正しく汲み取り、必要なサービスを提供できることを伝えられる営業活動が、今日の物流には求められています。
物流の営業課題を解消する方法
このような物流業界における営業課題を解消する方法としては、次の2点が注目されています。
インサイドセールスの導入
一つ目は、インサイドセールスの導入です。
インサイドセールスとは成約の見込みが高い顧客を把握し、顧客を中心とした営業アプローチを実施していく営業手法です。
従来の営業活動では手当たり次第に顧客名簿を参考にしながら、営業を行うことが一般的でした。この場合、見込みの低い顧客に対してもアプローチしてしまうので、スムーズな成約が得られる確度は低いものです。
一方で、インサイドセールスは確度の高い見込み客を選ぶところから始めるため、成約の可能性が高い状態で営業を行えます。インサイドセールスには業務効率化などの多くのメリットがあり、近年は様々な業種で導入されている営業手法です。
DX化
インサイドセールスの実施を前提としつつ、物流業界に必要とされているのがDXの推進です。
DXは「デジタルトランスフォーメーション」の略称で、業務にICTを導入するなどして、大幅な効率化や業務の刷新を促そうという取り組みです。
伝票管理や顧客情報の管理など、業務を自動化させる余地は物流業界にも広く残されており、テクノロジーの活用で多くの課題を解消することが可能です。
一口に「DX」と言っても、適用範囲やそのスケールについてはさまざまです。代表的なものは、ロボットの導入による業務の自動化ですが、いきなり高度なDXを実現する必要はありません。
紙の書類の廃止やデータベースの一元化など、できる範囲から進めていくことがDXでは求められます。
デジタルトランスフォーメーション(DX)とICT・IoTはどう違う?ビジネスにおけるDXの定義を解説
物流業界においてインサイドセールスを導入するメリット
インサイドセールスを物流業界に導入することで、さまざまなメリットが期待できます。代表的なメリットを確認しておきましょう。
営業効率を改善できる
インサイドセールスのメリットで大きいのが、営業効率の改善です。
インサイドセールスを実現するためには購買意欲の高い顧客と、そうでない顧客を分類する必要があります。見込み度の高い顧客には積極的にアプローチすることで円滑な成約を促せるため、必要最低限の時間と労力で結果を得られます。
逆に、成約の見込みが低い顧客に対しても、興味・関心に合わせたアプローチを展開できます。メールマガジンの配信やウェビナーの案内など、自社や自社商品に興味を持ってもらうための施策を実施し、少しずつ確度を高められます。
現時点で興味を持っていない人へ強引にアプローチし、顧客との関係が断たれてしまうリスクは低減するでしょう。
人手不足の解消につながる
上記のような営業効率の高まりを受けて、必然的に営業に必要な人数が減少するため、人手不足の解消にもつながります。
営業に必要な人手が少なくなることで、人手が足りていない別の部署へ人材を配置できるようにもなります。営業効率の向上によって、結果的に企業全体の人手不足解消にもつながる点は見逃せないメリットだといえるでしょう。
属人化を予防できる
営業効率を低下させる懸念として、業務の属人化が挙げられます。営業担当者個人に顧客情報やデータベースが依存してしまうことで、引き継ぎの際の負担が大きくなる可能性があるためです。
また、その担当者が異動や退職でいなくなった場合、蓄積してきた顧客情報が丸ごと失われてしまう可能性もあります。
こういったリスクを回避する上でも、インサイドセールスは有効です。実行の過程で顧客データを一元化したデータベースを作成することになるため、顧客データの属人化は解消され、企業の所有するデータとして活用できます。
新規顧客を創出できる
インサイドセールスは、Web運用などこれまでとは異なるアプローチでセールスを実施するため、その過程で新しい顧客の創出も促せます。ホームページの開設やセミナーイベントの実施などによって、新たに自社サービスへ興味を持ってくれるユーザーが現れるようになるためです。
既存顧客とのコミュニケーションを維持するために役立つことはもちろん、新しいターゲットの拡大にもつながるので、積極的に活用したい営業手法です。
物流営業向けインサイドセールスの主な方法
物流業界の営業では、どのようなインサイドセールスの実施が有効なのでしょうか?主な手法について紹介していきます。
Webサイト集客・SNS活用
インサイドセールスを実施する上で、素早く展開できる施策の一つがWebサイト集客です。オリジナルコンテンツの発信や自社商品の紹介を積極的に展開することで、ネット上から新規顧客の創出を進められます。
ホームページに問い合わせ窓口や資料ダウンロードのチャネルを開設することで、見込み客を発掘したり、見込み客の関心度の高さを割り出したりすることも可能です。展示会やセミナーなどとのイベント施策と合わせ、相乗効果を期待できます。
また、Webサイト集客と合わせて活用したいのが、SNSです。SNSの発信力は非常に高く、定期的な運用を継続することで、Webサイトへの誘導をスムーズに行えるようになり、検索エンジンに依存することのない顧客創出を実現します。
Web運用においては、ホームページとSNSの両方を併用することが重要です。
オンライン商談システム
インサイドセールスの効率を高めるためには、オンライン商談システムの導入も求められます。いわゆるビデオ会議ツールやチャットシステムを導入し、オンライン上で顧客とコミュニケーションを取れる環境を整備するというものです。
インサイドセールスにおいては、確度の高い顧客に対して電話営業を行うことももちろん大切ですが、電話以外のコミュニケーション手段も必要になります。電話をするほどではないが、商品について質問がある時などには、テキストチャットによる問い合わせ機能が活躍します。
また、遠隔地の顧客との商談には、オンライン会議システムが有効です。ビデオ通話で商談を行える環境を整備しておけば、直接対面で話さなくとも意思疎通が取れます。従来の営業であれば直接現地に赴いたりする必要もあり、移動コストが大きくのしかかっていました。
オンラインで商談できるシステムを整備すれば、こういった負担の発生も抑制し、社内やテレワーク環境から関係構築を進められます。
オンライン商談ツールとは?導入のメリット・デメリットと成功事例
CRM・SFA
顧客情報を整理し、営業活動に活かすためには専用のシステムを導入するのがベターです。いわゆるCRMやSFAといったツールの導入ですが、これらの導入はインサイドセールスの実現へ大いに役立ちます。
CRMは、顧客データベースの作成や顧客対応のステータス管理を行えるツールです。SFAは、顧客データベースを活用し、見込みの大小をスコアにして把握したり、営業担当者のスケジュール管理などに活躍したりする支援ツールです。
インサイドセールスに必要なデータの蓄積と活用を、これらのサービスによって実現します。自社が抱える課題に応じて、これらのツールを使い分けましょう。
SFAとCRMの違いとは?機能・得意領域を比較!おすすめツールも
物流の営業におけるDX導入事例
最後に、物流業界の営業部門にもたらされたDX事例について紹介しておきましょう。
SBSロジコム株式会社
SBSロジコム株式会社では、CRMツールの「eセールスマネージャー」を導入したDX推進が行われました。
営業案件の進捗管理に課題を抱えていた同社では、正確かつスピーディーな情報共有を実現すべく、CRMの導入を決定しました。結果、週報の共有は半自動的に行われるようになり、顧客や案件の管理も一元化され、営業活動の効率化につながっています。
また、以前から問題になっていた成約率の異常値検出の問題も解消され、正しい成約率の把握が可能となりました。これによって営業活動における改善点を正確に把握し、実行に移すプロセスを改善することにも成功しています。
株式会社スクロール360
株式会社スクロール360では、ICTを活用した最新鋭の物流センターを構築することによって、営業活動をはじめとするさまざまな課題解決を促進しています。
茨城県つくばみらい市に設置された物流センター、「スクロールロジスティクスセンターみらい(SLCみらい)」は、延べ床面積が約3万平方メートルという巨大なスペースを確保しているだけでなく、データ管理や分析によって最適導線などのマーケティング機能も有しているシステムを搭載しています。
リピート通販やロングテール系商品の取扱いに長けたノウハウを活用すべく、受注処理や問い合わせ処理といった付帯業務も一元化して対応できる仕組みを備えました。
また、今後は蓄積したデータのさらなる活用を目指し、顧客ニーズに最適化された梱包の提供や、マーケティングオートメーション(MA)ツールの開発にも着手していくとのことです。
シモハナ物流株式会社
シモハナ物流株式会社では、営業活動を円滑にするためのビデオウォールシステムを導入しました。壁全面を覆うようなスクリーンはインパクトのあるプレゼンテーションの進行などに役立ちますが、その操作性が課題となります。
今回導入したスクリーンは、タブレットからコントロールできる仕様となっており、タッチパネル感覚で利用できるのが特徴です。社内での全体会議の実施や、顧客向けのプレゼンテーション、会社説明会など様々なケースでの運用ができるため、印象的な情報共有を実現します。
ワイズ通商株式会社
ワイズ通商株式会社では、紙ベースの訪問先情報収集や営業日報を解消し、デジタル化を実現しました。
紙媒体で記録してきたこれらのデータは、担当者への引継ぎや拠点間の情報共有において負担が大きい業務としてのしかかっていました。
これらのデータを丸ごとデジタル化し、日報管理システムに一元化することで、担当者の引き継ぎは円滑に行われ、漏れのない情報共有を実現しています。
適切な情報共有が行われることで、顧客との密接な関係構築を促進しただけでなく、広いエリアを移動する営業担当者や、地方の営業所で活動する担当者の動きもリアルタイムで把握できるようになり、管理業務の効率化も実現しました。
まとめ
物流業界は人手不足が悪化している業界の一つですが、改善の余地も広く残されています。営業部門はインサイドセールスのような新しい取り組みを実践することで、業務効率化や人材不足の解消を進められます。
大企業ではAIやロボットの導入によって、デジタル化を一気に進めているケースも見られますが、必ずしもこのような大きな取り組みを実行する必要はありません。まずはスモールスタートでシステムの導入を進め、営業課題の解消を実施していきましょう。