中小企業が市場の中で大企業に勝つためには、集中戦略が有効です。集中戦略はマイケル・ポーター氏が提唱した企業戦略で、日本でも多くの企業が採用しています。
今回は、集中戦略の基本的な部分から、メリットやデメリット、実際に集中戦略を行っている企業の事例までを紹介しています。自社の集中戦略を行う際の参考にしてみてください。
集中戦略とは
集中戦略とは、その名のとおり特定のターゲットに絞って集中的にビジネスを行う戦略です。集中戦略の特定のターゲットとは、企業によって異なります。
- ・特定の「顧客」をターゲットにする企業
- ・特定の「地域」をターゲットにする企業
- ・特定の「製品」をターゲットとする企業
など、企業戦略によってターゲットは変わってきます。
集中戦略は特定のターゲットに絞って集中的に企業資本を投入するため、資本力に劣る中小企業で多く採用されている手法です。2019年の「中小企業白書」(中小企業庁)によれば、約65%の企業が集中戦略を行っていると回答しています。
中小企業が行っている集中戦略は、主に次の2つの戦略に分類されます。
- ・コスト集中戦略
- ・差別化集中戦略
それぞれの集中戦略について解説していきます。
コスト集中戦略
コスト集中戦略とは、企業がターゲットにした市場に対して、低コストで商品を顧客に提供することで、競合他社よりも市場の中で優位になる戦略です。商品を作る原材料のコストを減らすなどすることで、競合他社よりも低コストでの商品提供を行います。
低コストで商品を提供することで、多くの利益を得る戦略です。
差別化集中戦略
差別化戦略とは、企業がターゲットにした市場の中で、競合他社との差別化を図ることで、市場の中で優位になる戦略です。差別化を行うものは企業戦略によってさまざまです。
商品はもちろん、ブランドでの差別化、サービス内容や販売チャネルなど自社の強みを活かす差別化が重要です。コストに頼らない戦略のため、中小企業で多く採用されており、先に挙げた2019年の「中小企業白書」(中小企業庁)によれば、56.6%の企業が差別化集中戦略を行っていると回答しています。
集中戦略を取るメリット
企業が集中戦略を取るメリットは、主に次の2点です。それぞれのメリットについて、解説していきます。
- ・競合他社との競争が避けられる
- ・経営資源を最大限活用できる
競合他社との競争が避けられる
集中戦略は、他社も狙わないニッチな市場をターゲットにする場合が多いため、競合他社との競争が避けられるメリットがあります。自社の強みを活かすことができ、他社と差別化できる市場はブルーオーシャンであるため、競合との競争を避け、利益を独占できる可能性もあります。
また、ターゲットとする市場が小規模の場合、大企業が入ってきにくいというメリットもあります。なぜなら、大企業が小規模の市場に参入してきた場合、利益確保が難しいからです。
こうした自社が独自に開拓した市場へ集中的に経営資源を投資すれば、他社の参入を防ぐことにもつながります。
経営資源を最大限活用できる
集中戦略は他の市場に目を向ける必要がないため、自社の経営資源を最大限活用できます。
大企業の場合だと、経営資源を分散させるなどして、満足に投資できないことも多いです。しかし、中小企業の集中戦略は一点突破であるため、特定の市場において大企業に勝てる可能性は十分にあります。
全体の経営資源で負けていても、ターゲットにした分野だけでも勝てれば、大企業からシェアを奪うことにもつながります。経営資源を最大限活用できるので、得られる利益も最大化が可能です。
集中戦略を取るデメリット
反対に、集中戦略を取るデメリットもあります。集中戦略のデメリットは、主に次の2点です。それぞれのデメリットについて解説していきます。
- ・大企業が参入してくる可能性がある
- ・環境の変化に弱い
大企業が参入してくる可能性がある
集中戦略を行っても、資本力のある大企業が参入してくる可能性は十分に考えられます。
メリットの章でターゲットとする市場が小規模の場合、大企業が入ってきにくいとお伝えしました。しかし、市場が思っていたより大きかったり、利益確保が可能と大企業が判断したりした場合などは、参入してくることもあるでしょう。
中小企業と異なり、大企業は豊富な経営資源を持っているため、参入されてしまうと対抗することが難しくなってしまいます。そのため、自社がすでに集中戦略でニッチな市場を独占している場合、利益率の調整などを適宜行うことが大切です。また、新たに集中戦略を行う際は、市場分析を綿密に行う必要があります。
環境の変化に弱い
ニッチな市場は、大企業の参入など環境の変化が起きた場合、変化に弱いというデメリットがあります。なぜなら、小規模の市場だったものが、どんどん大きな市場に成長してしまい、集中戦略を行っても大企業に太刀打ちできなくなってしまうからです。
そのため、ニッチな市場を独占しているからといって、市場規模を大きくしてしまうと大企業にシェアを奪われてしまう可能性も高くなってしまいます。
他にも、社会的なニーズが市場の中で変わってきた場合、ニーズの変化に対応できなければ、市場シェアは奪われてしまいます。そのため、変化に柔軟に対応ができる姿勢であるとともに、市場を大きくしすぎないように配慮することが必要です。
集中戦略で優位性を保つコツ
集中戦略で優位性を保つためには、闇雲に集中戦略を行っては叶いません。ここでは、集中戦略で優位性を保つコツを2つ解説します。具体的には次の2点です。
- ・ターゲットとする市場は狭くする
- ・ユーザーとのコミュニケーションを意識する
ターゲットとする市場は狭くする
集中戦略を行う際は、とにかくターゲットとする市場は狭くすることが大切です。なぜなら、市場が狭ければ狭いほど、経営資源を投入するコストは低くなり、大企業の参入も難しくなるからです。「自社が設定した市場はさらに細分化できないか」「ターゲットする市場をより狭めることで、市場を独占できないか」などを考えると良いでしょう。
今日の多くの大企業も、初めは小さな市場をターゲットとして事業を行っており、徐々に拡大していきました。
たとえば、今や世界的なSNSツールであるFacebookは、初めはハーバード大学の学生のみが対象の非常に小さな市場でした。ハーバード大学の市場の中で優位性を確保し、規模を拡大していき、現在の姿があります。
そのため、ターゲットとする市場は狭くし、スモールスタートを心がけることが大切です。
ユーザーとのコミュニケーションを意識する
ユーザーとのコミュニケーションを意識することも、集中戦略には大切です。なぜなら、コミュニケーションを疎かにし、ユーザーのニーズを把握できなければ、市場でシェアを奪うことはできないからです。
そのため、ユーザーとのコミュニケーションを大切にし、ユーザーは何を望んでいるのか、何を求めているのかを把握することが大切です。ユーザーのニーズが把握できれば、ターゲット市場の中で適切な商品やサービスの提供につながり、顧客満足度の向上にもつながります。
中小企業が集中戦略で優位性を保つためには、ユーザーとのコミュニケーションをより意識して活動していくと良いでしょう。
集中戦略を取る上での注意点
先述したとおり、集中戦略は特定の市場に経営資源を集中的に投入します。集中戦略によってシェアを奪いやすくなる反面、環境の変化に弱いことがデメリットです。
そのため、集中戦略には相応のリスクがあることを押さえておくことが大事です。たとえば、「集中戦略を行った市場が縮小する」「ニーズがなくなってしまい消滅してしまう」などがあります。せっかく集中戦略でシェアを奪ったとしても、市場がなくなってしまっては経営が成り立たなくなってしまいます。
他にも、サービスでの差別化を図る分、価格を高く設定するなども、価格が高くなりすぎてしまうと顧客に受け入れられなくなってしまうなども考えられます。そのため、常にリスクを想定しながら、集中戦略を取っていくことが大切です。
集中戦略を取った企業の具体的な事例
最後に、集中戦略を取った企業の具体的な事例を紹介します。代表例は次の5つの企業です。
- ・KFCコーポレーション
- ・株式会社しまむら
- ・スズキ株式会社
- ・有明産業株式会社
- ・シャープ株式会社
それぞれがどのような集中戦略を取ったのか具体的に解説するので、ぜひ参考にしてみてください。
KFCコーポレーション
KFCコーポレーションは、ファストフードのお店として親しまれています。ファストフードとしてのシェアを広げていくため、KFCコーポレーションは自社のマーケットを「フライドチキン」に絞る差別化集中戦略を取り、成功を収めています。
ファストフードの最大手企業はハンバーガーチェーンの「マクドナルド」です。KFCコーポレーションはマクドナルにはない、「フライドチキン」にシェアを絞ることで経営資源を集中投入できる環境を整えています。
また、昨今のコロナ禍の中でテイクアウト需要の拡大を受け、さまざまなパッケージ商品を展開しました。こうした戦略の結果、2020年度第1四半期のチェーン売上は過去最高のものとなっています。
株式会社しまむら
ファッションセンターを展開している株式会社しまむらは、ターゲットを「郊外に住む20〜50歳の主婦層」に絞る集中戦略を取ることで成功を収めています。加えて、大量生産ではなくコストを徹底的に抑えた少量生産を行うことで、顧客のニーズに柔軟に対応できるようにしています。
さらに、しまむらはコロナ禍によって店舗へ足が向かなくなってしまったというニーズに応え、ECサイトの開設も始めました。顧客とのコミュニケーションを重視し、環境の変化に柔軟に対応して集中戦略を成功させている好例といえます。
スズキ株式会社
自動車メーカーであるスズキ株式会社は、自動車市場の中でターゲットを「軽自動車」に集中しています。軽自動車や小型車に特化することで、他メーカーの高級車などとの差別化に成功しています。長年にわたり軽自動車に特化したことで「軽自動車はスズキ」という企業ブランドの確立にも成功しました。
また、海外への展開でも、他のメーカーが目をつけていなかったインドに1983年から進出しています。そのため、インドでのスズキの自動車のシェアは5割を超える成功を収めています。
有明産業株式会社
有明産業株式会社は、洋樽の製造・販売を行う会社です。有明産業は元々洋樽市場の中で価格競争を行ってしまい、市場の中で停滞していました。そのため、商品の差別化に着手しました。
具体的には、「洋樽は調味料にもなり得る」という観点から、「焼き加減を変えることで酒のフレーバーが変わる樽」などを販売し、他社との差別化を図りました。現在では、洋樽市場の中での地位も確立し、新しい需要の創出なども積極的に行っています。
シャープ株式会社
家電メーカーとして知られているシャープ株式会社も、集中戦略を行っていました。しかしシャープの集中戦略は失敗に終わってしまい、経営難へとつながってしまいました。
シャープが行った集中戦略は、「液晶テレビへの経営資源の投入」です。液晶テレビは市場のニーズが高まったこともあり、シャープは市場への参入を行いましたが、2つの要因から失敗に終わっています。
一つは、「液晶テレビの製造コストが上がったこと」です。シャープは液晶テレビに取り付ける液晶パネルの開発に多くの経営資源を投入したことで、開発費や開発に伴う人件費がかさんでしまい、製造コストが上がってしまいました。
また、加えて液晶テレビのニーズも落ち込んでしまい、大量の液晶テレビを在庫として抱える結果となってしまったのです。
二つ目は、「市場分析の甘さ」です。当時、液晶テレビの市場は韓国や中国のメーカーが、安価な製品を提供することでシェアを得ていました。シャープはこうした市場分析を甘く見積もってしまい、シェアを奪うに至りませんでした。
こうしたシャープのような失敗を犯さないためには、詳細な市場分析や自社の強みを活かす市場を見誤らないことが大切です。
まとめ
多くの中小企業が集中戦略を採用しています。中には、大企業でも手を出すことができない市場で高い利益率を出している中小企業も多くあります。
集中戦略によって市場の中で優位性を出すためには、市場の分析はもちろん、自社の強みを活かせるかどうかも重要です。自社で集中戦略を行う場合は、過去の事例なども参考に、どのような市場が良いか、またどのようなリスクがあるかを考えてみてください。
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