企業が事業を行っていく中で、競合他社との競争は避けられません。そのため、自社が他社との競争を有利に進めるためには、市場の中で競争優位性のあるポジションを獲得することが大切です。
今回は、企業が競争優位性を得るために考えるべき戦略や分析手法を解説していきます。ぜひ本記事を参考に、自社の競争優位性を考えるきっかけにしてみてください。
競争優位性とは何か?
競争優位性とは、ビジネスにおいて自社が他社よりも有利なポジションにいることです。有利なポジションにいるためには、競合他社がマネできない独自性を出したり、競合他社ができないレベルで事業を行ったりすることが必要です。
現在の市場において市場占有率が高い事業を行っている企業は、この競争優位性を持っている企業であると言えます。反対に競争優位性がない企業は他社との差別化ができず、顧客の獲得もできず、売上が落ち込んでしまいます。
アメリカの経営学者であるコトラーは、競争優位性について「今日ではほとんどの優位性がその意義を失っており、持続可能なものはごくまれである」と述べています。
競争優位性を長年の間保つことは容易ではありません。競争優位性を勝ち取り持続していくためには、時代や環境、社会の変化に柔軟に対応していく必要があります。
競争優位性を高めるために効果的な戦略
競争優位性の構築に効果的な戦略は、主に次の3つの戦略が挙げられます。
- ・コストリーダーシップ戦略
- ・差別化戦略
- ・集中戦略
これらはアメリカの経済学者であるマイケル・ポーターが提唱した「3つの基本戦略」です。1980年にマイケル・ポーターが提唱して以降、世界中のさまざまな分野で取り入れられています。
コストリーダーシップ戦略
コストリーダーシップ戦略とは、事業にかかる経済的コスト(原材料費、流通費、販売費、管理費など)を抑えていくことで、価格の優位性を構築させ市場シェアを獲得する戦略です。
経済的コストを抑えることで、提供する商品やサービスも安価にできるため、多くのシェアを獲得することにつながります。また、低コストに抑えることで、高い利益率を出すことも可能です。
一方で、コストリーダーシップを業界内で複数の企業が追求してしまうと、過度な価格競争に陥る可能性もあります。そのため、業務の標準化による効率化や、大量生産を行うことによる価格優位性を目指すことが必要です。
なお、価格優位性の要因には、次の2点が挙げられます。
- ・規模の経済
- ・経験曲線効果
規模の経済
「規模の経済」とは、生産規模が大きくなればなるほど、一つの製品にかかる費用が低下するため、利益率が向上する現象のことです。たとえば、新型コロナウイルスのワクチンでも、世界中で大量生産を行ったアメリカ製薬大手ファイザーは、2021年の利益が前年比2.4倍まで上昇しています。
経験曲線効果
「経験曲線効果」とは、製品の累積生産量が増えていくと作業の効率化が進み、一つの製品に対するコストが減少していくというものです。
たとえば、ある商品の梱包作業を行う業務では、同じ手順を繰り返すため、数をこなせばこなすほど作業に慣れていきスピードが上がっていきます。そのため、属人化が多い業務は、より大きな曲線を描くことが多くなることが特徴です。
一般的に、累計生産数が2倍になれば、ひとつの製品に対するコストは10%〜30%減少するとされています。多くの経験をすることで、生産性向上が期待できるのが、「経験曲線効果」です。
差別化戦略
差別化戦略とは、自社が競合他社とは異なる独自性を発揮し、他社にはない価値を顧客に提供することで、市場シェアを獲得する戦略です。
差別化戦略では、単純に競合他社と異なる商品を開発したり発売したりすれば良いのではなく、顧客が商品に価値を感じてもらうことで初めて成り立ちます。そのため、差別化戦略では、次の4つをポイントに進めていくことが必要です。
- ・製品・サービスの特徴
- ・立地条件(地理的ロケーション)
- ・販売チャネル
- ・ブランド
製品・サービスの特徴
「製品・サービスの特徴」とは、文字どおり提供する製品・サービスに他社にはない特徴をつけることで差別化を図ることです。たとえば、商品の機能はもちろん、デザイン性やアフターサービスなども差別化の要因になります。
立地条件(地理的ロケーション)
「立地条件(地理的ロケーション)」とは、店舗を運営する場所です。
たとえば、ゆったりとした客層を求めているのであれば、ショッピングセンターのような人が多く集まる場所ではなく、閑静な住宅街などで店舗を構えるのが良いでしょう。また、キャラクターの商品を扱うのであれば、秋葉原のような特定の業種が集まるエリアに出店するのも一つの方法です。取り扱う商品によって、立地条件は異なります。
販売チャネル
「販売チャネル」とは、顧客がどのように商品を手に入れられるかを示すものです。
日用品や消耗品であれば、すぐに手に入りやすいことが他社と比較して優位になります。一方で、希少品が優位に働く場合もあります。
そのため、自社が展開したい商品やサービスはどのような販売チャネルが適しているのかを、きちんと判断することが必要です。
ブランド
「ブランド」とは、顧客からの信頼を獲得し、市場の中で唯一無二の存在となることで、優位を図ることです。
ブランドは、「商品ブランド」はもちろん、「企業ブランド」や「事業ブランド」など多岐に渡ります。こうしたブランド力を高めることができれば、多くの顧客を取り込むことができ、優位なポジションを取ることが可能です。
一方で、ブランドの構築には長い時間が必要です。そのため、短期的な施策ではなく、中長期的な視点で行動していくことが大切です。
集中戦略(ニッチ戦略)
集中戦略(ニッチ戦略)とは、狙っている市場の中でもさらに特定のターゲットに絞ってアプローチをかける戦略のことです。市場の中でも細分化された市場に注力することで、コスト削減を図ったり、他社との差別化を図ったり、その両方を目指すことを目的としています。
たとえば、化粧品市場の中でも「男性」「40代」「化粧水」のように、特定のターゲットに絞った戦略です。
集中戦略を行うためには、自社が目標とする売上を達成できる一定規模の市場であることが重要です。また、特定のターゲットに狙いを絞るため、競合他社との差別化が図りやすい反面、目標の売上達成のためにはより深いところまで市場ニーズの深掘りが求められます。
競争優位性に必要な分析・フレームワーク
自社が市場の中で競争優位性を示すには、分析が欠かせません。競争優位性に必要な分析やフレームワークには、次の2つが挙げられます。
- ・VRIO分析
- ・ファイブ・フォース分析
それぞれの分析手法について解説していきます。
VRIO分析
VRIO分析とは、「Value(経済価値)」「Rareness(希少性)」「Imitability(模倣困難性)」「Organization(組織)」の頭文字を取ったもので、4つの観点から自社の経営資源を分析する手法です。
それぞれの観点で見ていく項目は、次のように分けられます。
- ・Value(経済価値):自社の商品やサービスが、社会にどれだけの利益をもたらしているか
- ・Rareness(希少性):自社の商品やサービスが、市場においてどれほど希少なものか
- ・Imitability(模倣困難性):自社の商品やサービスが、競合他社にマネできないものになっているか
- ・Organization(組織):自社が上記のValue(経済価値)、Rareness(希少性)、Imitability(模倣困難性)をきちんと認識して、強みを活かす組織作りをしているか
それぞれの観点から自社の強みと弱みを客観的に把握し、経営資源の評価を行っていきます。その後、自社の競争優位性をVRIO分析の結果から考えていきます。
すべての観点が優れているのであれば問題ありませんが、どの企業でもいずれかに課題や問題点が出てくることがほとんどです。そのため、VRIO分析でわかった課題を解決していくことで、競争優位性を高めていくことが目的になります。
たとえば、Value(経済価値)に課題があれば、顧客とのニーズがズレている可能性があると考えられるため、アンケートやヒアリングをより深く行って改善していくといった形です。また、Rareness(希少性)に課題があれば、地域限定品を展開したり、より立地にこだわって展開したりすることなどが考えられます。
このようにVRIO分析を行うことで、自社の競争優位性を高めるための要因が見えてきます。
ファイブ・フォース分析
ファイブ・フォース分析とは、自社が市場において置かれている競争環境を5つの要因から分析していく手法です。ファイブ・フォース分析で見ていく5つの要因とは次のようなものです。
- 1. 競争企業間の敵対関係
- 2. 供給企業の交渉力
- 3. 買い手の交渉力
- 4. 新規参入業者の脅威
- 5. 代替品の脅威
上記の5つの要因のファイブ・フォース分析を通して、市場内での自社の強みや弱みを理解することができ、利益を出しやすい戦略を取ることにつながります。
競争企業間の敵対関係
「競争企業間の敵対関係」とは、競合他社との競争のことを指します。ここでの分析は、製品そのものはもちろん、価格や流通チャネルなど市場内でのシェアを分析していきます。
競合他社と比較し、自社の商品の特徴は何かなどを分析していくことが目的です。
供給企業の交渉力
「供給企業の交渉力」は、希少価値の高い商品やブランド力のある商品を取り扱う企業は、市場の中で高いシェアを誇るため交渉力が高くなります。一方で、差別化が難しい製品を扱っている場合は交渉力が低下します。供給元の企業との力関係やコストなどを考えていくことが目的です。
買い手の交渉力
「買い手の交渉力」は、多店舗展開している企業や集客力のある人気店の場合、仕入れ価格などの交渉を強気に行えることが特徴です。一方で、集客できない店舗や販売力が低い店舗は、仕入先との交渉力が低下します。
売り手との力関係は適切になっているか、値引き競争に陥っていないかなどを確認していきます。
新規参入業者の脅威
「新規参入業者の脅威」とは、文字通り異業種などから市場への新規参入のことです。新規参入があることで、これまでの業界の常識が覆されたり、競争がさらに激化するなどが起こりえたりします。新規参入者のブランド力はどうか、技術レベルはどうかなどを見ていくことが目的です。
代替品の脅威
「代替品の脅威」とは、自社が展開している既存製品よりも競争力の高い代替品について分析することです。機能面などの質はもちろん、コスト面や乗り換える際の手間などを分析していきます。
代替品が自社製品よりも優れている場合、市場シェアを奪われる恐れがあるため、早急な対策が必要です。
新規参入を防止する参入障壁
参入障壁とは、ある市場や業界に参入しようとした際に、参入を防ぐ障害のことです。
一般的に、新規参入がしやすい業界は競争力が上がり、業界の収益性が低下するといわれています。そのため、既存企業は参入障壁を高くすることで、新規参入を防止することが求められています。
中でも、次の5つの参入障壁が新規参入の防止に挙げられます。
- ・規模の経済性
- ・初期投資額
- ・流通チャネル
- ・特許などの専門的・独占的技術
- ・政府による規制、法による規制
それぞれの参入障壁について解説していきます。
規模の経済性
ある商品を大量生産できる環境が整っていると、一つの商品のコストを大きく下げることにつながります。そのため、利益率の向上が見込め、規模の経済性で大きくリードを奪えることが特徴です。
商品の価格を下げることにもつながるため、新規参入企業にとっては大きな参入障壁となります。
初期投資額
初期投資額が高い市場は、参入障壁が高いといえます。なぜなら、どんな市場でも初期投資額を必ず回収できる保障はないからです。そのため、初期投資額が高いとその分のリスクも高くなります。
流通チャネル
流通チャネルとは、商品をメーカーから顧客まで流通する経路のことです。既存企業によって流通チャネルが確立されていたり、独自に流通チャネルを構築する場合に多くの投資が必要になったりする場合、大きな参入障壁となります。
新規参入業者は既存業者を上回る流通チャネルを構築するのにも、多大な時間が必要になります。
特許などの専門的・独占的技術
業界で専門的・独占的技術が特許によって保護されている場合、新規参入企業は容易に技術を利用することができないため、高い参入障壁になります。
また、新規参入を行う場合でも、技術の利用に多額のライセンス料が必要となるなど、コスト高になるため大きな障壁となります。
政府による規制、法による規制
業界によっては、事業を開始するまでに事業認可を受けたり、届け出を行ったりする必要があるなど、手間がかかるものもあります。
たとえば、電気・ガス・水道などのインフラ事業や回線などを取り扱う通信事業です。事業開始までの時間とコストがかかるため、大きな参入障壁になります。
まとめ
自社の事業を成長させていくためには、きちんと戦略を練ったうえで、市場の中で競争優位性を築くことが大切です。市場内で有利なポジションを取ることができれば、より自社の成長にもつながっていくでしょう。
しかし、昨今のビジネスの変化は激しいため、たとえ市場で良いポジションを獲得しても、分析を行い続け、競争優位性を保ち続けることが大切です。今回お伝えした内容を参考に、自社の競争優位性が出せるポジションを探してみてください。
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