年末調整手続の電子化とは?義務化される?
年末調整手続の電子化は、デジタルデータを活用して申請や承認作業を行うものです。その年の1年間の間に会社から支払われた給与や差し引かれた所得税などを年末に見直し、払い過ぎた、差し引き過ぎた税金を調整することで、過不足をゼロにする作業です。
これまで、年末調整は紙媒体で行うことが一般的でしたが、近年では多くの企業で電子化されています。データでの処理が可能になったことで、紙面での申請書類を保管しておく必要もありません。そのため、年末調整に関する手続きはすべて電子媒体で実施可能です。
年末調整が電子化される背景
年末調整が電子化された理由は、事務処理の負担軽減に加え、迅速かつ適切に年末調整を処理できるようにするためです。働き方改革の一環として政府が2018年に見直した「税制改正」の中に「税務手続きの電子化等の推進」が課題の一つとして挙げられています。
税制改正は、働き方の多様化や賃金の底上げに対応し、法人税や所得税といった納税関係の処理を見直し、スムーズに納税するための環境構築を目的に実施されたものです。この2018年の税制改正がきっかけで、2020年度分からは年末調整の電子化が可能となりました。
そして、2022年1月の申告分からは、前々年度に発行した法定調書が種類ごとにみて100枚以上ある企業については、電子データでの申告が義務化されたのです。
年末調整の電子化に対する国税庁の対応
年末調整の電子化に対する国税庁の対応については、国税庁のホームページにて内容を確認できます。ここでは、主に「年末調整を電子申請するための手順」と「年末調整用のソフトウェア」の2つについて解説します。
年末調整を電子申請するための手順について
年末調整を電子申請するための手順(年調ソフトを使う場合)は、次のとおりです。
ステップ①:国税庁が提供している年調ソフト(PC・スマートフォン対応)をインストールする
国税庁の公式サイト・Microsoft Store・App Storeからインストール可能です。スマートフォンの場合はApp StoreやGoogle Playストアからインストールできます。
ステップ②:マイナポータルと連携しデータを取得する(マイナポータルに登録済みの場合)
マイナポータルAPのインストール→年調ソフトの「証明書の電子データをインポートする」→「マイナポータルから取得」で、控除証明書のデータを取得できます。
ステップ③:必要事項を記入する
年調ソフトの手順に沿って、必要事項を入力しましょう。年調ソフトに搭載された「控除ナビ」の機能を使えば、控除申告書の提出漏れを防ぎやすくなります。
ステップ④:CSVや申告書データとして出力する
年末調整の結果はCSV形式や申告書データとして出力可能です。ICカードリーダーとマイナンバーカードがあると、より簡単にデータ出力できます。
なお、年末調整を電子化するためには、マイナンバーカードの所持が必要不可欠となります。さらに、自宅でマイナンバーカードを利用して年末調整を電子化するためには、マイナンバーカードを読み込むための「ICカードリーダー」も必要です。
年末調整用のソフトウェアについて
年末調整用のソフトウェアについては、国税庁が提供する「年調ソフト」の他、民間の年末調整支援システムも利用可能です。
国税庁の年調ソフトは無料でできるメリットがありますが、基本的な機能しか備えていません。そのため、手続きに不備があると、処理が面倒になるといったデメリットがあります。
一方、民間の年末調整用のソフトは、導入コストはかかりますが、年調ソフトと比べ機能が充実しています。書類に不備があった際でも、スムーズな対応が可能です。また、民間の年末調整用のソフトウェアの種類については、後ほどおすすめのソフトウェアを紹介します。
年末調整の電子化で得られるメリット:従業員側
では、年末調整の電子化でどのようなメリットが得られるのかについて解説していきましょう。まずは、従業員のメリットに焦点を当ててポイントを紹介します。
年末調整の申告を効率化できる
1つ目のメリットは、年末調整の申告手続きを効率化できる点です。
従来の年末調整の場合、控除証明書などを書面で受け取り、紙の申告書にそこに記された情報を転記し、勤務先に提出するというものが一般的でした。パソコンを使って出力されたものをわざわざ手書きで転記し、その上で書類を完成させなければならないため多くの負担を要してきましたが、電子化によってこれらの負担を丸ごと回避できます。
年の瀬というただでさえ業務も忙しい中で年末調整も行わなければならないとなると、時間をかけることが難しくなります。手続きの負担を軽減できれば、その分落ち着いて申請ができます。
再発行などの手続きが不要になる
年末調整を電子化すると、再発行の手続きも不要になり、申請がやりやすくなります。
従来のような書面での年末調整手続きの場合、控除証明書等を紛失したとなると、証明書を発行・送付してくれる保険会社などに対し、再発行を依頼しなければなりません。再発行のための手続きが必要となるだけでなく、手元に届くまでには数日要することが一般的であるため、余計に時間がかかってしまいます。
一方で、年末調整を電子化するとこのような負担は発生しなくなります。証明書はすべて電子媒体で発行されるため、紛失のリスクがなくなるからです。
こういった証明書の管理の必要もなくなる点からも、電子化は従業員にとって多くのメリットをもたらしてくれるといえます。
年末調整の電子化で得られるメリット:会社側
続いて、年末調整の電子化による会社側のメリットを解説していきましょう。従業員にとって恩恵があることも会社のメリットの一つですが、他に3つメリットがあります。
控除額計算が不要になる
年末調整を電子化することで、従業員が電子申請によって作成した年末調整申告書データをそのまま利用できるようになります。そのため、会社側で計算を行わなくともそのまま手続きを進めることができるようになり、控除額計算が不要になります。
これまでは、一度計算していた年末調整の内容を、再度会社側で計算することが求められていたため、余計な作業が発生してきました。年末調整手続きの中でデジタルデータを一元管理できるため、担当者が従業員の申請内容を何度も計算し直す必要がなくなります。
確認作業が簡素化される
電子化された年末調整の申請では、確認書類の添付などが必要なくなるため、確認作業全般が簡素化されます。システム上の手続きが省略されることはもちろん、そもそも電子化によってヒューマンエラーのリスクが小さくなるため、確認や修正の負担も大幅に軽減されます。
申請手続きを電子化して行うためには専用のソフトを導入しなければなりませんが、フォーマットに記入するだけの簡単な仕組みとなっているだけでなく、不備があれば事前に通告してくれる機能を備えているため、ミスが起きにくい設計であるからです。確認に必要な負担が軽減され、効率良く年末調整に対応することが可能になります。
ペーパーレス化によるコストパフォーマンス改善が期待できる
年末調整の電子化では紙媒体を必要としなくなるため、業務のペーパーレス化を推進できます。
ペーパーレスの推進は、近年SDGsの観点からも重要視されています。不要な紙の使用を控えることが、企業の取り組みとして重視されているのです。
環境負荷を軽減できるだけでなく、ペーパーレスは企業のコストパフォーマンスの改善にも役立ちます。印刷用の紙を購入する負担から解放され、プリントアウトやコピーを取るための複合機も必要なくなります。
書類を保管するためのスペースやファイルの用意に伴う費用を軽減し、オフィスの縮小によって賃貸費用を抑えることも可能です。
年末調整を電子化することのデメリット
ここまでお伝えしたように、年末調整の電子化には多くのメリットが期待できます。一方で、注意しておきたいデメリットもあります。
導入には移行期間と予算を要する
年末調整の電子化には専用のソフトの導入が必要となるため、実装のための費用と時間が発生します。年末調整が必要になり、明日から使い始めるということは難しいため、早いうちから予算を確保し、実装に向けて取り組むことが大切です。
新しい業務フローを周知するのに時間がかかる
年末調整を、従来の紙での申請から電子化するとなると、新しい業務フローで従業員に取り組んでもらう必要があります。必ずしもすべての従業員が新しい環境へ迅速に馴染めるとは限らず、導入当初はトラブルが発生しやすくなるものです。
そのため、電子化に伴う新しい業務フローの周知を徹底し、時間をかけて使いこなしてもらうようにする必要があります。
年末調整の電子化のやり方・備えるべきこと
年末調整を電子化するためには、備えておくべきこともあります。ここでは、最低限実施しておくべき2つの準備を紹介します。
年末調整の電子化に対応するシステムを導入する
年末調整の電子化を実現するためには、それに対応したシステムの導入が必要です。ただエクセルで表を作成すれば良いというわけではなく、適切なフォーマットを自動で用意してくれたり、データ共有をオンラインで実施できるクラウドツールを提供してくれたりするサービスの利用が求められます。
年末調整向けのサービスを活用することで、迅速な年末調整環境の整備に役立つのはもちろん、導入前後のサポート対応も整っているため、自社に必要な機能や運用環境整備を確実に実現できます。
電子署名が行える環境を整える
電子署名が可能な環境を整備することも必要になることもデメリットだといえるでしょう。USBメモリやメールを使って申告書を提出する場合、それらには電子署名を付与したり、パスワードをかけたりする必要があるため、手軽に付与できる環境を用意する必要があります。
年末調整システムによっては、電子署名機能を搭載しているサービスもあるため、必要となる場合は確認しておくと良いでしょう。
年末調整で従業員が備えるべきこと
年末調整の電子化に向け、従業員側で準備すべき内容は以下の3点です。
- ・国税庁の年調ソフトor民間企業のクラウドサービスを取得
- ・控除証明書等データの取得
- ・控除申告書の作成
一つひとつ内容をみていきましょう。
国税庁の年調ソフトor民間企業のクラウドサービスを取得
年末調整の電子化には年調ソフトの取得が必要です。国税庁か民間企業が提供している年調ソフト、どちらかを利用する形になります。メリットとデメリットがそれぞれ異なるので、自社が使いやすい方を選択してください。
表:国税庁と民間企業の年調ソフトの比較
国税庁 | 民間企業 | |
---|---|---|
メリット | ・無料で利用可能 ・書類作成工数の削減 ・データを保存しておくと、翌年以降の作業も効率化可能 | ・優れた操作性 ・複数のシステムと連携可能 ・バックオフィス業務全般を効率化可能 |
デメリット | ・一定のITリテラシーが必要 ・ダウンロードに手間が発生 ・マイナンバーカードを取得している従業員が多くないと、マイナポータルの活用は困難 | ・月額費用が発生 ・自社に合ったソフトの見極めが必要 |
国税庁の年調ソフト
国税庁が提供している年調ソフトは、扶養控除等申告書や配偶者控除等申告書、保険料控除申告書など、各控除申告書を無料で作成できる年調ソフトです。
国税庁の年調ソフトを利用するメリットは、所得金額調整控除申告書や基礎控除申告書、保険料控除証明書など、控除額の計算やデータ入力を自動化できる点です。
さらに、提出用のデータを保存しておけば、次回年末調整を行う際にも保存しておいたデータを取り込み、書類作成に掛かる工数を削減できます。マイナポータルを併せて利用すると、行政手続きのオンライン化を促進できますが、従業員がマイナンバーカードを取得していない限り、実施できません。
また、年調ソフトはスマートフォンとPCからインストールできます。スマートフォンの場合、Google PlayストアやApp Storeからインストールしてください。
一方、PCの場合、以下のどちらかの手順を選択し、年調ソフトを入手してください。
WindowsでMicrosoft Storeから入手する場合
- 1. スタートメニューから[Microsoft Store」をクリック
- 2. 検索ボックスに「年末調整 国税庁」を入力
- 3. 検索結果から「令和4年分年末調整アプリ」をクリック
- 4. 説明ページから入手をクリック
参照:国税庁
国税庁のホームページから入手する場合
- 1. スタートメニューから設定アイコンをクリック
- 2. 「更新とセキュリティ」をクリック
- 3. 「開発者向け」をクリック
- 4. 「アプリのサイドローディング」をクリック
- 5. 国税庁のホームページへアクセス
- 6. 内容確認をしたらアプリをダウンロード
- 7. PCのローカルディスクへコピー
- 8. コピーした ZIP ファイルを選択し、右クリックして「すべて展開」を選択
- 9. 「CordovaApp.Windows10_(バージョン数)_x64.cer」を右クリックし、「証明書のインストール」を選択
- 10. 「証明書のインポートウィザード」の起動後、ローカルコンピューターから「次へ」を選択
- 11. 「証明書をすべて次のストアに配置する」を選択し、「参照」をクリック
- 12. 「信頼されたルート証明機関」へ進み、「OK」と「次へ」をクリック
- 13. 完了をクリック
参照:国税庁
民間企業のクラウドサービス
年末調整は人事労務担当者の作業負担も大きく、年末調整に特化したクラウド型のソフトを市場で販売する企業が増加しています。民間企業の年調ソフトは、ユーザーインターフェースに優れている点が特徴です。
情報が整理されたシンプルな入力画面が設定されており、操作性に戸惑うことなく作業を進められます。提出状況の進捗状況確認や情報管理もソフト上で行えるため、人事担当者の業務負担を軽減できます。
また、給与計算システムや人事労務システムと併せて利用すると、バックオフィス業務全般の効率化を実現可能です。そして、民間企業の年調ソフトを利用する場合、一定の月額料金は掛かりますが、ソフトウェアのインストールを行う必要はありません。
控除証明書等データの取得
書類作成に必要な控除証明書等データを取得する方法は、次の2つが挙げられます。
- マイナポータルを利用
- 保険会社等のホームページから取得
マイナポータルは、マイナンバーカードを従業員が取得していない限り、利用できません。
マイナポータルを利用
マイナポータルは、行政手続きや書類申請がオンライン上で完結できる政府運営のオンラインサービスです。マイナポータルを利用すると、年末調整に必要な複数の控除証明書等データの一括取得が可能になり、各保険会社等とのやりとりが必要なくなります。
ただし、マイナポータルを利用するためには、マイナンバーカードの取得やマイナポータルの開設が必要です。また、控除証明書を発行する保険会社がマイナポータルに対応していないと、データを取得できません。
保険会社等のホームページから取得
保険会社等のホームページにアクセス後、契約者向けページから必要なデータをダウンロードしていく形です。取得の手間は発生しますが、従業員にマイナンバーカードを用意してもらう必要はありません。
注意点としては、複数の保険会社等と契約している場合、各契約先から必要なデータを収集しなければいけない点です。手続きの方法はホームページ上に掲載されており、基本的には掲載手順に従って準備を進めていく形になります。
控除申告書の作成
年調ソフトと控除証明書等データを取得できたら、年末調整の提出に必要な書類作成に入ります。基本的には取得データを打ち込んでいくだけなので、難しい操作はありません。控除額の計算や控除判定など、難しい作業は年調ソフトが自動化で対応します。
また、期限内に提出を終えられるよう、人事担当者は丁寧なサポートを心掛けてください。
年末調整の電子化に役立つソフト・ツール
最後に、年末調整の電子化に役立つサービスを3つ紹介します。
奉行年末調整申告書クラウド
奉行年末調整申告書クラウドは、株式会社オービックビジネスコンサルタントが提供する、クラウド経由での電子化を進められる便利なツールです。申告書の配付・回収業務から、給与システムへの入力業務までの年末調整業務をすべてデジタル化することで、8割近い業務削減効果が見込めます。
料金プラン:
- 年間利用料:8,000円
- 月額33円/人
公式サイト:
マネーフォワード クラウド年末調整
マネーフォワードクラウド年末調整は、株式会社マネーフォワードが提供する、年末調整業務をWeb上で完結できる使いやすいクラウド電子化サービスです。
準備・配布・入力・回収の手間を削減し、従業員と担当者の両方に恩恵をもたらしてくれます。e-Tax、eLTAXにも対応できるため、税務手続きをさらに簡略化可能です。
料金プラン:
- 2,980円/月〜
公式サイト:
ジョブカン労務HR
ジョブカン労務HRは、株式会社 DONUTSが提供する、年末調整を含め労務管理業務全般をすべてクラウドで実現できる便利なサービスです。
年末調整はもちろんのこと、給与や人事評価、各種申請手続きをまとめて実施できる機能を備えているため、オールインワンで幅広く対処できます。兄弟サービスと併せて導入することで、バックオフィス業務を連携させて丸ごと刷新し効率化できます。
料金プラン:
- 無料プランあり(一部機能制限)
- 月額400円/人〜
公式サイト:
まとめ
年末調整の電子化について、年末調整の電子化が義務となった理由や、年末調整を電子データで申告する際の流れ、電子化のメリットやデメリットなどについて解説しました。
前々年度に発行した法定調書が、種類ごとにみて100枚以上である企業については、年末調整の電子化が義務化されています。年末調整を電子化することで、事務処理の負担軽減に加え、迅速かつ適切に年末調整を処理できるようになります。
また、今後も時代の流れから、年末調整の電子化の対象となる企業は増加すると考えられるでしょう。年末調整の煩雑な手続きを正確かつ素早く実施するためにも、国税庁の年調ソフトや民間の年調ソフト支援ソフトの導入を検討してみましょう。
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