給与明細の電子化は、業務効率化やコスト削減、利便性の向上など、企業と従業員の双方に大きなメリットをもたらします。しかし、書面から電子化へ移行するには、従業員の同意を得たり、ツール導入に備えてセキュリティ対策を強化したりする必要があります。
今回は、給与明細電子化のメリット・デメリットと導入の手順、給与明細の電子化に役立つ主要ツールを紹介します。
給与明細は電子化できる?
そもそも給与明細の電子化とは、これまで紙で交付していた給与明細書を電子化してクラウドやメール経由で交付することをいいます。所得税法では、「会社は従業員に給与を支払う際、給与明細書を交付する義務がある」とされていますが、給与明細を電子化することは可能なのでしょうか?
結論からお伝えすると、給与明細を電子交付することは可能です。具体的には、税制改正により2007年以後、従業員の承諾・同意がある場合、「給与所得の源泉徴収票」および「給与の支払い明細書」を電子交付することが可能になっています。
給与明細を電子化するメリット
では、給与明細を電子化することにはどのようなメリットがあるのでしょうか?管理者側と従業員側のメリットをそれぞれ解説していきましょう。
管理者側のメリット
給与明細の電子化は、労務担当者に下記のようなメリットをもたらします。
- ・業務工数・負担を低減できる
- ・業務を効率化できる
- ・コストを削減できる
紙の給与明細の場合、発行から交付までに「印刷」「仕分け」「封入」「郵送」「手渡し」といった人手と工数がかかります。しかし、給与明細を電子化すれば、これらの手作業が不要になるため、業務負担を大幅に削減し業務を効率化することができます。
それに伴い、給与明細の発行にかかる紙・印刷・封筒・郵送代や、保管にかかる管理コストを削減できます。これらのコストは、一つひとつは小さくても、毎月必ず発生するものなので、従業員の数が多いほど固定費として負担が大きくなります。
また、給与明細の発行・交付・管理に必要な作業や人手が少なくなることで、結果として人件費の削減にもつながります。
従業員側のメリット
給与明細の電子化は、管理者だけでなく従業員にもメリットがあります。
- ・いつでもどこでも給与明細を確認できる
- ・紛失するリスクがなく、管理がラクになる
電子交付された給与明細は、インターネット環境さえあれば時間と場所を選ばず確認できます。また、紙の給与明細書のように紛失したり誤って破棄したりするリスクもなく、管理も非常にラクになります。
給与明細を電子化するデメリット
企業と従業員の双方にメリットをもたらす給与明細の電子化ですが、中には留意しておきたい注意点も少なからず存在します。ここでは、給与明細の電子化に伴うデメリットを2つ紹介します。
- ・情報漏洩のリスクがある
- ・電子化に同意しない従業員は個別対応が必要
情報漏洩のリスクがある
給与明細を電子化するデメリットの一つ目は、情報漏洩のリスクがあることです。
給与明細のPDFが添付されたメールの誤送信やハッキングなどによるセキュリティリスクは、できる限り軽減する必要があります。給与明細は、個人情報が記載された重要な書類ですので、電子化するにあたってはセキュリティ対策を実施しているツールを導入することはもちろん、社内におけるセキュリティ対策も強化していかなければなりません。
とはいえ、紙の給与明細であっても紛失や盗難といった情報漏洩のリスクは伴います。リスクがあるからといって電子化を先延ばしにするのではなく、電子化するにあたって新たに脅威となる情報漏洩のリスクに備えていくことが重要です。
電子化に同意しない従業員は個別対応が必要
給与明細を電子交付するにあたっては、「従業員の承諾・同意を得ること」が義務づけられています。従業員の同意を得ずに、あるいは同意を拒否されたのにもかかわらず、給与明細を電子交付することはできません。
給与明細の電子化に同意しない従業員がいる場合は、引き続き書面で給与明細を交付する必要があります。しかしその場合、書面と電子データの給与明細が混在するため、交付や管理にかえって手間が増えてしまいかねません。
電子化に先立って、従業員から同意を得ることができそうか確認しておくことに加えて、給与明細電子化のメリットを多くの従業員に理解してもらえるよう努める必要があるでしょう。
給与明細を電子化する手順・方法
続いて、給与明細を電子化する具体的な手順を紹介します。
- 1. 電子化する範囲を決める
- 2. 従業員の同意を得る
- 3. 給与明細の電子化ツールを導入する
- 4. 交付・閲覧環境を整備する
- 5. 電子化した給与明細を交付する
手順①:電子化する範囲を決める
まず、給与明細だけを電子化したいのか、もしくは源泉徴収票や離職証明書などもまとめて電子交付に移行するのか、「電子化する範囲」を決定します。
手順②:従業員の同意を得る
給与明細の電子化を進めるにあたっては、従業員の同意を得なければなりません。同意が得られた従業員については、電子化の同意書を締結します。
ただし、従業員数が多いと電子化のメリットを説明したり、同意書に締結してもらったりするのに時間を要してしまいます。同意書の回収機能が備わった電子化ツールを活用すると、システム上で同意を得ることができて便利です。
手順③:給与明細の電子化ツールを導入する
従業員から同意を得られたら、実際に給与明細を電子化するためのツールを選定・導入します。
一口に「給与明細電子化ツール」といっても、給与明細の電子化に特化したシステムから給与計算業務の自動化を目的としたものまで、形式はさまざまです。自社のシステム導入状況や電子化したい業務範囲に合わせて最適なツールを選びましょう。
手順④:交付・閲覧環境を整備する
給与明細の電子化に移行するにあたっては、交付および閲覧環境を整備する必要があります。書面で給与明細を交付するのと、給与明細を電子交付するのでは、交付までのワークフローが大きく変わってきますので、新たなワークフローの整備が不可欠です。
また、従業員にシステムの使い方を説明したり、ルールをまとめたマニュアルを整備したりして、電子交付した給与明細を従業員が閲覧できる環境を整えることも求められます。加えて、従業員のセキュリティ意識を向上したり、端末にセキュリティ対策を施したりするなど、セキュリティ体制も強化しましょう。
手順⑤:電子化した給与明細を交付する
給与明細電子化ツールを使って、給与明細の作成および交付を行います。交付方法は、ツールによって異なりますが、メールで送信する方法とクラウド上にアップロードする方法が一般的です。
中には、あらかじめ交付日を指定して自動で配信できる「予約配信機能」が備わった電子化ツールもあります。自社での使い方に合わせて最適な交付方法を選びましょう。
給与明細の電子化に役立つ主なサービス
ここまで、給与明細を電子化するメリットや手順について紹介しました。そこで次に、給与明細の電子化に役立つ主なサービスを4種類紹介します。
マネーフォワードクラウド給与
「マネーフォワードクラウド給与」は、株式会社マネーフォワードが提供するクラウド給与サービスです。給与計算業務の効率化・コスト削減を目的としたサービスで、Web給与明細の発行にも対応しています。
支給項目や控除項目を自由に設定でき、給与計算の結果が確定すると指定日にWeb給与明細が公開される仕組みです。Web給与明細は、スマホ・タブレット端末に最適化されており、従業員はいつでもどこでも簡単に確認することができます。また、従業員は本人専用の画面しかアクセスできない仕様になっているため、セキュリティ面も安心です。
小規模事業者向けのプランは月額3,980円から、中小企業向けのプランは月額4,980円から利用が可能で、従業員数が6名以上の場合は月額1人300円の従量課金が発生します。
公式サイト
オフィスステーション 給与明細
「オフィスステーション 給与明細」は、株式会社エフアンドエムが提供する給与明細電子化サービスです。導入企業は20,000社を超えており、継続率は99.3%と高い顧客満足度を誇ります。
直感的な操作で「給与・賞与明細」をWeb配信することができ、従業員はスマホからいつでもどこでも簡単に過去3年分のデータを確認できます。また、電子化の同意書回収にも対応しており、スムーズに導入できるのもうれしいポイントです。
利用料金は、従業員数に応じた「従量課金制」となっており、月額1人33円(801〜5,000名の場合)から利用が可能です。
公式サイト
SmartHR
「SmartHR」は、株式会社SmartHRが提供するクラウド型の人事労務ソフトです。さまざまな労務手続きのペーパーレス化を目的としたサービスで、その一環として「給与・賞与明細」「源泉徴収票」のWeb発行が可能です。
このソフトでは、「給与情報の取り込み」「通知・オンライン配布」というわずか2ステップでWeb給与明細を配布することができます。また、給与明細データをSmartHRに登録しておけば、離職証明書が必要になった際、作成にかかる手間を80%、退職者への送付にかかる手間を85%削減できるというメリットもあります。
目的に合わせて選べる3種類のプランがあり、料金については見積もりが必要です。費用を抑えたい場合は、人事・労務に必要な機能だけを備えた「¥0プラン」の利用もおすすめです(従業員数が30名以下の企業向け)。
公式サイト
ジョブカン給与計算
「ジョブカン給与計算」は、株式会社DONUTSが提供するクラウド型の給与計算システムです。給与計算業務を自動化するための便利機能が充実しており、システム上で確定した給与情報を基にWeb給与明細を発行できる「Web明細」機能も備わっています。
また、Web給与明細の配布に先立って、公開日時を指定しておくことが可能で、書面の給与明細のように手渡しの手間もかかりません。なお、従業員はスマホ対応の「マイページ」から、配布されたWeb給与明細を簡単に確認することができます。
料金プランは、従業員数が5名まで無料で利用できる「無料プラン」と、月額1人400円の「有料プラン」の2つから選んで利用できます。
公式サイト
まとめ
給与明細電子化のメリット・デメリットと導入の手順、給与明細の電子化に役立つ主要ツールを紹介しました。
給与明細の電子化は、従業員の同意や情報漏洩の対策が必要というデメリットもあるものの、業務効率化やコスト削減、従業員にとっての利便性の向上など、さまざまなメリットが期待できます。今回紹介した導入の手順を参考にして、給与明細の電子化、ひいてはバックオフィス業務の効率化を実現させましょう。
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