DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進していく中で、実は最も手をつけやすく、効果が出るといっても過言ではないのが「バックオフィスDX」です。なぜなら、バックオフィス業務は定型業務が多いことに加え、業務量も繁忙期などは非常に多くなるため、業務効率化やコストの削減が実感しやすいからです。
また、バックオフィス業務は、企業のすべての部門と通じている業務ともいえます。つまり、バックオフィス業務のDXを成功させることは、自社全体のDXの推進にも貢献できるということです。
今回は、バックオフィスのDXをどう進めれば良いのか、メリットやポイント、事例を交えながら解説します。
バックオフィスにおけるDXとは
そもそもバックオフィスとは、顧客とのコミュニケーションなどが発生しない、社内での業務全般を指すことばです。顧客対応が発生し、売り上げを作るための業務はフロントオフィス業務と呼ばれ、バックオフィスと対照的な役割を果たします。
バックオフィスには、勤怠管理や人事などさまざまな業務が含まれています。一言でまとめられることも多いこれらの業務は負担が大きい一方で、DXによる大きな効率化の可能性も残されています。
バックオフィスのDXは、そんなバックオフィス業務における改善の余地を洗い出し、最新のデジタル技術によって改善を施していくという取り組みです。
バックオフィスのDXが必要とされる理由
DXの推進は先進的な取り組みということで、競合との差別化やメディア露出を高める上でも重要な取り組みです。
普段はあまり日の当たらないバックオフィスのDXは、そういったメリットを考えると優先度が低いように思えますが、それでもバックオフィスで優先的にDXを推進するのには、どんな理由が挙げられるのでしょうか?
企業経営に欠かせない業務が集中しているから
バックオフィスのDXが重要な一つ目の理由は、業務自体の重要性にあります。バックオフィスでの業務は比較的目立たないものですが、どれも会社機能を維持するためには欠かせないものばかりです。
従業員にとって快適な業務環境を整える労務管理や、企業の資産管理、税金の計算を担う経理、従業員の採用や研修を実施する人事管理など、実に多くの業務がバックオフィスに含まれます。
それゆえ多くの人手を必要とするため、バックオフィス業務は企業の人材リソースを必要以上に圧迫し、慢性的な人材不足を招く可能性もあります。DXによって作業を自動化することは、このような問題を解消することにもつながります。
ミスが大きなトラブルにつながる可能性があるから
企業の重要な業務が集中するバックオフィスだけに、一つのミスが大きなトラブルにつながる可能性もあります。
バックオフィスでの業務には、とにかく数値入力や確認の作業が数多く発生するため、人間の手ですべてに対応していると、ヒューマンエラーが生まれてしまうこともあります。特に、経理業務など、一つの入力ミスが時として重大なトラブルを招いてしまうこともあります。
そのため、ロボットの力を借りられるDXを活用し、予めリスクを回避できるような体制を構築しておくことが大切です。
バックオフィスのDXで得られるメリット
バックオフィスのDXを実現することで得られるメリットは、多岐に渡ります。
ここでは、主なメリットを4つに分けて紹介します。
業務効率化を実現できる
DXの一つ目のメリットは、業務効率化です。前述の通り、バックオフィスの業務は重要度が高いと同時に、業務そのものの作業量も多いため、現場に多くの負担をかけてしまう分野でもあります。
DXは、コンピューターやロボットの力を活用し、作業労働を自動化したり管理を自動で行ったりするようにしてくれるサービスを導入したりすることで実現します。うまく自社の課題にフィットするDXを推進できれば業務効率化を実現し、バックオフィスのパフォーマンスを高められます。
また、面倒な作業が自動化によって人の手を煩わせなくなったことで、モチベーションが低下しがちだった従業員をより高度な頭脳労働に配置できるようになります。結果として、社員のやる気を底上げし、意欲的に仕事へ取り組める組織づくりにもつながるでしょう。
コスト削減が期待できる
バックオフィスにDXをフィットさせることができれば、コストの削減効果も期待できます。たとえば、これまで三人がかりで取り組んでいた業務を、DXによって効率化すれば、一人で対応できるようにもなります。この場合、単純計算で人件費は半分の負担で抑えられるようになったといえます。
作業労働を解消するために迎え入れていたアルバイトや派遣社員の分のコストを削減できるため、組織のスリム化を実現することにもつながります。少ない人手で仕事が賄えるようになると、それだけ人手を管理する業務負担も小さくなるため、スマートな会社経営につながります。
ヒューマンエラーを削減できる
バックオフィスの業務で発生していた作業労働を、DXによって自動化することで、人間のケアレスミスが発生するリスクも抑えられるようになります。
ヒューマンエラーの発生は、それに起因して発生するトラブルの対応に追われるだけでなく、その業務がやり直しになってしまうという、現場への負担を極めて大きくさせてしまうリスクをはらんでいます。
DXによる自動化で、こういった潜在リスクを解消することができるため、リスクマネジメントの観点からも重要な施策といえます。
多様な働き方を実現できる
バックオフィスへのDX導入は、従業員の働き方を多様にする上でも重要です。
これまで紙媒体や、会社専用のシステムを利用しなければ進められなかった手続きが発生していた場合、社員は必ずオフィスへ出社しなければなりませんでした。
しかし、DXによってクラウドサービスを利用したり、モバイルアプリを通じて手続きができたりするようにアップデートが行われることで、オフィスに縛られない働き方を実現できます。
テレワークの導入のように、ことあるごとに出社しなければならない手間を解消できることもDXのメリットです。
バックオフィスのDXに必要な戦略・改善ポイント
そんな多くのメリットを有するバックオフィスのDX推進には、どのような改善ポイントに注目する必要があるのでしょうか?
ペーパーレスを実現する
一つ目のDX戦略が、ペーパーレスの実現です。紙の書類を使うのではなく、あらゆる紙面手続きをデジタルにシフトすることで、バックオフィス業務の効率化を実施します。
請求書や契約書など、日々の業務では膨大な種類と量の紙媒体が発生します。従来であれば、これらは紙でなければ効力を発揮しなかったため、たとえ面倒でもアナログ手続きを遂行する必要がありました。
しかし、近年は法律上においても電子契約書やメールでの請求書の送付などが認められるようになったこともあり、多くの企業がペーパーレスの導入に踏み切っています。紙媒体から脱却することで、書類にサインや押印を行うためだけに出社する必要がなくなりますし、それらを保管するためのスペースを、物理的に用意する必要もなくなります。
また、紙代やコピー機の印刷代、郵送費用や書類を扱うための移動費や移動時間など、さまざまなコスト削減が実現します。ペーパーレスを実践するだけでも、バックオフィスにおけるDX効果は非常に高いものが期待できるでしょう。
AI・ロボットを導入する
ある程度高度なDXを実現する上では、AIやロボットの活用が欠かせません。この分野においては、いわゆるRPAと呼ばれるサービスが活躍しており、さまざまな業務をロボットの力で自動化できるとして、多くの企業が導入を進めています。
RPAはRobotic Process Automationの略称であり、プログラムを組むことにより、ロボットが自動でタスクを処理してくれるツールのことです。Excel(エクセル)の数値入力やメールの送信など、日々発生する多くのルーティンワークを自動化できるため、導入効果は非常に高いものが期待できます。
より高度なRPAにはAIが搭載されたものもあり、さらに発展性のある業務を自動化できます。売り上げ分析や自然言語の翻訳・生成など、より複雑な業務へと適用することができます。RPAの導入は、バックオフィスの業務効率化へ大きく貢献するため、優先的に進めたい取り組みです。
クラウドを活用する
RPAの導入やペーパーレスを実現する上では、クラウドサービスを活用することも重要です。アプリケーションをオンライン上で利用できるクラウドサービスは、今やさまざまな分野で活躍しており、ネット環境さえあればサービスを利用できる扱いやすさが魅力です。
本体のハードウェアに依存することなく、どこからでも便利なツールを活用できるため、リモートワークの実現にも活躍するサービスです。
バックオフィスのDXを円滑に実現するためのポイント
バックオフィスのDXをスムーズに実現するためには、次の2つのポイントを重視することが大切です。
業務課題を明らかにする
一つ目のポイントが、業務課題の明確化です。今の現場にはどんな問題が残っていて、どれだけの負担が発生しているのかを明らかにすることで、取り組むべきDXの方向性をはっきりさせられます。
DXの有用性を理解していても、自社の課題に適切なソリューションを導入できなければ、その効果は半減します。予め把握しておきましょう。
効率化するべきポイントを固める
二つ目のポイントが、DXを実施する範囲を固めていくことです。
いくつもの問題が山積しているとはいえ、その優先度がすべて等しいとは限りません。一刻も早く改善すべき問題はどれか、余裕があれば取り組むべき問題はどれかという重みづけを行い、DXを進めましょう。
DXの必要性が大きい問題から取り組むことで、DXの導入効果も早期に実感できます。特に初めてのDXとなると、どれくらいDXに期待して良いのか、どんな効果が得られるのかの実感がないため、ここで確実に効果を確かめておく必要があるでしょう。
バックオフィスDXの進め方・手順
バックオフィスDXの進め方について解説していきます。具体的には、次のように進めていくことがおすすめです。
- ペーパーレス化の促進
- クラウドサービスの活用
- RPAの活用
ペーパーレス化の促進
まずは、ペーパーレス化の促進を進めていくのがおすすめです。
バックオフィス業務では、紙が発生する業務が多くあります。たとえば、取引先との契約書や発注書、経費精算の申請書類、稟議書などです。これらの紙で行っている業務を電子化し、データとして取り扱うことで、紙にかかっていたコストの削減や、データ化によって必要な情報をすぐに検索しやすくなるなどの、業務効率化にも貢献できます。
ペーパーレス化を促進するためには、「どの業務にどれくらいの紙が使われているのか」といった現状を把握することが大切です。現状を把握し、ペーパーレス化を進めるためのシステムの導入なども進めていくと良いでしょう。
なお、2020年から「電子帳簿保存法」が制定されており、請求書の管理などが電子で行えるようになりました。ペーパーレスを進めていく際は、「電子帳簿保存法」に準ずる形で進めていくと良いでしょう。
クラウドサービスの活用
クラウドサービスとは、インターネット環境を活用してアプリやシステムを利用するものです。
昨今では、バックオフィス業務に対応するクラウドサービスが数多くリリースされています。たとえば、給与計算や勤怠管理のクラウドサービスなどがあります。
クラウドサービスを導入することで、インターネット環境があればどこからでも業務が遂行できるため、バックオフィス業務に関わる人材でも、会社に出社することなく、リモートワークの実現などにつながります。
また、クラウドサービスはペーパーレス化の促進にも貢献します。なぜなら、データとしてのやり取りが多くなり、親和性が高いためです。
他にも、クラウドサービスは情報の共有や共同編集などの特徴があります。そのため、業務効率化にもつながり、バックオフィスのDXの実現に欠かせないものといえます。
RPAの活用
RPAとは「Robotic Process Automation」の略称で、これまで人が行っていた定型業務をAIや機械学習などを利用して、ロボットに代行させることです。
RPAが利用できる業務としては、データ入力や請求書の発行などの定型業務が主となります。バックオフィス業務は定型業務が多いため、RPAとの相性は抜群です。
具体的には、これまで定型業務となっていた作業をプログラムとしてRPAに取り込む形です。たとえば、交通費精算の定型業務があれば、内容を確認し、どの従業員かを照らし合わせ、期日までの入金処理を済ませるといったことが挙げられます。
RPAを導入することで、定型業務の効率化につながるのはもちろんのこと、ヒューマンエラーが発生する心配もなくなります。また、これまで定型業務を行っていた人員を、自社のコア業務に配置転換をするなどが行えれば、生産性向上にもつながります。
ペーパーレス化やクラウドサービスの活用が軌道に乗った後には、RPAの活用も考えていくと良いでしょう。
バックオフィスのDXにおける成功事例
最後に、実際の企業におけるバックオフィスのDX事例を紹介しましょう。
株式会社mediba
株式会社medibaでは、2019年に実施した人事評価制度の改革に伴い、バリュー評価を取り入れた新人事制度を導入し、人事管理の改善を実現しました。
これまで人事評価に活用していた目標管理システムは、操作が複雑だったこともあり、運用が属人化してしまい、作業効率の低下や引き継ぎの難化を招いていました。新たに構築したシステムでは、評価者の選定から評価の入力、フィードバックまでを一つのシステム上で入力できる仕組みを採用しており、現場の工数削減に貢献しています。
株式会社わかさ生活
健康食品販売でお馴染みの株式会社わかさ生活では、テレワークの推進を図るため、労務管理のペーパーレス化を実現しています。
同社における人事労務管理においては、年間4,000枚を超える書類を扱うため、業務の煩雑化に悩まされていただけでなく、書類の保管スペースの圧迫にも悩まされてきました。また、労務担当者は押印のためだけに出社を強いられるケースもあり、社員にも大きな負担が発生していたのです。
今回導入した人事労務管理システムは、そんな業務の煩雑化を一気に解消してくれるものとなりました。紙媒体の運用は丸ごとデジタルへシフトされ、ペーパーレスの実現に貢献しています。従来は2週間ほど要していた入社手続きも、システムの導入で1時間まで短縮されました。
株式会社レスタス
ECサイトの開発・運営を担う株式会社レスタスでは、アナログで行っていたシフト管理が業務を圧迫しており、時期によって増減する従業員数の管理にも追われていました。従来のソフトでは、運用料金が最大人数によって変動していたため、繁忙期での運用人数が年間を通じて反映されており、余計なコストの発生にもつながっていたのです。
そこで、最新の勤怠管理システムを導入したことで、これまで紙で対応していたシフト管理もデジタル化に成功し、業務効率化につながりました。スマホからでも利用できる利便性も相まって、ユーザビリティは飛躍的に向上しています。
また、月額変動性の料金体系で、無駄なコストの発生を抑えられるようになっただけでなく、ICカードによる打刻など、新しい効率化の取り組みも導入できるようになりました。
株式会社野村総合研究所
情報サービス事業を展開している株式会社野村総合研究所では、バックオフィスに関する業務において紙の資料が多くなってしまっていることが課題でした。紙の量は凄まじく、机の上に山積みになってしまっていることはもちろん、保管用のキャビネットまで溢れてしまっている状態でした。
こうした状況の中、野村総合研究所では「紙を使わない・残さないというペーパーレスの取組ではなく、紙にとらわれない働き方である “ノンペーパー”のワークスタイルを構築することで業務の効率化を目指した。 」としています。
具体的には、紙での保管が必要のないものは、すべてデータ化して保存、従業員全員にノートPCを配布して、リモートワークを促進するようにしたことなどがあります。また、会議も「ノンペーパー会議」を目指し、プロジェクターの利用や資料のデータ共有などを進めました。
結果としてペーパーレス化の実現とともに、働き方改革にも貢献しています。
三菱地所株式会社
総合不動産会社である三菱地所株式会社では、バックオフィスのDXを実現するために、電子上で契約書のサインなどが行えるクラウドサインを導入しています。
クラウドサインでは、これまで紙で行っていた取引先との契約や秘密保持契約、業務委託契約はもちろんのこと、社内の従業員と結ぶ雇用契約などを電子上で行えます。そのため契約書を発行する必要はなく、業務のペーパーレス化に貢献しています。
また、クラウドサインでは押印も電子で行います。そのため、ハンコをもらうためだけに紙を発行する押印を待つムダな時間などがなくなりました。クラウドサインを導入したことで、コスト削減や業務効率化につながったことに加え、電子上で契約書のやり取りが可能になったことで、契約締結までにかかる時間が大幅に短縮されたことなどが効果として挙げられています。
サッポロビール株式会社
北海道のビールとして認知度が高い「サッポロ生ビール黒ラベル」などを発売しているサッポロビール株式会社では、営業支援部門にRPAを導入したことで、業務効率化とコスト削減に成功しています。
同社では以前、商品を卸す小売業者ごとに、POSデータをダウンロードして業務を行う必要があり、長時間労働の原因となっていました。そこで同社は、POSデータのダウンロードに関わる業務に対して、RPAを導入し、業務の自動化を図りました。結果として労働時間は、年間で約5,700時間削減され、コスト削減された金額は1,100万円(年間)に相当するとしています。
また、RPAを導入したことで、これまで長時間労働を行っていた従業員を別のコア業務に配置転換することができ、データ分析などの業務に従事することで、自社の成長につなげていくとしています。
まとめ
バックオフィスのDXを推進していくことで、自社全体の業務に影響を与えることができ、大きな業務効率化やコスト削減につながっていきます。また、DXを行う目的は「業務に変革を起こし、市場における競争力を維持すること」です。
そのためには、生産性を向上させる必要があります。バックオフィスのDXが実現できれば、リモートワークの促進やコア業務への人材集中など、必要な人材を必要な場所に配置できるというメリットもあります。
DXは簡単に実現できるものではありません。まずは自社の現状を正確に把握し、小さい所から少しずつ進めていくことが大切です。特に業務のペーパーレス化は、とっかかりやすい部分であるため、ぜひ推進してみてください。
当社ディップ株式会社が提供する「人事労務コボット」は、給料計算はもちろん、人事労務に関する業務全般をサポートできる企業向けサービスとして活躍しています。
既存の従業員の管理だけでなく、新たに採用する従業員の雇用手続きをサポートし、これまで何日もかけていた手続きを最短即日で完了できる効果を期待できます。Web上での入社手続きの採用で、担当者の負担を軽減し、余分な人件費の発生を回避します。
手続きはスマホで完結できるため、従業員の書類作成負担を軽減し、コア業務に集中できるよう促せることも魅力です。バックオフィスの中でも、特に人事労務業務の効率化を検討されていらっしゃる方は、お気軽に当社ディップ株式会社までお問い合わせください。