DXを推進することは、どの規模の企業においても、どんな業界に属している企業においても重要な課題となっています。しかし、DXを推進することが目的となってしまい、実際の成果につながっていない企業は少なくありません。
効果的なDXを推進していくためには、課題やアプローチ方法をきちんと認識して進めていくことが大切です。そこで今回は、DX推進を考えている企業に向けて、アプローチ方法や事例などを紹介します。
経産省が考えるDX推進の重要性
DXは企業の自助努力が求められる部分も大きく、企業によって取り組みの内容やスケールにギャップが生まれやすいのがネックです。
ただ、DXという取り組みそのものは近年日本政府が主導して進めたいと考えている施策でもあり、どのような目標を目指してDXを推進すべきか、公式見解も提唱されています。
競争力強化のためのDX
経済産業省がDXを通じて実現したいと考えている目的は、主に2つあります。1つ目は競争力強化のためのDXで、新たなデジタル技術を使ったこれまでにないビジネスモデルの展開が期待されています。
既存の産業が頭打ちとなりつつあり、国内市場の縮小も進む中、日本企業に求められているのは市場を活性化できる、あるいは成長著しいグローバル市場を見据えたビジネスモデルの構築です。DXの実現によって、事業における無駄を削減し、高い収益性と新規性を兼ね備えた事業の立案、及び実行を促せると期待しています。
維持・保守コスト削減のためのDX
2つ目は、企業の維持・保守コストの削減のためのDXです。各企業にITが導入されて数十年が経過しましたが、多くの企業ではシステムの老朽化や複雑化が進み、もはやこれらを維持することが難しくなってきています。
維持管理負担が大きくなっている理由としては、OSやソフトウェアの公式サポートが終了し、セキュリティリスクが高まっていること、マシンが陳腐化し、今日求められているスペックに達していないこと、実装当初のシステムを扱える人材が現場を退いており、保守業務の人件費が高騰していることなどが挙げられます。
このような負担の増大に対して、経産省は警鐘を鳴らしてきました。2018年に同省が発表したDXに関するレポートによると、DX推進が当時のまま停滞していると、2025年には維持管理コストの増大、及び競争力の低下により、国内企業は最大で年間12兆円もの経済損失が発生するといわれてきました。
このような無意味な損失を避けるためにも、国内企業のDXは早急な実現が求められていると同時に、DXが進んでいない企業や業界にとっては、競合他社と差別化を図る機会であるともいえるでしょう。
DXの推進により得られるメリット
DXの推進によって、推進企業はどのような恩恵を受けられるのでしょうか。具体的なメリットについては、以下の3つが挙げられます。
- 企業にさらなる成長をもたらせる
- 優秀な人材の確保を推進できる
- 新規ビジネスを創出できる
企業にさらなる成長をもたらせる
1つ目のメリットは、企業にさらなる成長をもたらせる点です。DXの実現によって業務上の負担を削減し、生産性を向上できるため、今よりも高い収益性の確保につながります。
人件費や資材の価格は年々高騰しており、後進国における著しい経済発展もあって、あらゆる業界でコストカットを促すことが難しくなってきています。この問題を解消するためには既存の仕組みを抜本的に見直し、より効率的な事業のあり方を模索する必要があります。
DXは、そんな事業の刷新を大いにサポートしてくれる取り組みです。業務のハイテク化によって、必要最低限の人材と、洗練された生産性を確保し、企業の成長を促進できます。
優秀な人材の確保を推進できる
DXは単に仕組みをアップデートするだけでなく、企業文化を刷新し、優秀な人材や若手人材の確保を実現できる環境へと移行できます。
どれだけ企業の仕組みを刷新しても、そこで働く社員がモチベーションやスキルセットに優れ、長い間会社で働いてくれるような文化を作っていかなければ、確かな成長は見込めません。
DXの実現によって、リモートワークのような新しい働き方を実現したり、積極的なデータ活用と合理性の高い意思決定を実現したりすることで、風通しがよく自身のスキルを存分に発揮できる職場へと生まれ変われます。
事務作業に追われることのない、実力を試せる職場へアップデートすれば、多くの求職者から注目され、引く手あまたの人物にも興味を持ってもらい、長く定着してもらえるようになるでしょう。
新規ビジネスを創出できる
デジタル技術の積極的な活用は、既存のビジネスモデルではありえなかった分野への参入も促してくれます。
わかりやすい例としては、グローバル市場への進出が挙げられます。地域密着型で製造業を営んでいた企業も、日本全国をマーケットとしてスケールを拡大していくことは非常に容易です。
また、事業をオンラインで世界に発信することで、簡単に各国の見込み客とコミュニケーションが取れるようにもなるでしょう。あるいは日本とは異なる世界のニーズを発見し、自社の技術を生かした新しい商品開発のきっかけも得ることができるようになるかもしれません。
自社の強みが生きるビジネスモデルを自由に創造し、試していけるチャンスを得られます。
DX推進に伴う課題
上記のように、DX推進のアプローチは多様化している一方、実現には課題も立ちはだかります。主な問題としては、以下のようなものが挙げられます。
- DX人材の確保が難しい
- 初期投資が必要になる
DX人材の確保が難しい
1つ目の課題は、DX人材の確保です。DX需要が拡大している近年は、各社で慢性的な人材不足が発生しており、その推進力を得ることが難しくなっています。DXのノウハウがなければ、確実なDXを実現することは難しい一方、DX関連のスキルセットは一朝一夕で身につけることが難しいため、人材の供給不足はしばらく続くと考えられます。
三菱商事で実施されているように、自社でDX人材を育てていくための仕組みづくりを検討する必要があるでしょう。
初期投資が必要になる
2つ目は、初期投資の問題です。DXは中長期的には会社に大きな恩恵をもたらしてくれる一方で、初めに相応の出資が必要となります。
大企業でDXが進む一方、中小企業で今ひとつDXが盛り上がらないのは、このようなコストの問題を抱えていることも理由として大きいでしょう。クラウドサービスのような導入・運用コストの小さなソリューションを選んだり、国のIT補助金を活用したりするなどの工夫が求められています。
DXの推進に失敗しないためのアプローチ
上記のような課題を踏まえつつ、DX推進に失敗しないためにはどのようなプランを検討すべきなのでしょうか。ここでは、DXに失敗しないアプローチについて紹介します。
- DXソリューション企業との協業を図る
- 経営層がDXへ積極的にコミットする
- DX推進室を設置して強力な権限を与える
- 社内のDX教育を進める
DXソリューション企業との協業を図る
まずは、DXソリューションを提供している企業との協業が大切です。自社に十分なリソースがない場合には、川崎信用金庫のように、DX企業の力を借りる必要があります。
DX企業は確実な成功を手にするためのノウハウを熟知しており、人材も揃っているため、積極的に活用しましょう。
経営層がDXへ積極的にコミットする
DXは企業文化の刷新から取り組む必要があるため、意思決定力のある経営層のコミットは欠かせません。経営者が主体的にDXへ取り組むことで、全社的なDXを迅速に進められるようになります。
DX推進室を設置して強力な権限を与える
またDXの推進は、DXに特化した部門が主導して取り組むことが理想的です。デジタル関係のプロジェクトはシステム担当に任せられることも多いのですが、DXについてはそれよりも大きな枠組みで推進する必要があります。
経営者直下のDX推進室を設置するなどして、強力な権限を与えながら実現に向けて動きましょう。
社内のDX教育を進める
外部から確保できるDX人材には限りがあるため、自社で積極的に教育に努めることも必要です。社員のITスキルやデジタル知識が豊富になっていくことで、社内でアプリを開発したり、新規事業の立ち上げに向けた戦略立案を加速させたりすることができます。
DX後の組織運営にも欠かせないノウハウであるため、研修プランの検討も進めておきましょう。
DX推進の成功事例:飲食店編
では、DX推進の成功事例を紹介していきましょう。まずは、飲食店のDX推進の成功事例2社を紹介します。
- 株式会社Mure
- 株式会社ビーエムエス
株式会社Mure
株式会社Mure(ミュール)は、札幌市内でパンの製造・販売を行っている企業です。
株式会社Mureでは、顧客のリピートが課題になっており、店舗のオープンから5年弱でお客様の来店客数が減ってきていました。特に平日の来店客数の減少が顕著でした。
こうしたリピート率改善のためポイントカードの導入を決断しましたが、紙のポイントカードではなく、デジタルツールの活用を検討していました。そこで、当社ディップ株式会社が提供する「常連コボットforLINE」を採用しました。
結果として平日の来店客数の増加につながり、従業員とお客様のコミュニケーションにも貢献しています。
株式会社ビーエムエス
株式会社ビーエムエスは、関西圏を中心に「びっくりドンキー」や「すしいち」を展開している企業です。
ビーエムエスでは、新たな人材を採用する際に、雇用契約書の作成など平均で10枚が必要になっていました。そのため、採用担当者の業務負担が大きくなっていたことに加え、書類の紛失リスクも抱えていました。
こうした課題を解決するために、当社ディップ株式会社が提供する「人事労務コボット」を採用しました。
結果として、採用業務の時間削減、書類の紛失リスクがなくなるなどの効果を得られました。
採用後の入社手続きの時間が短縮されたため、年間40万相当のコスト削減にもつながっています。
DX推進の成功事例:人事労務編
続いては、人事労務でDX推進を成功させた事例を2つ紹介します。
株式会社オークラ
関東や関西を中心にパチンコ店を運営している株式会社オークラでは、入社書類のタイムラグに問題を抱えていました。具体的には、店舗が関東、関西のそれぞれにあるため、本社に必要書類が届くまで時間がかかっていました。
加えて、従業員数は250名を超えているにも関わらず、人事労務業務は少人数の体制だったため、紙での業務が大きな負担となっていました。
そこで当社ディップ株式会社が提供する「人事労務コボット」を導入し、入社手続きのタイムラグをなくすことに成功しました。また、業務負荷も軽減され、これまで店舗で2時間以上かかっていた入社手続きが、30分で完了するまでに短縮されました。そのため、業務効率化を行うことができています。
株式会社ネクサスイノベーション
ポケットWi-Fiやウォーターサーバーの販売事業を行っている株式会社ネクサスイノベーションでは、労務に関わる業務のペーパーレス化を目指していました。
背景には、入社手続きの書類がなかなか揃わなかったことが挙げられます。入社後にすぐに従業員が販売現場に配属されることもあり、必要書類が備わるのに1ヶ月かかることもありました。
こうした課題を解決するために当社ディップ株式会社が提供する「人事労務コボット」を導入。導入後はデジタル入力によって、書類提出の遅れがほとんどなくなったとしています。結果として労務の作業時間の大幅削減を達成しています。
DX推進の成功事例:派遣会社編
続いては、派遣会社に関わるDX推進の成功事例を2社紹介します。
株式会社ヒーモリ
外国人に特化した派遣会社として運営している株式会社ヒーモリでは、新規顧客の獲得のための課題を抱えていました。具体的には、「テレアポで新規アポイントの獲得ができない」「営業リストの作成に時間がかかってしまう」といった課題がありました。
特に、営業リストの作成には、大幅な工数が割かれてしまっており、他業務の時間を圧迫してしまうことも珍しくありませんでした。
こういった課題を解決するために、同社は「HRコボットfor営業リスト」を採用しました。
結果として、営業リストの作成にかかる時間を大幅に削減できています。
また、質の高い営業リストのため、アポイントの獲得も15件達成、案件としての成約も7件達成と大きな成果につなげています。
株式会社シグマスタッフ
人材派遣業やアウトソーシング事業を展開している株式会社シグマスタッフでは、営業活動についての課題を抱えていました。
具体的には、「新規営業ができていない」「既存案件のフォローができていない」の2点です。営業人員が2名と少ないため、既存案件のフォローが中心となってしまい、新規案件獲得の活動が行えていないという状況でした。
そこで、新規アポイントの獲得支援を行う「HRコボットforアポ獲得支援」を導入しました。
結果として、平均して月2件以上の新規アポイント獲得、600万以上の売上案件の受注などにつながっています。
また、テレアポ業務にかかっていた時間がなくなったため、人材募集のイベントなどにも出席できるようになり、派遣する人材の確保にも力を入れられるようになっています。
まとめ
DXの推進は、企業の成長や新規ビジネスの創出など多くのメリットがあります。
しかし、DXは闇雲に行っても効果は出ません。きちんとした体制を整えてアプローチをすることが大切です。
DXの推進は、大企業だけが行えば良いものではありません。成功事例でも紹介したように、中小企業でも効果を出すことができます。自社がDXを推進する目的を定め、正しいDXの推進を行ってみてください。