RPAは自治体の業務量や業務時間を削減するツールとして注目が集まっているデジタルテクノロジーですが、導入前の自治体では「自動化ツール」という響きに何となく抵抗を感じる人もいることでしょう。紙の資料・データの取り扱いが多い自治体業務では、自動化ツールを導入した資料・データのデジタル化にストレスを感じても不思議ではありません。
しかし、日本の自治体は総務省が報告した2040年問題にみるように、自治体職員減少と高齢人口のピークを迎えるにあたって本来のサービス提供ができなくなる可能性があります。今回の記事では、現在と変わらない自治体サービスの提供を続けるために、RPA・AIの活用が必須であることをお伝えしていきます。RPA・AIの導入が現状の業務を一新するのではなく、段階的にデジタル化を進めるためのベストプラクティスになることを知っていただければ幸いです。
自治体が抱える課題
日本の自治体は以下の2つの要因により、2040年頃に内政上の危機を迎えることが総務省の自治体戦略2040構想研究会の報告から明らかとなっています。
・少子化による急速な人口減少
・高齢化
日本の出生数は年々減少しており、団塊世代(1947~49年)が生まれた年間260万人から2017年には94万人、2040年には74万人程度まで減少することが見込まれています。加えて、団塊ジュニア世代(1971~74年)が全て65歳以上となる2042年には、日本の高齢化率は36.1%でピークを迎える統計が出ています。つまり、高齢化率がピークに達する2040年頃には日本の社会を動かす労働人口が激減しており、現在の制度や運用では自治体業務のサービスの質低下が懸念されるのです。
自治体は「少子化にともなう急速な人口減少」と「高齢化」の現象に向き合い、人口減少時代に合った新しい制度・運用を現在から推進していくことが求められています。2040年問題を見据えた自治体改革の1つには「RPA・AIを活用した既存業務の自動化(デジタル化)」があり、膨大な処理を必要とする自治体業務をRPAロボットに任せて、自治体職員の業務量を削減する動きが始まっているのです。
スマート自治体を実現するRPA・AI
参照元:自治体戦略2040構想研究会 第二次報告 p.31 「1.スマート自治体への転換」
スマート自治体では、職員数減少の影響を受けても本来の自治体機能を発揮する基盤が形成されています。これまで職員が取り組んできた業務はRPA・AI(デジタルレイバー)の自動処理によって補うことができるほか、情報システムの標準化・共通化がデータ移行業務などの負担を軽減する仕組みが構築されています。
こうしたスマート自治体への転換は2040年までの20年間で取り組まなければいけない課題ですが、自治体はまずRPA・AIの導入によって既存のアナログ業務を自動化(デジタル化)する取り組みから始める必要があります。導入初期のRPA・AIは単純作業の処理に留まりますが、徐々に業務プロセス全体・事業全体へと自動処理の範囲を拡大できるため、スマート自治体への転換を図る上で重要な1歩となるのです。
RPA・AIで自動化できる自治体業務
RPA・AIは「作業ルールの変更が少ない業務」や「人間の判断が必要ない単純作業」の自動化を得意としており、膨大な量の作業を高速処理することに長けています。地方自治体ではRPA・AIの特徴を活かし、以下のような業務を自動化する事例が報告されています。
<RPAを導入している業務例>
・転入通知業務(住民異動)
・軽自動車税新規登録事務(地方税)
・国民健康保険料にかかる所得申告書入力業務(健康・医療)
・職員の超過勤務管理業務(組織・職員)
・総務省や都道府県からの各種紹介業務
<AIを導入している業務例>
・会議録作成支援システム(横断的)
・チャットボットによる行政サービスの案内(横断的)
・保育所の入所選考業務、保育園の入園AIマッチング(自動福祉・子育て)
・観光案内多言語AIコンシェルジュの導入(観光)
参照元:地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査
RPA・AIの導入業務例を概観すると、RPA・AIの特徴に合わせた「単純作業かつ膨大な処理を必要とする業務」に導入が進んでいることが分かります。AIが可能とするチャットボットの自動案内や、音声認識による議事録作成は多くの自治体で導入が進んでいる業務であり、今後AIの性能が向上していくことで完全に人のサポートが要らないサービス・ツールも登場してくることでしょう。
地方自治体のRPA・AI活用事例
自治体のRPA・AI活用は、高齢化・過疎化が進む地方自治体で導入が進み、様々な導入事例として公表されています。今回は総務省が公表した「地方自治体におけるAI・RPAの活用事例」の一部を紹介します。
・OCR-RPAによるシステム入力作業の省力化(愛知県一宮市)
・RPA・AI-OCRによる窓口業務改革(和歌山県橋本市)
・RPAによる農地情報の自動入力(福岡県宗像市)
RPAはAIとの親和性が高く、連携することによって業務自動化の精度向上や処理範囲の拡大を期待することができます。まずはRPAツールを使った単純作業の自動化を体験し、足りない機能や人間が判断している部分をいかにAIによる自律化が可能かを判断していきましょう。RPAとAIの連携時は「特化型AI」の存在を把握した上で、導入予定の業務に対応した機能を有するAIを選定するのがポイントです。
OCR-RPAによるシステム入力作業の省力化(愛知県一宮市)
愛知県一宮市では、個人住民税の「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者移動届出書(以下、届出書)」のシステム入力作業を、OCRとRPAを組み合わせたロボットによって自動入力に成功しています。
届出書の95%は紙の提出となっており、従業員の退職・転勤が多い3月~5月は他業務の繁忙期と重なるため、自治体職員の負担となっていました。そこで紙の届出書をデータ化し、RPAによる住民税システムへの自動入力を実施したところ、年間592時間かかっていた業務が398時間に短縮されたのです(194時間の負担軽減)。
今後帳票レイアウト(フォーマット)の工夫などによってOCRによる読み取り精度を高めることができれば、年間438時間の職員負担軽減が期待されると報告されています。
RPA・AI-OCRによる窓口業務改革(和歌山県橋本市)
和歌山県橋本市では「職員配置の適正化」に向けた取り組みとして、申請書等のAI-OCRによる自動取り込み、RPAによる単純作業の自動化で定型的作業の削減を推進しました。はじめに91の候補業務を選定し、RPA導入によって高い削減効果が期待できる11業務にRPAを適用したことで、登録業務の作業時間を大幅に削減することに成功しています。
RPAによる農地情報の自動入力(福岡県宗像市)
福岡県宗像市では、農耕地の賃貸借権の設定状況や利用状況を農地情報公開システム(全国農地ナビ)へ1件ずつ手入力していたために、賃貸借権設定状況の入力作業が300時間、農耕地の利用状況の入力作業が1150時間かかっていました。そこでRPAに自動入力を実施したところ、合計1450時間の入力業務が約40時間で完了しています。
RPAによる自動入力によって人的エラー(入力ミス)は発生しないため、業務品質の向上も得られた事例となりました。
RPA・AI導入で失敗しないコツ
RPA・AI導入で失敗しないためには、RPAやAIの特性が得意とする作業を把握し、特定業務のごく小規模な運用からスタートさせる必要があります。「業務を自動化する便利ツール」といった表面的な理解だけでは、期待する早さでの成果は得ることができません。RPA・AI運用には改善が必須という認識のもとでスモールスタートし、徐々に自動処理の適用範囲拡大や特化型AIとの連携を図っていくことが重要なのです。
まとめ
今後の日本の自治体では、少子化による人口減少と高齢化によって提供サービスの質低下が懸念されます。特に団塊ジュニア世代が全て65歳以上となる2042年には日本の高齢化率がピークに達する統計データが出ており、サービスを提供する自治体職員の減少と相まって内政上の危機を迎えると報告されています(2040年問題)。
とはいえ、都市部に比べて高齢化・過疎化が急速に進む地方自治体ではRPA・AIを活用した業務効率化・自動化が急務です。既にRPA・AIの導入を進める自治体の事例をみると、業務稼働時間が導入前の3%になったケースもあります。まずは小規模な業務プロセスから自動化を行い、徐々に自動処理範囲を拡大していく工夫が必要となるでしょう。
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