今日、顧客に商品やサービスを購入あるいは契約してもらうだけでなく、その後の対応にも注力し、顧客と良好な関係を結ぶことが重要視されるようになってきました。顧客の成功体験を後押ししていくことが、直接企業の売り上げに貢献したり、ブランド価値の向上につながる時代です。
そんなトレンドの中、注目を集めているのが「カスタマーサクセス」と呼ばれる業務です。今回は、カスタマーサクセスに多くの企業が力を入れている背景や、実際にどのような取り組みで成果を上げているかといった事例などについて詳しく解説していきます。
カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスは、日本語で直訳すると「顧客の成功」ですが、要するに顧客を成功体験に導くべく、企業が主体的に働きかけていこうという取り組みです。
これまでの企業活動においては、いかに商品を買ってもらえるか、サービスを契約してもらえるか、という点に重きを置いていました。しかし、ただ商品を購入することが、顧客の成功体験に直接つながるとは限らないものです。商品やサービスを有効活用できて初めて、顧客は狙い通りの成功を実現できるわけです。
カスタマーサクセスの取り組みは、購入者に対する不十分なケアを徹底的に排除し、企業が主体的に成功へと導こうという姿勢が根底にあります。商品を通じて、顧客の成功体験を後押ししていこうという取り組みが多くの企業で行われています。
カスタマーサポートとの違い
カスタマーサクセスと似たような役割を担うのが、カスタマーサポートです。カスタマーサポートは馴染みのある言葉だという方が多いかもしれません。こちらは顧客満足度を向上させることに力を入れる取り組みです。
カスタマーサクセスとカスタマーサポートは、どちらも広義の意味では顧客満足度を高めるためのものです。しかし、カスタマーサクセスは能動的であり、カスタマーサポートは受動的であるという違いがあります。
たとえば、音楽配信のサブスクリプション(定期購買)サービスの提供におけるカスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いについて解説してみましょう。
カスタマーサクセスの取り組みを推進していく上では、顧客に積極的にサービスを利用してもらい、解約となってしまわないよう、顧客の潜在ニーズを満たしていくことが基本スタンスです。
音楽配信サービスを利用したことのある方は、楽曲のレコメンド機能や歌詞の表示機能など、さまざまな新機能が随時追加されていくのを体験したことがあるのではないでしょうか?そういった施策は、顧客が離れていってしまわないよう、主体的に顧客ニーズを満たそうとするカスタマーサクセスの取り組みです。
一方でカスタマーサポートは、顧客の困りごとを直接解決するための取り組みです。
たとえば、音楽の再生がうまくいかない、新しい機能の使い方がわからないなど、日々発生する顧客の悩みを解消するために活躍します。日々発生する問い合わせやクレームに対処し、満足度向上に貢献するのがカスタマーサポートです。
カスタマーサクセスの目的
続いてカスタマーサクセスを実施する目的について解説していきましょう。ここでは、カスタマーサクセスの主な2つの目的についてお伝えします。
顧客と長期的な関係を築くため
カスタマーサクセスの目的として最も大きいのが、顧客との関係性の向上です。
顧客と長期的な関係を築けているということは、すなわち長期間にわたってサービスを利用し続けてもらえているということです。顧客と長期的な関係を結べているということは、それだけ安定した収益を得られているといえます。
顧客が増えたり減ったりを繰り返すというのは、安定した成長の機会を企業から奪い、資金調達を難しくさせる原因にもなります。カスタマーサクセスの強化によって、一定数の顧客に定着してもらうことは、継続的な企業経営に欠かせないものです。
会社の競争力を強化するため
カスタマーサクセスは、会社の競争力を強化する上でも欠かせない取り組みです。
特に競合企業が多い分野の場合、どの会社のサービスを利用しても、機能や使い勝手にほぼ変化がないため、他社との差別化が難しくなっていくケースが頻発しています。こういった横並びの状況を打開する上でも、カスタマーサクセスは役に立ちます。
カスタマーサクセスは、いわば顧客体験(CX)を高めていくための取り組みですが、ここでいう体験とは購入からカスタマーサポート対応に至るまで、顧客の商品利用に伴う体験全般を指しています。機能性やサービスの扱いやすさに関するユーザー体験(UX)もCXの一部として考え、認知度の向上を目指します。
これらの体験価値を総合的に高めていくことがカスタマーサクセスの改善につながり、ひいては競合との差別化に貢献するというわけです。
カスタマーサクセスが注目されている背景
顧客の成功体験を後押しする取り組みは、なぜ今になって重要視されているのでしょうか?その理由としては、2つの要因が主なものだと考えられます。
定額料金制(サブスクリプション)が普及したから
一つ目は、サブスクリプションサービスの普及です。
サブスクリプションサービスとは、何らかのサービスの利用にあたり、月額や年額で料金を支払うという形式のビジネスモデルです。先ほど例に出した音楽配信サービスやさまざまなクラウドサービスは、ほぼすべて定額料金制で提供が行われています。
スマホの登場やハードウェア性能の向上、そして通信環境の高速化によって、このようなサブスクリプションモデルは一気にその価値を高めていきました。
定額料金制の場合、少しでも長く契約を維持してもらうことが継続的で安定した収益の確保につながります。そのため、顧客の契約状況にあぐらをかくのではなく、企業から積極的に顧客に対して働きかけを行い、成功体験を提供することが求められています。
顧客の囲い込みが重視されているから
サブスクリプションビジネスを展開する上で最も重要なのが、ユーザーを多数獲得することはもちろん、獲得したユーザーをつなぎ止めておくための取り組みです。
注目のビジネスモデルであるだけに、サブスクリプションサービスには次々と競合が登場し、顧客を取り合うようなレッドオーシャンに変容しています。このような状況でも安定した収益を確保するため、カスタマーサクセスの考え方は非常に重要です。
カスタマーサクセスのメリット
カスタマーサクセスを実施することによって、顧客はもちろん企業にもメリットを与えます。主なカスタマーサクセスのメリットを3つに分けて解説します。
商品の品質向上に役立つ
一つ目のメリットは、商品の品質向上です。
カスタマーサクセスの実現は、サービスの改良や機能の追加によって達成されるケースが一般的です。見づらかった楽曲リストをシンプルにまとめたり、音声認識を使った楽曲検索サービスを導入したりして利便性を高め、バグの少ない高精度なサービスへと改善することが大切です。
結果的に優れたサービス品質が話題をよび、新たなユーザー確保につながるでしょう。
顧客満足度の向上に貢献する
カスタマーサクセスの実現によって、顧客満足度も高まっていきます。成功体験を継続的に提供できるようになれば、顧客ニーズをそれだけ満たし続けることになるため、他のサービスと差別化を進められるでしょう。
満足度の高い優れたサービスとして、長期的に愛用してもらえるようになります。
売上の成長につながる
継続的なサービスの利用と高い満足度によるユーザー数の増加によって、企業の売上にも直接良い影響が現れ始めます。サブスクリプションサービスが近年注目を集めているのは、このようにユーザーに定着してもらうことができれば、長きにわたって安定した収益を確保できるためです。
カスタマーサクセスの実現によって、多くのユーザーに気に入ってもらえれば、企業の成長を大きく後押しすることができます。
カスタマーサクセスの実践方法
カスタマーサクセスは、次のようなプロセスによって実施していくことができます。ここでは具体的な実践方法について解説します。
達成すべき目標を設定する
一つ目のプロセスは、達成すべき目標の設定です。
カスタマーサクセスを実現するためには、さまざまなアプローチが検討できるはずです。検討事項すべてを達成できれば良いのですが、一つずつ対処してくことが効率的です。
そのため、達成すべき目標は懸念事項の一つを解消できるものにすると良いでしょう。サービスを通じてどのような顧客の成功をサポートできるのか、どうサポートすれば良いのかを考えていきましょう。
また、目標を掲げる際には「顧客継続率〇〇%」など、具体性のある数値目標(KGIやKPI)を定めることが効果的です。
顧客データを収集できる環境を整備する
カスタマーサクセスの実践においては、顧客データの収集も欠かせません。そもそも自社のサービスはどのように扱われており、どれくらいの期間で顧客の離脱や解約が行われているのかなど、問題解決の糸口を掴むための環境整備を進めましょう。
顧客の利用ステータスあるいは顧客向けにアンケートを実施することで、具体的な顧客ニーズを把握できるようになります。
顧客間のコミュニケーションを活性化させる
カスタマーサクセスにおいては、顧客と企業だけでなく、顧客同士のつながりを強化することも大切です。
先ほどお伝えしたように、カスタマーサクセスを実現するためには、顧客体験を総合的に強化していくことが求められます。企業から提供されるサービスの恩恵を受けるだけでなく、サービス利用者同士がお互いに利益を享受できたり、非ユーザーに「自分も加入したい」と思わせるようなコミュニティを作っていったりすることも大切です。
カスタマーサクセスのKPI
カスタマーサクセスの目標達成においては、それにつながる指標をあらかじめ用意しておくことも大切です。ここでは、カスタマーサクセスの実現に役立つKPIの例を紹介しましょう。
ヘルススコア
ヘルススコアとは、顧客がサービスを継続して利用し続けてくれているかどうかを数値化したものです。
ヘルススコアが高いほど顧客の継続利用率は高く、サービスの寿命を伸ばしてくれます。逆に、スコアが低いとサービスの継続率は低く、寿命の短縮につながってしまいます。
ヘルススコアがどれくらいかを把握することで、カスタマーサクセスの成功度合いを測ることが可能です。
チャーンレート
チャーンレートは、いわゆる解約率のことです。サブスクリプションサービスにおいては、このチャーンレートの良し悪しが非常に重要な指標となります。
チャーンレートには、解約数を契約顧客数で割った「カスタマーチャーン」と、サービス単価に解約数を掛け合わせ、それを売り上げで割った「レベニューチャーン」という2つの指標があります。
これら2つの指標をうまく扱うことで、実施すべき施策を無駄なく検討できるようになります。
アップセル率・クロスセル率
アップセル率は、よりグレードの高いサービスへの乗り換え割合を示す指標です。対して、クロスセル率とは、同プラットフォームで提供されている別の商品の追加購入割合を示したものです。
これらの指標を確認することで、収益増加の余地を検討できます。あるいは、顧客に対してアップセル・クロスセルの呼びかけを行う指標とできます。
NPS
NPSはNet Promoter Scoreの略称で、顧客のロイヤルティをアンケートで把握する方法です。いくつかの質問を用意し、それぞれの問いについて10点満点で評価してもらい、サービスの満足度や改善の余地を把握します。
カスタマーサクセスの導入事例
次に、カスタマーサクセスの実際の導入事例について見ていきましょう。
株式会社SmartHR
株式会社SmartHRは、クラウド経由でRPAを提供している会社です。
カスタマーサクセスチームを独自に構築し、継続率99.5%という高い結果を残しています。人事労務ソフトという競合が多い分野でこれだけの継続率を実現できている理由としては、段階的な顧客満足度の向上につながる施策の投下が挙げられます。
サービスを立ち上げ手間もない頃は、とにかく丁寧なカスタマーサポートに注力し、顧客の課題解消や満足度を高める施策に力を入れていました。解約発生の際には丁寧なヒアリングを実施し、迅速な改善を実現しています。
顧客が定着してきたあとは、さらなる顧客の成功に向けたアップセルの推進を実施しました。高額なサービスを促すことで、さらなる収益化と同時に手厚い顧客対応を実現し、カスタマーサクセスに成功しています。
GROOVE X株式会社
家族型ロボット「LOVOT」を提供するGROOVE X株式会社は、カスタマーサクセスで売り上げを10倍にしたことが、大きな注目を集めました。同社は一体あたり30万円という高価な家庭用ロボットを販売していますが、売り上げ増加のきっかけとなったのが、既存顧客によるSNS発信でした。
すでにLOVOTを有している顧客が自発的にSNSを活用したことで、クチコミ効果で潜在顧客にアプローチすることに成功しています。
このような反応を受け、同社では顧客に対してさらなるSNS活用を促すべく、積極的な機能改善を進めていきました。個々の機体へ愛着を感じさせるため、目の種類や声の種類を拡充し、一体毎の個性を強化したのです。
あるいはSNS上でユーザー同士がコミュニケーションを行えるコミュニティを立ち上げるなど、とにかく顧客体験の向上に努め大きな結果をもたらしました。
カスタマーサクセスの導入・立ち上げにおすすめのツール
最後に、カスタマーサクセスの導入および立ち上げに活躍するツールを3つ紹介します。
KARTE
KARTEは、株式会社プレイドが提供する顧客体験の向上に特化したCXプラットフォームで、企業の圧倒的な顧客理解をサポートしています。膨大な行動ログから顧客一人ひとりの体験を鮮明に可視化し、彼らの状況に最適なコミュニケーションの提供に努めることができます。
顧客のサービス訪問状況をリアルタイムでモニタリングしたり、ウェブチャットの搭載で即時やりとりを実現したり、アクションを起こすタイミングを管理したりと、できることは豊富です。
HiCustomer
HiCustomerは、HiCustomer株式会社が提供するカスタマーサクセスの管理を効率化するためのクラウドサービスです。CRMやチャットツールに点在しているデータを一元化し、集計作業やステータス管理を効率良く進められます。
蓄積・監視している顧客データから、退会やアップセルの兆候を自動で分析し、検知して通知してくれるため、業務の属人化を防ぎ、高いパフォーマンスを常に維持できます。
pottos
pottosは、株式会社ODKソリューションズが提供しているカスタマーサクセスの自動化を支援してくれるサービスです。顧客のサービス利用状況を自動的に管理し、状況の変化を逐一通知してくれます。
解約の兆候が現れている顧客、アップセルの兆候が現れている顧客をそれぞれ分析し、通知してくれるため、顧客分析にかかる時間と手間を解消できます。
まとめ
今回は、カスタマーサクセスについて解説しました。
カスタマーサクセスへの注目は、サブスクリプションサービスの登場とともにますます進んでいます。顧客との良好な関係を築き、さらに優れたサービスを提供する上でも、カスタマーサクセスの取り組みは重要です。
必要に応じて最適なツールを導入しながら、顧客の成功体験を支援していきましょう。