「顧客の購入履歴やアンケート履歴から真の課題を探る」「顧客の属性からプレゼントするクーポンを決める」「商談履歴から効率の良い商談プロセスを探る」「メルマガの開封率から最適なタイトルや配信時間を探る」このように、顧客とのやり取りから得られる情報を分析し、顧客一人ひとりに合わせた情報提供や販売促進を行っていく取り組みのことをCRM戦略と呼びます。
CRM戦略は、中長期的な利益を最大化できるということから、近年、多くの企業に注目されています。しかし、「具体的な仕組みが分からない」「導入するときのイメージが湧かない」などといった声も少なくありません。
今回は、CRM戦略の基本的知識やメリット、導入手順などについて解説します。
CRM戦略とは
そもそも「CRM」とは何でしょうか。CRMとは、「Customer Relationship Management(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)」の略称で、日本語では「顧客関係管理」「顧客関係マネジメント」と訳されます。
では、「CRM戦略」とは何でしょうか。CRM戦略とは、顧客との関係性を構築・維持しながら、中長期的な利益を最大化させていく戦略のことをいいます。
具体的には、下記のような、顧客とのやり取りを通して得られる情報から、顧客の課題や志向、ライフスタイルなどを把握し、その上で顧客一人ひとりに合わせた情報提供や販売促進を行っていきます。
- ・属性(氏名、年齢、性別、住所、連絡先など)
- ・購入履歴(購入商品、購買頻度、使用クーポン、累計購入額など)
- ・イベント参加履歴
- ・問い合わせ履歴
- ・メール配信履歴
- ・アンケート履歴
この取り組みで顧客の心をつかみ、ファンやリピーターになってもらうことができれば、つまり良い関係を築くことができれば、企業として継続的かつ安定的に収益をあげられるようになるでしょう。
なお、「CRM」という用語を使うときには注意が必要です。単に「CRM」といったとき、上記で説明した「CRM」や「CRM戦略」を指すケースもあれば、「CRMシステム(企業のCRM戦略活動を支援してくれるITシステム)」を指すケースもあります。文脈によって使い分けてください。
CRM戦略の例
CRM戦略のイメージを膨らませるため、具体的な例で考えてみましょう。ご自身が自転車用品のネットショップを経営しているところを想像してみてください。
ネット上には、競合するショップがたくさんあります。商品や価格帯、サービスの品質などにおいて、自社は優位性を出すことができません。
そのような状況の中、顧客を獲得するためにはどうすれば良いでしょうか?効果を期待できるアプローチの一つがCRM戦略です。
仮に、20代女性が新規顧客として自転車の空気入れを買ってくれたとします。メルマガに登録してもらい、自転車メンテナンスに関するお役立ちコンテンツを配信したらどうでしょうか?
おもしろいコンテンツや勉強になるコンテンツであれば、ファンになってもらえる可能性が出てくるでしょう。そうすれば、再度販売サイトを見に来てもらえるかもしれません。そこで20代女性に人気のある自転車を案内すれば、興味を持ってくれるかもしれません。
さらに、この20代女性が、2年~3年といった長期的な顧客になってくれたとします。購入履歴やアンケート履歴などを分析すれば、その人特有のニーズというものが見えてくるでしょう。そのニーズを解決できる商品をクーポンとともに案内すれば、興味を持ってくれるかもしれません。
このように、CRM戦略では顧客との関係性に着目します。一度でも購入してくれた方、あるいは興味を持ってくれた方に、ファンやリピーターになってもらうことで、企業としての利益を確保していきます。
CRM戦略が注目される背景
顧客との関係性に着目したCRM戦略が、今注目を集めている理由は何でしょうか?
現代は、大量の商品であふれている時代です。さらに、インターネットやスマートフォンなどの普及により、それらに関する情報に誰もが容易にアクセスすることができます。
多くの顧客は、自分にとって必要な商品に関する情報を能動的に集めることができますし、商品同士の比較・検討も簡単に行うことができます。
商品を販売する側である企業は、現代のこういった状況をどのように捉えるでしょうか?
「多くの競合他社がいる中、自社が選ばれる存在となるためには、顧客との関係性構築が欠かせない」近年、このように考える企業が増えてきました。顧客との関係性を構築して、競合他社とは異なる価値を提供できれば、他社との差別化を図ることができます。
これが、CRM戦略が注目を集めている主な背景です。今後もこの傾向は続いていくと考えられます。
CRMシステムとは
ここまで、CRM戦略の基本的な知識を解説してきました。
CRM戦略では、一般的にCRMシステムが活用されます。CRMシステムとは、企業のCRM戦略活動を支援してくれるITシステムのことです。
CRMシステムは、顧客の属性や購入履歴、問い合わせ履歴、アンケート履歴など、顧客に関するデータを一元管理してくれます。顧客分析やナレッジ蓄積、メール配信、イベント管理といった機能も備わっています。
また、下記のような営業に関連するシステムと連携できる製品もあります。
- ・MA(Marketing Automation):企業のマーケティング活動を支援してくれるITシステム
- ・SFA(Sales Force Automation):企業の営業活動を支援してくれるITシステム
- ・ERP(Enterprise Resource Planning):企業の基幹業務の運営を支援してくれるITシステム
代表的なCRMシステムには、ソフトブレーン株式会社の「eセールスマネージャー Remix Cloud」やsalesforce.com Co.,Ltd.の「Sales Cloud」などが挙げられます。
CRM戦略に取り組む際、CRMシステムが必ずしも必要となるわけではありませんが、導入した方が生産性・効果性は格段に向上します。CRM戦略実施についての検討を行う際は、同時にCRMシステム導入についての検討も行いましょう。
以降、CRMシステムを活用したCRM戦略について解説していきます。
CRM戦略のメリット
CRM戦略を導入することで、具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか?主に次の5つが挙げられます。
- ・顧客の潜在ニーズを把握しやすくなる
- ・顧客ごとにベストフィットした商品を提供できる
- ・引き継ぎがしやすい
- ・カスタマーサポートセンターの業務品質を高められる
- ・広告コストを削減できる
それぞれを詳しく解説していきましょう。
顧客の潜在ニーズを把握しやすくなる
顧客のニーズには、大きく分けて顕在的なニーズと潜在的なニーズの2つがあります。
顕在的なニーズとは、顧客自身が自覚しているもの、言語化できるものです。対して、潜在的なニーズとは、顧客自身が自覚していないもの、言語化できないものです。
一般的に、顕在的なニーズに応えるのは特に難しくはありません。問題は、潜在的なニーズの方です。
CRM戦略を導入すると、顧客の潜在的なニーズを把握しやすくなります。顧客の属性や購入履歴、問い合わせ履歴などを分析することで、「どんな問題を抱えているのか」「どんなときにどのように困ってしまうのか」などを推測できるようになるのです。
顧客の潜在的にニーズを把握し、それを商品やサービスなどに落とし込むことができれば、顧客の興味を引くことができるでしょう。
顧客ごとにベストフィットした商品を提供できる
現代の顧客は、単に「高性能な商品」「多機能な商品」は求めていません。求めているのは、自分たちの悩みをストレートに解決してくれる”ベストフィットな商品”です。「高性能な商品」「多機能な商品」は求めていないどころか、むしろ「コストが増える要因」「解決が先送りになる要因」だと捉えています。
CRM戦略を導入すると、顧客ごとにベストフィットした商品を提供できるようになります。顧客の属性や購入履歴、閲覧コンテンツなどを分析することで、顧客ごとに提供するものを考えられるようになるからです。
顧客ごとにベストフィットした商品を提供できれば、顧客のさらなる利用を促すことができるでしょう。
引継ぎがしやすい
ある特定の業務の担当者が異動、あるいは退職となった場合、問題となるのが引き継ぎです。
顧客情報を個々の担当者が管理している場合、引き継ぎの際に、「あまりに時間がかかりすぎる」「引き継ぐべきデータが見当たらない」といった問題が生じることもあります。一方で、CRM戦略を導入すると、顧客のデータが一元管理されるため、上記のような引き継ぎにかかる問題が生じにくくなります。
転職が誰にとっても当たり前のこととなりつつある現代、こういった引き継ぎのしやすさは重要な要素といえるでしょう。
サポートセンターの業務品質を高められる
CRM戦略を導入すると、カスタマーサポートセンターの業務品質を高めることができます。顧客ごとに取引履歴や問い合わせ対応履歴などを記録できるため、顧客から何らかの問い合わせがあった際に、それまでの経緯を踏まえた的確な対応をスピーディーに行うことができるのです。
多くの顧客は、「なるべくスムーズに問題解決を行いたい」と考えています。問い合わせから問題解決までのスパンが短縮されれば、顧客満足度が高まるでしょう。
また、過去の問い合わせ対応履歴から頻度の高い問い合わせをピックアップして、「専用のマニュアルを作る」「『よくある質問』としてまとめる」などすれば、問い合わせ対応の工数を削減することができます。
広告コストを削減できる
CRM戦略を導入すると、広告コストを削減することができます。
顧客情報を分析することで、ファンやリピーターになってくれそうな顧客を把握できるようになるため、予算を効果的に活用できるようになりますし、それよって実際にファンやリピーターが増えれば、それ以降、広告費の負担が少なくなります。
もちろんCRM戦略の導入にもコストがかかりますが、総合的にコストを削減できるケースは決して少なくありません。
CRM戦略の導入手順
CRM戦略を導入すると自社のビジネスがどのように変わっていくのか、その具体的なイメージが湧いてきたのではないでしょうか。では、このCRM戦略をどのようにして導入していけば良いのでしょうか?
ここではCRM戦略の導入手順を5つのステップに分けて解説します。
ステップ1:目標設定
まず、CRM戦略によって自社が達成したい目標を設定します。目的とは、たとえば次のようなことです。
- ・リピーターの購入頻度を高める
- ・優良顧客のクロスアップ率を高める
- ・新規購入のキャンセル率・返品率を抑える
- ・休眠顧客の資料請求数を増やす
- ・メルマガの読者・開封率を高める
目的を明確にしておかないと、行動にブレが生じるようになり、行き違いや無駄な作業などが生じてしまう可能性が高くなります。いつの間にかCRM戦略の導入自体が目的となってしまい、当初に思っていたような成果が得られないこともあります。したがって、目標は必ず設定するようにしましょう。
ステップ2:KPI設定
次に、設定した目標に応じて、適切なKPIを設定します。KPIとは、「Key Performance Indicator(キー・パフォーマンス・インディケーター)」の略称で、企業目標の達成度合いを評価する定量的な指標のことです。
CRM戦略において、代表的なKPIとしては、次のようなものが挙げられます。
- ・リピート率
- ・クロスアップ率
- ・資料請求数
- ・キャンセル率
- ・購入頻度
- ・購入累計額
- ・メルマガ読者数
設定した目標や過去の業績などをベースに、KPIを設定しましょう。
KPIについてもっと知りたい方はこちらを参照してください。
ステップ3:体制作り
CRM戦略は、ただ導入すれば良いというものではありません。社内で定着させなければなりません。
そのため、CRM戦略の導入では、体制作りも重要な要素です。関連する社員と話し合いながら、業務フローや運用ルールなどを整えていきましょう。
また、社内で新しい仕組みを導入する際、難色を示す社員も少なくありません。「なぜCRM戦略を導入するのか?」「どういった意義があるのか?」「社員側にはどういったメリットがあるのか?」などしっかりと説明する必要があるでしょう。
ステップ4:CRMシステムの導入
体制作りが完了したら、続いてCRMシステムの導入です。現在、数多くのCRMシステムが登場していますが、スムーズに導入したり成果を出したりするためには、自社の状況にあった製品を選定することが重要です。
選定ポイントとしては、主に次の4つがあります。
使い勝手
顧客とのやり取りは毎日行うことも少なくないため、使い勝手はとても重要です。使い勝手が悪ければ、ミスが多く発生したり、通常業務に支障をきたしたりしてしまうでしょう。
拡張性
前述したように、CRMシステムの中には、MAシステムやSFAシステムなど、他のシステムと連携できる製品もあります。他のシステムとシームレスに連携することができれば、より広い範囲でデータの一元管理ができるようになるでしょう。
導入実績
当然のことではありますが、導入実績が豊富であればあるほど、安心して導入することができます。自社と似たような状況の導入実績が豊富であればなお良いでしょう。
サポート体制
CRMシステムを使用していると、疑問やトラブルが生じることもあります。サポート体制がしっかりしていれば、スムーズに解決しやすくなります。
ステップ5:運用開始
CRMシステムを導入したら、いよいよ運用開始です。
新しい仕組みの導入にはトラブルがつきものですので、人員や時間に余裕を持たせた上で行うようすると良いでしょう。不安がある場合は、あえて小規模で始め、徐々に広げていくスモールスタートがおすすめです。
なお、CRM戦略は、効果が発揮されるまでにある程度の時間を要します。顧客との関係性は一朝一夕で作れるものではありません。
また、そもそもCRM戦略は、データを蓄積していくことで効果が発揮されてくるものです。CRM戦略導入後、効果が現れないと戸惑いを感じることもあるかもしれませんが、焦らずPDCAを回していきましょう。
まとめ
CRM戦略の基本的知識やメリット、導入手順などについて解説しました。
CRM戦略は顧客視点に立ちながら、顧客と関係を構築していく戦略であり、ファンやリピーターが増えれば、継続的かつ安定的に収益をあげられるようになります。CRM戦略の導入を検討する際、今回お伝えした内容が参考になれば幸いです。
ディップ株式会社では、日本を支える中小企業の皆様に向けて、ワンストップのDXサービスを提供しています。
DXの実践においては、人材確保や教育の壁、DXを前提とした組織改革の壁、そして予算の壁と、さまざまな課題が立ちはだかります。ディップが提案する「one-stop DX.」は、これらの問題を専属のカスタマーサクセスが並走しながら導入と運用をサポートいたします。DXに伴う現場の混乱やシステムの複雑化を回避可能です。
また、ディップではソリューションの提供にあたって、すべて自社のスタッフが顧客対応を行うダイレクトセールスを採用しています。営業とカスタマーサクセス、開発チームが密に連携を取っている営業スタッフが、顧客の潜在ニーズまでを丁寧に把握し、満足度の高いサービスの提供に努めます。
提供するDXソリューションは、バックオフィスとセールスの双方に適用可能です。DX推進を検討の際には、お気軽にご相談ください。