組織の業務効率化において、注目を集めている施策が「見える化」です。感覚的に進捗が理解しづらいデスクワーク中心の組織でも、業務の見える化に取り組むことで、これまでは把握できていなかった課題や、新しいアプローチのソリューションが開けることもあります。
今回は、見える化が注目を集めている理由や、どのような実施のメリットがあるのかについて解説します。
見える化とは?どんな意味?
見える化とは、業務状況を数字に表したり、ステータス管理をリアルタイムで更新できるような仕組みを整えたりすることで、円滑なマネジメントや問題の早期解決を図る取り組みです。また、業務フローの手順を見直し、具体的なステップに書き起こしてまとめる作業も、見える化の一種として広く受け入れられています。
元々は製造業の分野で頻繁に使用されてきたことばで、ランプの点灯や必要な数量の書かれた札のやり取りによって、迅速な問題解決や円滑な意思疎通を実現してきました。最近では製造業以外の現場でも見える化は適用可能であるということで、多くの業界で採用が始まっています。
可視化との違い
見える化と合わせてよく使われる用語に「可視化」があります。可視化も見える化と同義のことばで、二つは併用されるケースが多いものです。可視化と見える化の両方に取り組まなければならないというわけではないので、負担に感じる心配はありません。
見える化が必要である理由
製造業が培ってきたノウハウを、わざわざ別の業種においても採用しているのには、見える化が汎用性の高い効果を発揮することが判明してきたためです。見える化によって、どのような課題を解決できるのかを確認しましょう。
業務上の無駄を削減するため
一つ目の理由は、業務上の無駄の削減です。ワークフローにおける一つひとつの工程を具体的に確認できるようになれば、どの作業でどれくらいの時間をかけているのか、どんなアプローチで取り組んでいるのかということが第三者からもわかるようになります。
これによって、業務上の問題発見を迅速に行い、適切な課題解決策の提案にもつなげられるため、PDCAサイクルを適切に回していけるといった効果を期待できます。
トライアンドエラーを繰り返し、最適な解決策へ辿り着くプロセスは大切ですが、時間と予算は有限です。業務の見える化によって、最短経路でソリューションに到達できる環境を目指せます。
DXを実現するため
二つ目の理由は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現です。DXは業務のデジタル化を推進することで、抜本的な改革をもたらしてくれる取り組みですが、その効果を最大限活用するためには見える化が必要です。
業務のデジタル化とは、すなわちあらゆる情報をデジタルデータに落とし込み、コンピューターやAIで処理ができる環境を整備することです。業務のデータ化が進めば、必然的に見える化は進むというわけです。
そのため、DXの第一歩としても見える化は注目されており、業務が「見える」状況になって初めて、最適なDXソリューションの選定も始められるようになります。
見える化に期待できる効果
DXに必須とされる見える化ですが、業務が具体的に把握できるようになるだけでも、さまざまなメリットが期待できます。見える化の効果を4つに分けて紹介します。
業務課題を具体的に理解できる
一つ目のメリットは、業務課題の把握です。見える化はただ業務を漫然と眺めるためだけではなく、どんなところに課題があるのかを突き止める手助けをしてくれます。
たとえば、プロジェクトの締め切りが迫っているのにもかかわらず、どれだけペースアップをしても一向に納品にたどり着かないというケースがあるとします。
業務の可視化が進んでいれば、どこの過程で遅れが出ているのかを一瞬で把握できるようになります。申請承認が滞っていたりバグの対応に追われていたりといったさまざまな原因を特定することができます。
ただがむしゃらに労力を使って生産性を高めるのではなく、合理的な判断を常に下せるようになるのは見える化の強みです。
情報共有を円滑に進められる
二つ目のメリットは、情報共有の円滑化です。見える化の過程においては、あらゆる情報がデジタルデータとして扱われるため、これまで具体性に欠けていた情報も根拠を持って扱えるようになります。
業務上のどのプロセスに問題を抱えているかを明らかにした上で、人手の確保を急いで欲しいと伝えられるなど、問題が発生しているときほど見える化の効果は活かされます。
また、頻繁にエラーが起きているシステムがある場合、「最近エラーが多いから取り替えて欲しい」と上層部に伝えても、取りあえってもらえない可能性があります。しかし、システムのデータ化が進んでいれば、「このシステムのエラー率は〇〇%で、エラーのない最新のシステムにアップデートできれば、〇〇%の生産性向上が期待できる」など、具体的な提案ができるようになります。
客観性のあるデータに基づく提案やプレゼンは、説得力を持っているため、意見が通りやすくなることもポイントです。
ケアレスミスを回避できる
見える化の実践によって、ケアレスミスを回避できるようになるのもメリットです。
ワークフローが詳細に見える化されれば、担当者は自分の役割を明確に把握できるので、仕事の際に確認漏れなどが出てくる心配はありません。ケアレスミスの修正作業は今後の工程を進める上で大きな遅れを発生させる要因となるため、ちょっとした間違いでも侮れません。
業務内容を担当者以外の管理者も迅速に確認できるような体制を整えることで、迅速なフィードバックや、丁寧な確認でミスが重大なトラブルにつながるリスクを軽減します。
業務の属人化を回避できる
業務の属人化を回避できることも、見える化のメリットの一つです。高度なスキルが求められる業務は、どうしても一人の社員に一任してしまいやすく、他の社員では代替ができない環境に陥ってしまうケースが多いものです。
ワークフローをマニュアルに落とし込むなどして見える化し、ステータスをリアルタイムで確認できる体制を整えることで、一人の社員にかかる負担を大きく軽減できます。担当者の負担が大きくなってサポートが必要になった場合には、マニュアルや進捗状況を確認しながら、適切なフォローアップに回ることができます。
また、今後担当者が異動や退職となった場合でも、引き継ぎを迅速に完了できることが特徴です。
人事評価の精度を高められる
社内の見える化は、業務だけでなく人事評価にも良い影響をもたらします。
従来の人事評価は担当部署の管理者の評価に依存したり、自己申告に頼ったりするものが一般的でした。組織が大きくなればなるほど、人事担当者が一人ひとりの社員の評価を詳細に行うことが難しいためです。
人事評価の見える化を行うことで、統合されたデータベースに保管された社員IDと担当業務を紐つけ、彼らのパフォーマンスを正当に評価できます。第三者の評価や自己申告に頼る必要がなくなり、働きに応じた評価を実現します。
正当性のある評価システムを構築することで、優秀な人材が離職するリスクを回避し、高いモチベーションで仕事に臨んでくれる効果を期待できます。
見える化が可能なものの例
続いて、見える化が可能なものの代表的な例についてお伝えしていきましょう。
業務プロセス
代表的なのが、日々の業務プロセスの可視化です。
毎日の企業活動はたとえどれだけ複雑でも、基本的なワークフローが存在しています。見える化を推進することで、必然的に業務の一連の流れを具体的な形で捉えられるようになります。
また、特定の担当者に業務が依存している場合も、見える化を実施することで、ワークフローが鮮明になるでしょう。今は全体像が把握できなくとも、見える化の過程を経ることで明らかにできます。ブラックボックス化を解消できるだけでなく、今後の属人化の予防にもつながります。
業務上のトラブル
見える化が実践されることで、業務上のトラブルをいち早く捉えられるようになります。スケジュールを超過している業務や、顧客からの問い合わせが来ている場合には担当者に通知が行くようになるため、見逃しや対応の遅れなどを未然に防ぐことができます。
業務のどのようなところで、どのようなトラブルが出ているのか明らかにできるため、最適な担当者にサポートを迅速に求められるようになるでしょう。
顧客情報
顧客情報を明らかにできることも、見える化の強みです。
従来の場合、顧客情報は冊子などにまとめられているものもあれば、個人的に受け取った名刺として情報が会社に共有されていないもの、あるいは複数のデータベースにまたがって共有されているものもありました。顧客情報を見える化する過程で、これらのデータを一元化して管理できるため、大幅な情報整理を実現できます。
また、一つのデータベースを参照に顧客情報を扱えるので、データベースのIDに紐づけられた販売促進活動や、お問い合わせ対応を実現できるようになります。
社員の勤務状況・実績
社員の勤務状況や実績も、見える化によって質の高い管理を実現できます。勤怠管理システムと同期して、残業時間などの就業ステータスをまとめて確認し、最適なリソース配分が行われているかを検討できます。
また、彼らの成約率なども一覧で表示して、高い成績を挙げている人物に対しては正当な評価を与えるなど、彼らのモチベーションにつながる評価を提案できます。
見える化を実現した企業の事例
続いては、実際に業務の見える化を実現し、成果を発揮している企業の例を紹介します。
パーソルホールディングス株式会社
人材派遣会社のパーソルホールディングス株式会社では、勤怠管理システムの導入によってマネジメント業務の可視化を実行し、生産性の向上に努めました。
同社で課題となっていたのは、グループ全体における労働時間の実態把握です。36協定の遵守を掲げる同社では、実際に申告している労働時間とパソコンを使用している時間で整合性が取れているかを確認する上で、既存システムでは限界がありました。
サービス残業の撲滅を図る上でも、同社では新たに勤怠管理システムを採用することを決め、リアルタイムで可視化データを得られる仕組みを採用しました。慢性的な残業文化を排除するとともに、勤務時間内で仕事を終えようというモチベーション向上にもつながり、生産性の向上と働き方改革の推進を実現しています。
株式会社NewsTV
動画コンテンツの制作と配信に携わる株式会社NewsTVでは、内部統制や監査対応のための業務の見える化を、ツール導入にて実現しています。
同社では経理、総務、労務の3つの機能を管理部門が統括していたものの、対応マニュアルなどは存在せず、業務の属人化が懸念されていました。給与支払いなど、対応に遅れが出てしまった場合には従業員の生活に悪影響を及ぼすなどのリスクもあり、速やかな可視化が求められていたのです。
そこで業務の可視化に対応したマネジメントツールの導入によって、実業務に最適化されたマニュアルを作成し、業務に不備がないようマネジメント体制を整備することに成功しています。ツール導入を経て、業務のオンライン化にも対応したことで、新しい働き方の推進にも役立っています。
株式会社仲庭時計店
老舗時計販売店の株式会社仲庭時計店では、営業力の強化を視野に入れた情報共有システムの活用機会拡大を目指したツール導入を進めました。紙媒体やExcel(エクセル)を使った集計作業を解消し、データベースを一元化することにより、EC展開の拡大などを目指しています。
このような課題に取り組むため、同社ではグループウェアの導入を進めました。
店舗・ECサイトの営業管理や顧客管理など、データ収集の体制を整備することで、さまざまな業務の効率化を実現しています。業務上のペーパーレス化も促進され、ECサイトの強化や経営戦略の改善にも努めることに成功しています。
グループウェアとは?機能や導入のメリットは?おすすめのツール・サービスと選び方
見える化に役立つおすすめのツール・サービス
最後に、上記のような事例を再現するのに役立つ見える化に最適なツールやサービスを紹介します。自社の課題に合わせたサービスを導入することがポイントです。
MITERAS(ミテラス)
MITERAS(ミテラス)は、パーソルプロセス&テクノロジー株式会社が提供するスタッフの勤務実態と作業内容の見える化に役立つ仕事可視化サービスです。申告時間とPCの利用状況を照合し、サービス残業が発生していないかをモニタリングします。
また、オフィスにとどまらずテレワーク環境においても社員の作業内容を確認できるため、仕事効率が低下していないか確認するのにも役立ちます。36協定の遵守に力を入れたい会社やテレワークでも高いパフォーマンスを維持したい会社におすすめのサービスです。
料金プラン(1ライセンスあたり)
・要問い合わせ
公式サイト
Microsoft Power BI
Power BIは、Windowsでお馴染みのMicrosoftが提供しているデータ可視化ツールです。個人から組織全体にまで自由に運用規模を設定できるため、あらゆる組織で活躍できる製品といえます。
数百ものデータ視覚化とあらかじめ組み込まれたAI機能を活用して、データ統合にとどまらない生産性の向上に努めます。既存Excelデータとの統合もできるので、移行作業も簡単です。
Windows環境を使用していて、大きな組織でも対応し得る堅牢なシステムを構築したい場合におすすめのプロダクトです。
料金プラン(1ライセンスあたり)
- ・Power BI Pro:1,090円/月〜
- ・Power BI Premium:2,170円/月〜
公式サイト
FineReport
FineReportは、バリューテクノロジー株式会社が提供する世界1万5,000社で愛用されているデータ可視化ツールです。日々発生していた煩雑なレポートと帳票作業の効率化を実現し、業務負担の軽減に役立ちます。
各システムと帳票データも一元管理することができ、データを可視化して客観性のある分析をサービス上で実現可能です。データに基づく意思決定や分析を進め、スマートな会社作りを実現したい方におすすめのサービスです。
料金プラン(1ライセンスあたり)
・要問い合わせ
公式サイト
まとめ
今回は、業務の見える化を進めるべき理由や、得られるメリットについて解説しました。
業務プロセスや人事管理を可視化することで、これまで見えていなかった組織内の活動実態や、新しい課題発見にも繋げられるため、更なるポテンシャルを発揮できるようになります。
業務の見える化においては、目的に応じたさまざまなサービスも登場しています。最適な製品を選び、会社のDXを進めていきましょう。