業務において紙を利用しないというペーパーレスの実践は、比較的取り組みやすいということから、国内でも多くの企業で進められています。DXの一環としても進められているペーパーレス化ですが、実施にあたり検討しておくべき問題点や、効果的な活用方法も存在しています。
今回はそんなペーパーレスの実践で活躍する、知っておくべきポイントなどについてご紹介します。
ペーパーレス化とは
そもそもペーパーレス化とは、業務上から紙媒体の利用を撤廃し、電子媒体へと移行することを指しています。たとえば、顧客名簿を電子化してどこからでもデータベースにアクセスできるようにしたり、会議資料はスマホやタブレットで確認したりするよう仕組みや環境を改善していきます。
また、ペーパーレス化に伴い、業務そのものを解消してしまうことで、効率化を実践するケースもあります。たとえば、契約書類を電子化することで押印の手間を省いたり、コピー機のリース契約を解消、あるいはコピー業務をなくしてしまったりというものです。
業務効率化はもちろん、コスト面でもメリットが大きいことから、組織の規模を問わず、さまざまなシーンで導入が進んでいます。
ペーパーレス化の成功事例
ここで、実際にペーパーレス化を実践した例について確認していきましょう。
ソフトバンクグループ株式会社
大手通信会社のソフトバンクグループ株式会社は、国内企業としても早い段階からペーパーレス化を実践してきた企業でもあります。
10年前からDXを進めてきたという同社で近年取り組んでいるのが、「デジタルワーカー4000プロジェクト」です。デジタル技術を活用してこれは4,000人分の仕事を自動化しようという取り組みで、既存業務の電子化により、多くのリソースを確保できる体制を整備しています。
また、同社では2012年に「ペーパーゼロ宣言と呼ばれるコンセプトを打ち出しており、DXの初期のステップとしてペーパーレスに力を入れてきました。2011年は少なくとも3億3,000万枚の紙を消費してきましたが、2020年度は全社で1,000万枚以内に収まる見込みとなるなど、確かな効果を発揮しています。
株式会社みずほ銀行
メガバンクの株式会社みずほ銀行では、国内店舗に約1万人いる事務員の3割程度を、資産運用の相談などを行う営業職へ配置転換する計画が進んでいます。この計画を円滑に進めるための手段として、注目されているのがペーパーレス化です。
これまでの店頭受付業務は、タブレットを活用した専用機器によって代替が進んでおり、みずほフィナンシャルグループの勘定系システム「MINORI(ミノリ)」を連携し、取引をデジタル化できるよう導入が進んでいます。
デジタルへの代替によって、窓口に必要な人員の数を減らし、高度な商品販売に注力できる環境を実現しています。
自由民主党
現与党の自由民主党(自民党)においては、総務会におけるタブレット端末の導入が始まっています。法案概要などをペーパーレス化し、職員らの負担軽減につなげられる仕組みづくりに動いており、より効率的な組織運営に期待が集まります。
年齢層が高い現場のデジタル化はこれまで進んできませんでしたが、この取り組み以降、政治の現場や行政のデジタル化がより促進されることが期待できます。
ペーパーレス化のメリット
このような導入事例が次々と登場している理由としては、ペーパーレス化にさまざまな効果が期待されているためです。ペーパーレスのメリットについて確認していきましょう。
デジタルデータを活用した業務効率化を実現できる
ペーパーレス化を実践する大きなメリットの一つが、デジタル活用による業務効率化です。
上述のように、これまで紙媒体を使っていた業務を削減することで、大幅な効率化を進められます。資料をプリントアウトする手間を解消したり、データベースをデジタル化することによりネット経由でいつでも参照できたり、データ活用の可能性も広げていくことが可能です。
これまで多くの人手を必要としていた業務も、デジタル化によって業務時間を減らし、より高度なプロジェクトへ人手を配分できるようになります。
紙代やプリンターリース料金のコストを削減できる
ペーパーレスの実現によって、紙媒体の利用の際に発生していたコストを削減することが実現します。プリンターのリース料金や、紙を購入する費用、あるいはインク代など、さまざまな費用を丸ごと削減可能です。
物理的な保管スペースを削減できる
紙を使わずに従来通りの業務を進められるようになれば、オフィス空間の有効活用にもつなげられます。プリンターや印刷紙、書類の保管を物理的なスペースに頼らなくて良いので、今までのような広い空間を必要としなくなります。
ペーパーレス化によって削減したスペースは、新しい会議室として再利用したり、オフィス空間を今よりも小さいところへ引っ越し、賃料を安く抑えたりすることも可能になります。
セキュリティ対策を向上できる
デジタル業務へ移行することで、物理的なセキュリティ対策を強化することも可能になります。紙を使った業務を続けていると、紛失や破損といったリスクが常に存在するだけでなく、盗難に遭ってしまう可能性もあります。
特に、顧客情報や社内の機密資料など、紙の状態で情報を扱うことがリスキーなケースも多々あるため、できる限りデジタル管理に移行したいところです。
これらの情報をペーパーレスに移行することで、管理を一本化できるのも強みです。「あの資料、どこにやったかな?」といった事態を解消し、検索にかけるだけですぐにデータベースから引っ張ることが可能です。
ペーパーレス化のデメリット
このように、ペーパーレス化を実行することはさまざまな恩恵を受けられる反面、注意しておくべきデメリットもあります。あらかじめ把握しておきましょう。
作業効率が低下する場合がある
一つ目のデメリットが、作業効率がかえって低下してしまうケースです。
これまで紙ベースの仕事に慣れていた現場の場合、いきなりタブレットなどを導入してペーパーレス化を進めていくと、思うように仕事ができないトラブルが頻発することが想定されます。特に、デジタルネイティブではない中高年層の多い現場の場合、従来との業務のあり方の違いについていけず、仕事効率が低下してしまう可能性は高いと考えておいたほうが良いでしょう。
とはいえ、このようなデメリットは一時的であるケースがほとんどで、導入から時間も経てば自然と運用ができるようになっていくものです。短期間でペーパーレス化の有効性を決めてしまうことなく、中長期的に成果を見届けましょう。
紙とデジタルの両立が求められるケースがある
二つ目のデメリットは、完全なペーパーレス化が行えず、紙とデジタルの両方を使用しなければならないケースがある点です。ペーパーレス化は必ずしも一気に実現できるものではなく、場合によっては段階的に進めたり、選択肢の一つとして紙を用意する必要も出てきたりします。
たとえば、先ほど紹介したみずほ銀行の例では、デジタルによる手続きを推奨している一方で、従来通り紙での手続きにも対応しています。
場合にもよりますが、デジタルと紙の両立が上手くいかないと、紙とデジタルの両方を同じ負荷で利用しなければならず、かえって業務負担が大きくなってしまうリスクも発生しかねません。
紙がどうしても必要な業務についても話し合い、上手くデジタル活用を進められるよう検討しましょう。
ペーパーレス化が進まない理由
ペーパーレス化は魅力的な取り組みである一方、まだまだ多くの企業は紙の使用を続けています。ペーパーレス化のメリットが大きいのにもかかわらず、実現に至らない理由についても見ておきましょう。
初期費用が発生する
ペーパーレス化が遅れている理由の一つが、導入コストです。当たり前ですが、新しいシステムを導入するためにはそれだけ費用がかかるため、そのための設備投資に力を入れなければなりません。
近年は国からもIT活用に向けた補助金が多数登場していますが、それでも導入負担をゼロに抑えることは難しいものです。
ペーパーレス化の費用対効果の疑問を払拭できないところが、ペーパーレス化を遅らせている原因となっています。
業務プロセスの改変を余儀なくされる
二つ目の課題が、業務プロセスの改変です。新たにデジタル技術を導入するとなると、従来のワークフローを大幅に変更しなければならない可能性も出てきます。受付業務はすべてデジタル化し、事務処理手続きも大幅に変更されるため、そのための体制構築には時間と人手を要します。
常に人手が足りない中小企業や今のワークフローにこだわりがある企業にとって、このようなプロセスの刷新は好ましいものではなく負担も大きいため、なかなかペーパーレスに踏み切れないのが現状です。
サイバーセキュリティの改善に取り組む必要がある
ペーパーレス化は物理的なセキュリティを強化できますが、一方で、サイバーセキュリティのリスクが大きくなる点には留意しなければなりません。
日本企業は他の先進国と比べてもセキュリティ対策が遅れているとされており、国際的なサイバー犯罪の標的となりかねません。単にシステムを導入するだけでなく、保守管理やセキュリティ対策環境の整備にも力を入れる必要があります。
ペーパーレス化を推進するためのポイント
このようなデメリットや課題を少しでも小さくする上では、次の3つのポイントに注目して導入を進めていくことが大切です。
クラウドシステムを導入してコストパフォーマンスを高める
一つ目のポイントは、クラウドシステムの導入です。
クラウドシステムはインターネットを介してサービスを利用するという仕組みを有しており、従来のオンプレミス型のように、初期費用も高くなければ運用環境も場所に左右されません。コストを抑えてペーパーレス化を実現し、働き方改革にも応用が効くサービスであるといえます。
ユーザビリティに配慮したシステムを導入する
二つ目は、ユーザビリティへの配慮です。
ペーパーレス化の推進においては、従来と同じような業務フローを維持したり、デジタルに慣れていない人でも使いやすいシステムを導入したりすることが求められます。
近年はさまざまなペーパーレス化に役立つツールが登場していますが、中にはそういったニーズも想定し、デジタルに慣れていない人でも使いやすいサービスがいくつも登場しています。
これらを有効活用することで現場での混乱を小さく抑え、ペーパーレス化を実現可能です。
スモールスタートを心がける
三つ目のポイントが、スモールスタートです。
ペーパーレスの実施にあたり、いきなり全社的な改革を断行してしまうと、さまざまなトラブルが想定されるだけでなく、業務効率が大幅に低下してしまうリスクもあります。
そのため、まずはもっとも導入ハードルが低い部署、あるいはペーパーレス化の余地が大きい部署に適用し、社内の運用ノウハウを蓄積しながら、徐々に導入範囲を広げていく方法が有効です。
ペーパーレス化に役立つツール
最後に、ペーパーレス化を推進してくれるツールについて、ポピュラーなサービスを紹介します。
freee
freeeは、会計管理などをクラウド上で遂行できる便利なサービスです。
人事労務やプロジェクト管理など幅広い業務に適用できるため、抜本的なDXにも活躍するツールです。個人や中小企業、大企業に至るまで、幅広いスケールの顧客に向けて提供されているため、導入しやすいサービスと言えます。
公式サイト
クラウドサイン
クラウドサインは、契約手続きをネットで行うことができる便利なサービスです。
紙の契約書の送付や対面で手続きを行う業務、さらには押印の業務も解消することができ、電子保存ができるため、契約に伴う業務効率化を大幅に進められます。
公式サイト
Chatwork
Chatworkは、チャット形式でコミュニケーションを実施できるサービスです。
日々の業務連絡をまとめて社員向けに発信したり、個別に社員に対して情報共有を行ったりすることも可能であるため、コミュニケーションコストを大幅に小さくできることが特徴です。
無料での利用も可能なため、試験的な導入を行っても良いでしょう。
公式サイト
まとめ
今回は、ペーパーレス化のメリットとともに、導入のデメリットや解消すべき懸念点を紹介しました。
ペーパーレスの実現には手間と時間がかかる一方、いざ実現できてしまえば、大きな業務効率化につながります。働き方改革やDXも大幅に進み、魅力的な企業へと生まれ変わることができるでしょう。
ディップ株式会社では、日本を支える中小企業の皆様に向けて、ワンストップのDXサービスを提供しています。
DXの実践においては、人材確保や教育の壁、DXを前提とした組織改革の壁、そして予算の壁と、さまざまな課題が立ちはだかります。ディップが提案する「one-stop DX.」は、これらの問題を専属のカスタマーサクセスが並走しながら導入と運用をサポートいたします。DXに伴う現場の混乱やシステムの複雑化を回避可能です。
また、ディップではソリューションの提供にあたって、すべて自社のスタッフが顧客対応を行うダイレクトセールスを採用しています。営業とカスタマーサクセス、開発チームが密に連携を取っている営業スタッフが、顧客の潜在ニーズまでを丁寧に把握し、満足度の高いサービスの提供に努めます。
提供するDXソリューションは、バックオフィスとセールスの双方に適用可能です。DX推進を検討の際には、お気軽にご相談ください。