IT重説対応物件とは?得られるメリットと今後の課題│コボットLAB

IT重説対応物件とは?得られるメリットと今後の課題

IT重説対応物件

近年、不動産のIT化が著しく進んでいます。そのような状況の中、業務の一つである「重説(重要事項説明)」にIT技術を盛り込んだ「IT重説」というものが注目されています。

それに伴い、「IT重説対応物件」も増加し、不動産業において一般的な物件になりつつあります。

今回は、「IT重説」について解説すると共に、「IT重説対応物件」の概要やメリットについて紹介します。

IT重説とは

「IT重説」は、ビデオ会議などを使用して実施される重要事項説明です。

重要事項説明とは、賃貸契約や売買契約において必須のものであり、以前は宅地建物取引士自らが直接説明する必要がありましたが、2017年10月1日より運用を開始したIT重説により、非対面でも実施することができるようになりました。

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IT重説対応物件とは

IT重説対応物件は、その名の通りIT重説が可能な物件を意味します。

IT重説対応物件は、業者がその物件に対しIT重説を実施できるかどうかが重要であり、特別なライセンスや登録は必要ありません(2021年6月現在)。

古いサイトには業者は限定されていると記されているものもありますが、IT重説が社会実験段階だった頃(2017年10月~2021年1月)であるため、本格稼働後(2021年1月移行)の現在のルールとは異なります。

また、「賃貸契約のみ」と記されているサイトもありますが、そちらも社会実験時代の名残になります。現在は「売買」「交換」「賃借」などの取引でIT重説が可能です。

では、どんな物件にもIT重説が可能なのかというと、そういうわけでもありません。以下の2つの必要事項を満たしたものが、IT重説に対応可能な物件であるといえます。

  • ・IT重説にかかる設備があり事前準備ができた上で実施できる
  • ・売主・貸主関係者等からIT重説実施の同意が得られている

IT重説にかかる設備があり事前準備ができた上で実施できる

1つ目は、不動産業者がIT重説を行うことができるかどうかに関わる事項です。

IT重説を行う設備や事前準備が整っていない場合は、IT重説を行ってはなりません。

安定したインターネット環境、音質の良いマイクデバイス、宅地建物取引士がいるか、トラブル対応の準備は把握しているか、などの用意ができていなければ、その不動産業者はIT重説を行うべきではありません。

したがって、その不動産業者が所有する物件も、IT重説が対応可能とはいえません。

売主・貸主関係者等からIT重説実施の同意が得られている

2つ目の項目は、未然にトラブルを防ぐために必要です。

不動産業者は、物件の重要事項説明を対面で行うかIT重説で行うかを選択できますが、この選択を行う際は、物件の売主・貸主の意向も反映させる必要があります。意向確認の方法についての規定はありませんが、書面などの記録可能な方法で行う方が良いでしょう。

また、重要事項説明には、内容によっては、売主・貸主、および説明の相手方の個人情報が含まれるため、全員からの同意を得る必要があります。

その他にIT重説が不向きであるケース

以上の2つの項目を満たしていても、状況によってはIT重説が不向きなこともあります。

国土交通省発行の令和3年3月度版「ITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」において、「実際に物件の確認をせずに、重要事項説明を受けていたとしても、想像していた内容と異なっていたり、実際に見ていないことにより不満が生じたりする等、トラブルが発生する可能性が高くなる」という懸念点が記されています。

このマニュアルでは、トラブル回避のために内見・内覧の実施をすすめていますが、説明の相手方が遠方の場合はそれも難しいこともあります。

例えば、説明の相手方(契約者)が遠方であるが、重説対象の物件の築年数が古いといった場合は、その実物の家に入居したときの不備やトラブルが考えられるため、IT重説だけで済ませるには不安が残ります。もちろん、その後に実際の家を内見・内覧すれば良いのですが、その時点で相手方が不満を示し契約に至らなければ、物件探しと重説からやり直しになります。

このような特殊な条件では、そもそもIT重説をすべきではないと考えられます。したがって、IT重説後の内見・内覧が容易に実施できる、もしくは実施しなくても懸念点が少ない物件(新築など)であるとういの条件を少なくとも一つ満たしているものが、IT重説対応物件にふさわしいといえるでしょう。


IT重説が可能な物件の条件

IT重説が対応可能な物件には、条件があります。ここで解説するのは、法的に定められた条件にあたります。したがって、これらに反する場合は罰せられますので、必ず守る必要があります。

取引種類は賃貸取引及び売買取引のみ

IT重説が実施可能なのは、賃貸契約および売買契約の取引のみとされています。より詳細には、

  • ・宅地又は建物の取引の売買
  • ・宅地又は建物の交換もしくは売買の代理又は媒介
  • ・宅地又は建物の賃借の代理又は媒介

とされています。したがって、「売買」「交換」「賃借」などの取引において、IT重説を実施できます。

また、この取引は「代理又は媒介」も含みますので、仲介業者を通した不動産取引にもIT重説を実施することが可能です。

取引業者は宅地建物取引業者のみ

IT重説が可能なのは、取引業者は宅地建物取引業者のみという条件があります。したがって、宅地建物取引業を事実上営んでいる業者であっても、宅地建物取引業免許を取得していない場合はIT重説の実施はできません。

そもそも、重要事項説明を実施可能なのは宅地建物取引業者のみなので、通常の重説ができる業者であれば、IT重説も可能です。

取引できる人は宅地建物取引士のみ

IT重説で取引できる人は、宅地建物取引士のみです。そもそも、重要事項説明を実施可能なのが宅地建物取引士のみに限られているからです。IT重説の際には、カメラ越しに宅地建物取引士の提示が必要となります。


IT重説で遵守すべきこと

続いて、IT重説で遵守すべきことについて解説しましょう。一般的な重説にはない、IT重説特有の遵守項目です。

IT環境を整備する

国土交通省発行の令和3年3月度版「ITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」において、IT重説の実施環境について「その内容を十分に理解できる程度に、映像を視認でき、かつ、音声を聞き取ることができるとともに、双方向でやりとりできる」ことが望ましいとされています。

そのため、IT重説を実施する際には、これらの要件を満たしていなければならなく、これらの条件を満たしているデバイス(パソコンやスマートフォン)およびサービス(インターネットやウェブ会議アプリ)を準備する必要があります。

重要事項説明書類を事前に送付しておく

IT重説は、重要事項説明書が相手方の手元にある状態で行う必要があります。したがって、IT重説の前に、重要事項説明書を書面で相手方に送付する必要があります。

また、重要事項の説明は、書面上にて取引士の氏名と押印を添えて行う必要があります。電子化した画像やPDFとして、電子メールで送信することは禁じられています。

宅地建物取引士証を提示する

説明の相手方が、宅地建物取引士証を確認可能な状況であることが必要です。これは、取引士証を持っていない者がIT重説をしたり、取引士証の名前を貸したりすることを防ぐためです。

取引士証をカメラ越しに提示した後、取引士証の名前と登録番号を相手方に読んでもらうことで、取引士本人であることを確認してもらいます。

トラブルがあった場合はIT重説を中断する

IT重説の最中に、何らかの理由で映像や音声の通信にトラブルが発生した場合、取引士は直ちにIT重説を中断し、問題の原因を把握する必要があります。その後、トラブルが解決しない限り、IT重説を再開することはできません。

社会実験の結果から、多くのトラブルはインターネット接続が原因であり、すぐに回復するものが多いとされています。すぐに回復しない場合は、インターネット回線が正常に接続されているかどうかを確認しましょう。

トラブルを防ぐ意味でも、事前に回線状況について確認したうえでIT重説を実施することが重要です。


IT重説で注意すべきこと

IT重説

続いてIT重説で注意すべきことについて紹介していきましょう。

IT重説の実施に同意を得る

上述の通り、IT重説には貸主・説明の相手方などの関係者から実施の同意が得る必要があります。同意については明確な規定はありませんが、書面などの記録が残る形にしておいた方が無難です。

また、説明の相手方がIT重説を希望しない場合は、従来の重説を行いましょう。

IT環境を相互に確認する

説明の相手方がIT重説を行うことを要求する場合は、説明相手のIT環境が実施に足りる環境であることが必要です。

また、IT重説で用いるビデオ会議アプリは、業者と相手方の両者が使用可能である必要があります。アプリによってはOSやブラウザの種類やバージョンと互換性がないものもあるため、事前に確認する必要があります。

契約者本人かの確認を取る

IT重説は、説明の相手方が契約当事者本人(代理人を含む)であることが前提条件となります。そのため、IT重説を行う前に相手方の身元を確認し、相手方が契約当事者であることなどを確認する必要があります。

取引士は、自分の取引士証を提示するタイミングで、相手方にも本人確認書類(運転免許証や学生証)を提示してもらうと良いでしょう。

IT重説後に内見を実施する

IT重説では、実物の物件を見ずに重説を実施するため、その後実際に物件を見た際に、想像していた内容と異なっていたり、実際に見ていないことにより不満が生じたりすることがあります。IT重説後に、内見・内覧はできるだけ実施するようにしましょう。

録画・録音に関して確認を取る

IT重説後にトラブルが起きた場合の解決手段として、録画・録音が効果的です。一方、重要事項の説明には、取引士・説明の相手方・売主・貸主といった個人情報が含まれる場合があります。したがって、事前に録画・録音に関して確認を得る必要があります。

国土交通省の「賃貸取引に係るITを活用した重要事項説明実施マニュアル概要」に基づき「双方の了解のもとで行う」「不適切な内容が含まれる場合は適宜録画・録音を中断する」「説明の相手方の求めに応じてコピーを提供する」という点は遵守しましょう。

個人情報保護に関する確認を取る

上記の項目とも関連しますが、IT重説によって得た情報の中には相手方等の個人情報が含まれるため、個人情報保護の法律に則った管理が必要です。

特に、録画・録音を保存した場合、個人データに当たる可能性があることから、個人情報保護委員会発行の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」を踏まえた管理をする必要があります。


IT重説対応物件を増やすメリット

次に、IT重説対応物件を増やすメリットについてお伝えしていきましょう。

業務効率化やコスト低減になる

IT重説は、事前に重要事項等説明書を送付しておくため、相手方がIT重説を受ける前にその文書を読むことができます。その結果、説明や質疑応答がスムーズに進み、IT重説にかかる時間を短縮し、業務を効率化できます。

また、顧客の時間的負担や金銭的負担も低減させるため顧客満足度が上がり、成約率の向上につながります。成約率の向上により業務全体がスムーズに回転し、物件紹介や重説にかかる人件費の低減につながります。

日程調整がしやすくなる

仕事の関係で平日に時間が取れかなったり、長期間家を出ることが難しかったりする顧客もいます。しかし、IT重説を利用することで、業者の店舗に行けなくても説明を受けることができます。IT重説により、業者と顧客のスケジュールをより柔軟に調整できるようになります。

非対面で実施できる

コロナ時代において、非対面で実施できる点もメリットの一つです。重説は取引士が口頭で説明をする必要があるため、対面の場合は飛沫感染等の恐れがぬぐい切れません。

また、相手方から口頭で質問を受けることもあります。IT重説は、コロナ時代において感染対策として用いることも可能です。

録画・録音によりデータを残せる

取引士と相手方双方の同意が得られれば、録画・録音によりデータを残せます。これらは、業務上の資料となる他、やり取りをデータとして記録しておくことでトラブルがあった際の証拠にもなります。


IT重説の課題

便利でメリットの多いIT重説ですが、課題も多く残されています。最後に、IT重説の課題について解説していきます。

顧客のIT環境がなければ実施できない

当然ですが、顧客側のIT環境がなければIT重説は実施できません。インターネット環境が不安定な場合も、IT重説で用いられるビデオ通話では回線トラブルのもととなり、IT重説には不向きだといえます。いくら業者が努力しても手の及ばない部分であり、顧客側の対応を待たなければなりません。

手軽であるため内容が軽視されてしまう

IT重説は手軽である反面、顧客が大事な部分を聞き逃してしまう恐れがあります。顧客が自宅でIT重説を受ける場合、対面で実施する場合に比べて顧客がリラックスしている可能性が高いため注意が必要です。実施後に「そういったこと聞いていない」といったクレームが入ってしまうかもしれません。

業者は事前に顧客とのコミュニケーションを徹底し、IT重説の重要性を理解してもらったり、録画・録音でやり取りをデータ化しておいたりといった対策を取っておいた方が良いでしょう。

書面のデジタル化は禁止されている

上述の通り、重要事項説明書は、取引士が記名押印をした上で、書面にて交付する必要があります。これらは宅建業法において「重要事項説明書は書面」として定められているため、電子データでの送信は法的に禁じられています。

今後の法改正を待たなければならない課題ですので、業者はこの規定に素直に従い、うっかり電子データを送信することのないように留意しましょう。


まとめ

IT重説には、遵守すべきルールや確認すべき留意点が多く、今後発生する課題やトラブルがあるかもしれません。しかしながら、IT重説対応物件がもたらすメリットは業務効率の上昇や日程調整のしやすさなど、業者にとって高い価値があります。

IT重説の導入は労力が必要な場面もあるかもしれませんが、それ以上の対価が期待できるため、導入を検討してみてください。

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