テレワークを導入するときは、企業側と従業員側で用意しなければならないものがあります。しかし、初めて導入するとなると「導入手順は?」「なにが必要なの?」とわからないことも多いのではないでしょうか。テレワークの導入にあたってかかる費用は、国や自治体の助成金を使うことでコストを抑えられます。
この記事では、テレワーク導入の手順をわかりやすく解説します。導入する3つのメリットや使える助成金についてもまとめました。ぜひ参考になさってください。
企業がテレワークを導入する3つの目的
企業がテレワークを導入する主な目的は「BCP(事業継続計画)」、「働き方改革への対応」、「ワークライフバランスの実現」の3つです。ここでは、それぞれの導入目的について詳しく解説します。
目的1.BCP(事業継続計画)に対応するため
BCP(事業継続計画)とは、事業継続が困難な状況(例:地震、豪雨などの自然災害、大規模な火災やテロ攻撃、パンデミックなど)が発生しても事業を継続するための計画です。
総務省の「令和4年通信利用動向調査の結果」によると、新型コロナウイルスへの対応のためにテレワークを導入した企業が87.4%に達したとの結果が出ています。
これにより、想定外の緊急事態に対応するために多くの企業がBCP対策としてテレワークを導入したことが明らかとなりました。特に経営基盤が脆弱な中小企業は、大災害やパンデミックが発生すると廃業に追い込まれる可能性があるため、事業継続のための活動方法を平常時から決めておくことが重要です。
目的2.働き方改革に対応するため
厚生労働省が推進している「働き方改革」とは、労働者が個々の事業に応じた働き方を自身で選べるようにするための改革です。
近年、少子高齢化による生産年齢人口の減少や働く人のニーズの多様化により、さまざまな業界で人手不足が叫ばれています。
働く人のライフスタイルの多様化を受け入れなければ、企業は生き残ることはできません。そのため、多様な働き方を選べる環境の構築が企業に求められています。
テレワークはこれまでの働き方と異なり、社外で業務をおこなえることから働き方の選択肢を増やすことが可能です。
目的3.ワークライフバランスを実現するため
近年、少子高齢化による生産年齢人口の減少により、さまざまな業界で人手不足が深刻です。
企業はテレワーク導入で従業員のワークライフバランスを実現することができれば、人材の雇用確保や流出を防ぎたいという目的があります。
子育てや介護、配偶者の転勤などで離職せざるを得なかった人が、テレワークで働き続けることができれば新たな採用活動をおこなう必要はありません。柔軟な働き方も可能なため、子育てや介護などの時間を確保しやすくなると考えられています。
テレワークの導入で企業が得られる3つのメリット
テレワークを導入することで「優秀な人材の確保」「DX化への対応」「経営コストの削減」といった3つのメリットが得られます。それぞれくわしく解説します。
メリット1.優秀な人材の確保
テレワークの導入により、優秀な人材を確保しやすくなるメリットがあります。
さまざまな事情から離職を選ばなければなかった人も、テレワークができれば離職せずに働き続けることが可能です。さらに通勤時間を削減できることで生活にゆとりが生まれます。
労働者のライフステージの変化にあわせて柔軟に働き方を選べる職場環境をつくることで、スキルをもつ人材の流出防止につなげることが可能です。
メリット2.DX化への対応
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、AIやIoTなどのデジタル技術を用いて業務効率化やコスト削減、新しいビジネスモデルを創出することを目的とした施策です。
DX化を進めるには、業務プロセスのデジタル化が欠かせません。
テレワーク導入をきっかけに、ペーパーレス化や電子契約、電子印鑑などの導入を進められます。デジタル化する業務を見直すことで、効率性の向上も期待できます。
国内企業でDXに取り組んでいる企業の割合は2022年で69.3%と前年の55.8%より増加しているものの、全体として落ち着いています。なかでも中小企業のDX化への対応は遅れているため、DX化に対応するための積極的な組織づくりが必要です。
メリット3.経営コストの削減
テレワークの導入により、ワークスペースの縮小や通勤費の削減など、経営に関するあらゆるコストを削減できるメリットがあります。
従来のスタイルではオフィスに出社してもらうための交通費、オフィスの賃料、設備費などがかかっていました。
テレワークでは出社が不要なため、交通費はかかりません。出張が必要な業務も近隣に住む社員が対応すれば費用を抑えることが可能です。
ただし、テレワークの導入時には別でクラウドシステムやツールなど初期コストがかかります。また、在宅勤務手当などの手当の支給も検討することが大切です。
テレワーク導入の際に必要なもの一覧
テレワーク導入の際には、企業側と従業員でそれぞれ用意するものがあります。
企業が用意するもの | 従業員が用意するもの |
---|---|
リモートアクセスツール | パソコン |
勤怠管理ツール | インターネット回線 |
セキュリティソフト | デスク・チェア |
コミュニケーションツール | ヘッドセット(マイクとイヤホンでも可) |
就業規則など各種ガイドライン(テレワークのルール) | 業務用ITツール(Web会議システムなど) |
ツールやソフトはおもにセキュリティ関係やコミュニケーションに必要なものが中心です。
外部のパソコンから社内のファイルにアクセスできるリモートアクセルツールは、テレワークには欠かせません。就業規則などテレワークを実施するうえで必要なガイドラインも設定してください。
テレワークの導入にあたって必要な環境は、厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」や「情報機器作業ガイドライン」に掲載されています。参考になさってください。
テレワーク導入を促進する助成金一覧
テレワーク導入時には環境構築にかかる費用を助ける助成金があります。テレワーク導入を促進する助成金をまとめました。
助成金名 | 対象 | 提供 |
---|---|---|
IT導入補助金 | 中小企業 小規模事業者 | 経済産業省 |
人材確保等支援助成金(テレワークコース) | 新規にテレワークを導入する中小企業 | 厚生労働省 |
テレワーク促進助成金 | 都内の中小企業や中堅企業 | 東京都 |
テレワーク推進強化奨励金 | 1か月または2か月で週3日・社員の7割以上のテレワークを実施した中小企業 | 東京都 |
リモートワークで秋田暮らし支援金 | 秋田に移住する会社員 | 秋田県 |
やまがたお試しテレワーク移住事業費補助金 | 山形在住の会社員 山形に移住する会社員 | 山形県 |
高山市デジタル技術活用促進支援事業補助金 | 市内に店舗、工場、事業所を持つ事象者 中小事業者 市民登録のある個人事業者 | 岐阜県高山市 |
テレワーク導入支援助成金 | 「ひょうご仕事と生活の調和推進企業宣言」を行った企業や雇用保険の適用事業主など各事業主 | 兵庫県 |
補助金は採択件数や予算が決まっているため、申請したら必ず受給できるものではありません。また、支給されるのは取組後となるため事前に自社の予算で立替が必要です。
費用を抑えてテレワーク導入を検討しているなら、助成金の申請がおすすめです。
秋田県の助成金は、テレワーク移住された方は移住支援金もあわせて利用できます。
テレワークの導入手順
テレワークを導入するときの手順は以下のとおりです。
- 導入の目的を明確にする
- テレワーク対象範囲を決める
- 現状を把握して課題を洗い出す
- テレワーク導入のガイドラインを策定する
- テレワークに必要なツールを導入して環境を整える
- テレワークを実施し必要であれば改善を図る
スムーズにテレワークを始めるための導入手順について解説します。
1.導入の目的を明確にする
まずは導入の前に、自社にテレワークを導入するのはなぜなのか、目的や目標を明確にすることが大切です。
- パンデミックや大災害時の事業継続
- 従業員の意識改革・ワークライフバランスの実現
- 迅速な顧客対応・知的生産性の向上
- ペーパーレス・通勤コストなど経費削減
- 離職防止・優秀な人材の獲得
目的が明確に決まっていなければ、ツールを導入しても思うような成果をあげることはできません。
達成したい目的が複数あるときは、優先度をつけましょう。
2.テレワークの対象範囲を決める
目的が決まったら、テレワークの対象となる従業員や業務、テレワークを実施する頻度など導入に向けた体制を検討します。
テレワーク対象となる従業員は、目的にあわせて対象範囲を絞り、優先度の高い従業員からスタートするとよいでしょう。たとえば「従業員のワークライフバランスの実現」が目的なら、育児や介護などを抱える従業員を対象とします。
具体的に対象範囲を絞り込めないときは、トライアル期間を実施するのがおすすめです。
従業員や業務を絞り、週1~2回からスタートします。トライアル期間中は従業員からフィードバックを集めて、本格導入に向けてテレワークの対象範囲を決めてください。
3.現状を把握して課題を洗い出す
テレワークを導入するときは、これまでの働き方と異なるため、評価制度や就業規則などの見直しが必要です。
目的や目標を達成するためにも、テレワークに適した社内制度へ変える必要があります。
自社の評価制度や就業規則などがどうなっているのか、現状を把握してテレワーク導入にあたって解決が必要な課題を洗いだします。
以下の課題を洗い出し、解決に向けて検討を進めます。
課題 | 解決に向けて検討す |
---|---|
就業規則 | 始業・就業時間など労働条件の変更、通信 |
人事評価制度 | テレワーク時の勤怠管理・業務管理の方法を検討 |
ワークフロー | 各業務の承認方法などを検討 |
ICT環境 | 現状の確認と運用しやすい導入ツールの検討 |
セキュリティルール | データやファイルの取り扱いを検討 |
4.テレワーク導入のガイドラインを策定する
課題を洗い出したら、テレワーク導入のための計画書やガイドラインを策定して全従業員に周知します。
計画書には以下の項目を設定します。
- 導入スケジュール
- 対象従業員・業務・実施頻度
- テレワーク時のルール
- 研修実施日・内容
- テレワークの検証内容
ほかにもセキュリティ対策のためのガイドラインの策定が必要です。
テレワークではオフィス以外の場所で業務を進めるため、情報漏えいのリスクがあります。
ガイドライン盛り込むべき内容の一例をご紹介します。
- 自宅でのパソコンの保管・管理方法
- クラウド使用の可否や条件
- 機密情報データの保存方法
ガイドラインは一度策定すれば終わりではありません。定期的に見直してアップデートをおこなうようにしてください。
5.テレワークに必要なツールを導入して環境を整える
いよいよテレワークに必要なアイテムやツールを導入して、環境を整えていきます。
アイテム・ツール | 内容 |
---|---|
ネットワーク環境の整備 | テレワークに使用する従業員の専用端末、リモートアクセスツールなど |
業務用ITツール | 勤怠管理ツール・Web会議システム・タスク管理ツールなど |
セキュリティ対策ツール | ファイアウォール、VPN、セキュリティソフトなど |
コミュニケーションツール | チャットツール、グループウェア |
ツールは同じ用途でも機能や月額利用料が異なります。経済産業省から認定を受けたITツールは「IT導入補助金」の補助対象です。導入コストを抑えられるので、自社の課題に適したツールがないか確認してみてください。
経済産業省:IT導入支援事業者・ITツール検索
6.テレワークを実施し必要であれば改善を図る
環境を構築したら、実際にテレワークを実施します。まずはトライアルから始めましょう。
実施直後はトラブルが起こることも想定して、事前にサポート体制を整えておくことも忘れないでください。
テレワーク実施後の評価方法には「量的評価」と「質的評価」があります。
量的評価 | 質的評価 |
---|---|
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|
従業員にアンケートやインタビューをおこなって改善点や課題を洗い出し、定めた目的がどのくらい達成できているのかチェックします。
必要であれば改善に向けた計画を立てて実行するPDCAサイクルをまわすことが大切です。
テレワークを導入する際に気を付けるべき3つのポイント
テレワークを導入するときは、気を付けるべきポイントが3つあります。
- セキュリティ対策を徹底する
- 勤怠や労務の管理を徹底する
- テレワークに適していない業務を把握する
それぞれくわしく解説します。
ポイント1.セキュリティ対策を徹底する
テレワーク時にはインターネットに関するセキュリティ対策をはじめ、書類やUSBの持ち出しなどに関する社内のセキュリティ対策を徹底することが大切です。
- IDやパスワードは強固な認証方式へ変更
- アクセスするデバイスを制限
- VPN機器のセキュリティ対策
- リモートデスクトップなど通信の暗号化
実際に新型コロナウイルス対策でテレワークを導入した企業で、情報漏えい・紛失事故が発生しています。
企業の信頼性にもつながるため、徹底した対策が必要です。総務省の「テレワークセキュリティガイドライン 第5版」やIPA※1「日常における情報セキュリティ対策」では、企業と従業員に向けた対策が掲載されています。参考になさってください。
※1 独立行政法人情報処理推進機構
ポイント2.勤怠や労務の管理を徹底する
テレワークを導入するときは、勤怠管理の徹底が必要です。とくに勤務時間と労働内容は明確にしておかなければなりません。
勤怠管理ツールやコミュニケーションツールを導入して、業務をリアルタイムで可視化できる仕組みを作りましょう。 また、テレワークにも労災保険は適用されるため、労務基準についても確認が必要です。
厚生労働省では「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」を設けています。あいまいになりがちな労働災害の補償に関しても記載されていますので確認してください。
同じように従業員の就労状況が確認できないことで、むずかしくなるのが人事評価です。評価を気にして長時間働く人も出てくることをふまえて、評価基準についても見直してください。
ポイント3.テレワークに適していない業務を把握する
テレワークを導入するときは、やみくもにすべての業務で取り入れようとしてはいけません。
一般的にクリエイティブ職やシステムエンジニア、カスタマーサポートなどリモートでコミュニケーションが取れる業務はテレワークに向いています。しかし、リモートコミュニケーションがむずかしい業務や特殊な機械を使用する業務にテレワークを導入するのはむずかしいでしょう。
テレワークに適していない業務を把握するには、事前に管理者や担当者がテレワークの特性について理解することが大切です。
まとめ:社内のDX化を並行してテレワーク導入を成功させよう!
テレワークを導入することで社内のDX化や経営コストの削減が可能です。また、育児や介護など事情を抱えた従業員もワークライフバランスを取りやすくなるメリットがあります。助成金を活用して必要なデジタルツールなどを導入して、テレワーク導入を成功させましょう。
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