デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性は、時間経過とともに増していくものです。そして、DXの実現は一朝一夕で成立するものではないため、時間のプレッシャーに耐えながら、正しいアプローチで進めなければなりません。
そのためには、まずDX導入の際に踏むべきステップを理解しておく必要があります。今回は、DXの導入ステップと、実際の導入事例を紹介します。
DXとは
DXを実現する上では、そもそもDXとはどのようなものであるかを正しく理解しておく必要があります。まずは、DXの基本的な部分について解説しましょう。
DXの定義
DXの一般的な定義としては、一言で言えば、デジタル技術を使って企業をより良い方向へ変革していくことです。
企業の経済活動には、さまざまな要素が内包されています。収益を出すためのビジネスモデルはもちろん、ビジネスを推進するための人材や機器、これらを司る組織、組織の中に定着している慣習や文化、独自の制度など、細分化すると実に多様になります。
DXとは、これらすべてに関わることのできる取り組みで、企業をデジタル技術によって抜本的に改革することを指しています。
よくある誤解として、DXは出社を減らしたり、社員にタブレットを配布したりして、ITの導入をとにかく進めれば良いという考え方があります。これらも確かにDXを進めていく上で必要な手段ではありますが、肝心なのはこのような取り組みだけに終わってはいけないということです。
いくら表面的なデジタル化が進んでも、経営陣が積極的にDXへコミットし、組織そのものを変革しなければ、DXの実現は進みません。DXで達成すべき目標は、ITの導入ではなく、ITの力で生産性を向上したり、新しいビジネスモデルを構築したり、人事を改革したりといったものです。目的と手段を取り違えないことが、DXにおいて重要です。
DXが注目される背景
このような抜本的な取り組みが注目される背景には、「2025年の崖」と呼ばれるものがあります。
「2025年の崖」とは、経済産業省が発表した国内企業に向けての警鐘です。国内企業はいまだ多くの時代遅れのシステム、いわゆるレガシーシステムを現役運用していますが、耐用年数を超過したまま運用を続けると、いずれ膨大な負担が発生することを唱えています。
経済産業省の試算によれば、2025年から2030年にかけて、日本企業は全体で年間12兆円もの負担を強いられることになり、早急な最新システムの導入で回避することが求められています。
そして、DXを導入すれば負担を回避できるだけでなく、生産性の向上でGDPの上昇も期待できるとして、DXの推進は一気に企業活動をプラスにできる可能性も秘めているとしています。
近年、スマートフォンやパソコンが広く普及したことで、デジタル技術が万人にとって生活の一部となっています。また、その普及とともにシステムやサービスも非常に利便性が向上し、あまりITに馴染みのない人でも気軽にその効果を実感できる製品が増えています。
こういったITと生活の密着が進んだことも、DX推進の声が大きくなった背景の一つと考えられます。
DX導入のメリット
では、DXを導入することで、実際にどのような課題を解消できるのでしょうか?
業務の効率化
DXで最も期待されているのが、業務効率化です。帳票管理や会計など、手間のかかる作業ほど人手を要するものですが、ルーティンワークが多くを占めており、ロボットによる自動化を進められます。
DXは、このように組織内の活動における自動化できる作業労働を見出し、これらを自動化するプロセスを含みます。この結果、ロボットによって無人でも作業を進められるようになるだけでなく、精度やスピードも向上し、確認作業なども簡単に済ませられます。
コストの削減
作業労働に人手を割かずに済むことで、組織のコスト削減にもつながります。DX推進のためのIT導入には初期投資が必要ですが、少ない人数でも業務を遂行できる環境が実現するため、長期的に見れば高いコストパフォーマンスを期待できます。
また、古いシステムを維持管理するために発生していた余計な負担も解消され、2025年の崖を乗り越えるきっかけを得られます。最新のツールを導入し、よりコストパフォーマンスの高いサービスへ移行することも可能になるでしょう。
新規ビジネスの創出
DXを進めることで、新しいビジネスチャンスを掴むチャンスも得られます。
わかりやすい例が、小売事業のEC進出です。実店舗特化で賄っていた事業をオンラインショップも併用することで、ネットを介した全国的な市場へと参入が実現します。物理的な制約に縛られることなく、需要のあるターゲットを目掛けて販売ができるため、さらなる売り上げの増加も期待できるでしょう。
また、インターネットを介して海外の顧客獲得も進められるので、海外進出を考えている企業にとっては足がかりとして優れた効果を発揮します。
働き方改革の推進
DXの推進は、働き方改革の実現にも貢献します。近年はテレワークと称して遠隔での出勤や業務遂行を実施する企業もありますが、これに移行できない原因として、オフィスに依存した業務環境が挙げられます。
こういった問題を解消してくれるのもDXの実現です。近年はインターネット回線にさえつながっていれば、どこからでも利用できるクラウド型のツールも増えており、これらへの移行でテレワークを実現できます。
また、勤怠管理についても柔軟な設定ができるシステムが増えているため、個人の都合に合わせた自由な休暇取得も推進してくれます。
BCP対策の推進
DX導入においてもう一つ重要なのが、BCP(事業継続計画)対策の実現です。テレワークの推進とも被る部分はありますが、万が一会社機能が停止した場合でも、業務を続行できるようにするための取り組みです。
旧来のシステムのように、会社にすべての機能を依存させてしまうと、災害などで出社が困難な場合には業務を遂行できなくなります。津波や火事が起きればデータのバックアップなども喪失してしまう可能性が高く、そうなると組織の存続が危ぶまれます。
そこで、DX推進に伴うクラウド化です。クラウド環境へ会社機能を移行することで、ネット回線があればどこからでも業務を遂行でき、バックアップも会社とは異なる場所に保管することで、組織のリスク管理に貢献します。
DX導入に必要なステップ
このようなDX導入のメリットを最大限活用するためには、導入のステップに注目することが推奨されています。ここでは、電通アイソバー株式会社が提唱する5つのステップについて紹介しましょう。
デジタル化
第一のステップは、デジタル化です。これは、最新の勤怠管理システムの導入やECサイトの開設など、デジタル技術を導入していく段階です。
DXの最大の特徴は、データ活用を積極的に実施することです。データ活用のためにはデータを収集する必要がありますが、データ収集にはデジタル技術の導入は不可欠です。
そのため、まずはICTを社内へ導入していくことで、データの蓄積が行える環境を整備する必要があります。
効率化
第二のステップが効率化です。効率化は、デジタル化によって蓄積されたデータを活用する段階です。
例えば、社内のどのような業務に多くの人員を必要としているか、一人ひとりのパフォーマンスは定量化するとどれくらいなのかといったデータを基に、効率化のための施策を検討するといったアプローチです。
業務の効率化が進めば、一人当たりの生産性向上にも役立ちます。効率化できるところを積極的に追求し、スマートな運営を目指します。
共通化
業務効率化の実績が積み重なってくると、そのノウハウを共有して、さらに幅広いチームや部署での運用を進めることがベターです。
新システムをいきなり全社的に導入するのはリスクもつきものなので、大抵はスモールスタートで始まるものです。
そのため、結果が出たDX施策についてはノウハウをナレッジ化して、積極的に他のチームへも共有し、部門をまたいだデータ活用の環境を整備する必要があります。収集できるデータが増えることで、さらなる活用方法も生まれてくるでしょう。
組織化
共通化されたDX施策がうまくいっている場合には、さらに効率的な運用を組織全体で進めていくのが良いでしょう。
運用体制をより盤石なものとし、新システムありきの組織づくりが実現するため、この時点で企業文化は大きく刷新されています。
データ活用の現場を拡張し、専門の組織も確立する事で、より合理的な企業へと生まれ変わります。
最適化
最適化の段階では、ほぼ完全なデータドリブンの組織を目指すこととなります。データを基に施策を立案し、実行へ移していくため、意思決定の現場においてはデータが大きな役割を担うこととなります。
ここに至るまでに確立されたデータ収集体制、そして運用体制があれば、最適化の段階でも円滑で、リスクの小さいデータ活用を進められるはずです。そして、蓄えられてきたデジタル資産が事業の基盤となり、新しいビジネスの創出にも役立ってくれることとなります。
DX導入の事例
ここで、実際にDXを導入している企業の事例を紹介しましょう。
三菱電機株式会社
現在、DXは多くの企業において喫緊の課題となっているだけでなく、2025年までに完了したいというニーズもあり、DX人材の不足が深刻化しています。
三菱電機株式会社では、今後のDX推進に向けて、早期からAI人材の獲得に動いています。2020年現在の1,500人から2,000人への拡充に動いており、社内の育成プログラムを順次強化・拡充するとともに、社員の意識改革も進めています。
三菱電機株式会社のAI実用化実績は、2017年度には数件だったものが、2020年度には累計で70件まで伸びているなど、近年デジタル活用へ非常に積極的であることも特徴です。機器の故障予兆検知システムを始め、今後もさまざまな独自活用が進んでいくことになりそうです。
大成建設株式会社
建設大手の大成建設株式会社では、建設現場のDX推進を着実に実施しています。現場内でインターネット環境を網羅的にカバーするメッシュと、Wi-Fiと従業員の作業状況を把握するシステムを一体化し、現場でのデジタル活用を進めています。
肉体労働が多く負担の大きな現場作業ですが、DXの推進によって先進的な作業用ロボットの導入や、AI・IoTを活用した現場管理を実現します。
公益社団法人京都市観光協会
公益社団法人京都市観光協会は、観光業におけるDX実現にいち早く注目してきた組織です。観光客には欠かせない寺社仏閣の事前予約システムや、「京都観光快適度マップ」の導入を行っています。
観光業において現在求められているのが、新型コロナウイルス対策です。観光地が感染源にならないためにも徹底した予防策が必要ですが、事前予約システムの導入は現地での混雑を解消する上で活用されています。
また、「京都観光快適度マップ」は、観光客自ら日時間別で混雑を回避した観光快適度の予測データを閲覧できるシステムです。混雑を避け、快適かつ安全に観光するのに欠かせないサービスとして期待されています。
DX導入の支援企業
最後に、DX導入を支援しているポピュラーな企業を紹介しましょう。
UiPath株式会社
UiPath株式会社は、多くの企業に向けたデジタル活用を支援してきた実績のある会社です。同社が得意としているのは、RPAの導入です。
RPAとは、ロボットの力でデスクワークの作業労働を解消する技術であり、多くの企業がさまざまな業務に適用し、確かな効果を実感しています。同社のRPAは大手企業の導入実績も多く、蓄積されたノウハウでクライアントの問題解決に取り組みます。
富士通株式会社
デジタル技術の開発・活用の蓄積を生かして、近年はDXを推進する企業としても注目を集めているのが富士通株式会社です。単にIT技術を提供するだけでなく、DXにつながる戦略立案やソリューションの提供までもサービスとして実施し、多くの企業に新たなビジネスサイクルをもたらしています。
DXに欠かせないIT基盤の構築や、サイバーセキュリティ対策の実装、そして5G通信の活用に至るまで、包括的な支援を得られます。
株式会社SmartHR
株式会社SmartHRは、主に人事労務の分野で活躍するサービスを提供しています。多くの業務が発生するだけでなく、書類での労務手続きも数多く発生する人事労務分野は、人手不足の解消が困難な分野でもあります。
そこで活用したいのが「SmartHR(スマートHR)」です。人事労務に関わるあらゆる業務をクラウドに移行し、新システムをどこからでも利用できる環境を実現します。従業員情報はデータベースに一元管理され、最新の名簿をリアルタイムで活用できます。書類に頼る必要もなくなり、ペーパーレス化も促進されます。
まとめ
DXの導入には多くのメリットが期待できますが、そのためにはDXに対する正しい理解が求められます。導入のステップについてもセオリーが固まりつつあり、実際に導入を進めている企業も散見されます。豊富に提供されているDXツールにも目を向け、自社の課題解決に最適なデジタル活用を進めていきましょう。