働き方改革の推進や新型コロナウイルスの影響により、多くの企業で新しい営業の形が採用されつつあります。
オフィスや自宅から遠隔で営業活動を行えるインサイドセールスは、新しい営業活動として普及が進んでおり、そのためのさまざまな手法が確立されてきました。中でもオンライン商談のポテンシャルは大きな注目を集めており、それに伴うツールの導入も進んでいます。
今回は、オンライン商談ツールの強みや、実際の導入メリットなどについて紹介します。
オンライン商談とは
オンライン商談とは、その名の通り、オンライン上で商談を行うという非対面営業の一種です。
従来の商談というものは、実店舗で対面接客を行ったり、得意先の会社まで出かけてビジネスの話をしたり、直接的なコミュニケーションが主流の営業活動でした。
しかし、新型コロナウイルスの影響で対面接客が難しくなったことや、通信環境やハードウェアの進化、そしてさまざまなサービスの登場により、インターネット環境でもリアルタイムで商談が行えるようになっています。
オンラインとはいえ、高画質で音声もクリアなツールが増えており、それでいて遅延も少ないため、まるで対面のような感覚で相手とコミュニケーションを行うことが簡単になりました。
オンライン商談ツールは、このように非対面でも円滑なコミュニケーションを促してくれるソフトです。
オンライン商談ツール・システムの導入事例
では、実際にオンライン商談ツールを導入した事例について紹介しましょう。
セールスフォース・ドットコム
BtoB向けのビジネスアプリケーションを展開する株式会社セールスフォース・ドットコムでは、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を牽引している会社だけあり、自社での活用にも積極的です。
株式会社セールスフォース・ドットコムがオンライン商談を実施するにあたり、強調しているメリットが、成約率の低下に影響することがないという点です。オンライン商談は非対面でのコミュニケーションであるため、対面時のような関係の構築が難しく、販売促進や情報共有に問題が出てしまうのではないか、という懸念があります。
ところが、株式会社セールスフォース・ドットコムの場合、オンライン商談への移行に伴う効率の低下は見られていないということです。
商談のオンラインへの移行もまた、株式会社セールスフォース・ドットコムが積極的に提案を行っています。安全上のリスクが大きく、これまでオフラインで行っていた打ち合わせも、全面的なオンライン化が進みました。
利用しているサービスは特段優れたものを導入しているわけではなく、Google ハングアウトやWebEXなど、一般に広く普及しているサービスを採用しています。
また、オンライン商談にはGoogle ハングアウト、社内のSNSや情報共有にはChatter(チャター)を使うなど、複数のツールを役割に応じて使い分けている点も特徴です。
トヨタ自動車・本田技研工業・日産自動車
コロナ禍においても安定した生産と売り上げを記録してきた自動車業界ですが、トヨタ自動車株式会社・本田技研工業株式会社・日産自動車株式会社と日本を代表する自動車メーカーでは、積極的なオンライン商談システムの導入を進めています。
自動車の販売はオフラインでの対面接客が基本でしたが、上記自動車メーカーの販売店では、オンラインでの営業が進んでいます。
トヨタ自動車株式会社では、中古車をオンラインで注文できるサービス「トヨタ中古車オンラインストア」を独自に開始し、カーディーラーのもとを訪れなくても車を調べたり、そのスペックを確認したりが簡単に行えるようになりました。見積もりから契約までワンストップでオンラインにて手続きを進められるため、完全非対面の営業を実現しているだけでなく、24時間受付ができるので好きなときに購入を行えることも特徴です。
本田技研工業株式会社では、新会社「株式会社ホンダセールスオペレーションジャパン」を設立し、自動車のオンライン販売システムの立ち上げを進めています。新車の検討や見積もり、契約といった購入手続きをオンラインで完結できる販売サイトを予定しており、引き取りのみ販売店舗で実施するということです。
日産自動車株式会社は、公式サイトより非対面で車の見積もりなどの相談に対応するサービス「オンラインチャット」を導入しています。月々の支払いプランの提案や最寄りの販売店での試乗の予約、商談などに対応しており、業務効率化とサービスの向上の両立に向けた取り組みが進みます。
株式会社藤高(今治タオル)
今治タオルで知られる愛媛県のタオルメーカー株式会社藤高では、工場見学会にZoomを導入しているとして話題になっています。工場見学といえば、消費者向けにはアトラクションとして提供され、事業者向けにはプレゼンテーションの一環として提供されています。
しかし、その重要性については比較的低く、見られることも少なくありません。新型コロナウイルスの影響で不用意な接触ができない昨今、その開催を見送る企業は増えています。
しかし、株式会社藤高では、ビデオ会議ツールのZoomを導入してまで、非常に丁寧な工場見学会を実施しています。というのも、同社の強みである日本製の丁寧なタオル作りを実際に見学してもらうことは、他の企業の製品との差別化において重要な意味を持つためです。
ものづくりの背景に対する関心は昨今高まっています。株式会社藤高は自信を持って生産のバックグラウンドを発信しており、それがブランド価値と直結しています。つまり、工場見学会をZoom向けに開催し、丁寧にプレゼンテーションを行うことが、営業活動に大きな役割を果たしていることがわかります。
オンライン商談ツール・システムを利用するメリット
紹介した導入事例を基にして、オンライン商談ツールを利用するメリットについて確認しておきましょう。
移動コストの削減になる
オンライン商談ツールの魅力の一つが、移動コストの削減です。
対面での営業の場合、打ち合わせや提案のために移動が発生することも多く、移動時間や交通費が負担となってしまいます。しかし、オンライン商談ツールを導入することにより、このような移動に伴うコストの発生を抑えられるようになるため、業務の効率化を推進できます。
担当者一人当たりの営業効率が向上する
ツールの導入によって、営業の効率を向上できる点も特徴です。担当者の移動時間や、一度に対応できる人数を増やすことができるため、対面営業では実現しなかった効率化を行えます。
テキストチャットなどを活用すれば、ビデオ通話の必要もなくなり、一度に複数の問い合わせにも対応が可能です。
特に、ジュエリーや自動車など、高級品の販売では接客営業に人員を必要とします。しかし、オンラインでの商談や問い合わせが普及すれば、効率良く、それでいて丁寧な営業を実現可能です。
遠隔地の顧客を獲得できる
移動コストの解消に近いメリットですが、遠隔地の顧客開拓も容易に実現できるのはオンライン商談ツールの特徴です。
対面での営業となると、担当者や見込み客が直接話せる場所にまで足を運ぶ必要があり、異なる地域にある場合は営業が行えないケースもありました。しかし、オンラインであれば物理的な距離は関係がなくなるため、日本全国のどこにいても、気軽に顧客開拓を行えます。
今治タオル(株式会社藤高)の工場見学のように、郊外にある施設の紹介もオンラインで行えるようになれば、見込み客に負担をかけることなく自社ブランドの強みを理解してもらうことができます。あるいは、国外需要に向けて、海外進出を支えるツールとしても役に立つでしょう。
ペーパーレス化を促進できる
オンラインで商談を行えるようになれば、ペーパーレスを進められることも強みです。
オフラインの営業では、紙媒体に資料や契約書を頼る必要があり、その印刷や保管には相応のコストが発生するものです。しかし、オンラインでの資料提供や契約の締結が進めば、紙を使わなくとも従来通りの業務が遂行できるだけでなく、効率化やコストの削減も実現できます。
カーディーラーのオンライン化で契約までも非対面で行えるのには、このようなペーパーレスの促進を目的としている側面もあるでしょう。
働き方改革を推進できる
オンライン商談ツールを導入することで、オフィスでの業務遂行や外回りに依存しない働き方も実現します。
近年の商談ツールはクラウド形式で、インターネット回線があれば自宅からでも利用できるサービスも整っています。そのため、自宅からでもリモートワークでツールを活用し、これまで通りの業務遂行を進められます。
あるいは、オンラインサービスの拡充を進めることで、対面営業を中心とした活動から、非対面への営業を推進し、オンラインショップでの売り上げ拡大を目指せるようにもなるでしょう。
適切なフィードバックや評価を実現できる
オンライン商談ツールの導入でもう一つ重要なのは、社員の評価やフィードバックをより適切に行えるようになる点です。
オフラインでの営業の場合、実際にどのようなアプローチで営業を行っているかを把握することは難しく、結果だけを管理者は見届けることになるため、より良い結果のためのフィードバックは難しいものです。
一方、オンライン商談ツールでは打ち合わせ内容を録音・録画したり、上司がリアルタイムでその様子を確認したりしながら担当者を評価できるため、具体的な改善点を把握しやすいのが特徴です。
具体的な通話時間や対話内容をデータ化することもできるため、さまざまなアプローチで改善や評価を進めることが可能です。
オンライン商談ツール・システムを利用するデメリット
便利な機能を有するオンライン商談ツールですが、一方で確認しておくべきデメリットもあります。
優れた通信環境が必要
一つは、オンライン商談ツールのために通信環境を整備しなければならない点です。いくら高画質、高音質のマイクやカメラ、ツールを揃えても、オンライン環境が不安定だとその効果を発揮できません。
光回線の新たな契約や社員一人ひとりへのデバイスの支給など、必要に応じた環境整備をソフト・ハードの両方から進める必要があります。
対面ならではの関係構築ができない
非対面営業のオンライン商談は、対面の場合に得られていた顧客とのコミュニケーションは、多少なりとも失われる点は押さえておくべきでしょう。
また、ほぼ遅延はないとはいえ、ビデオ通話やテキストチャットではオフラインでのコミュニケーションとは異なり、お互いの意思疎通にやや時間差があるため、スムーズにキャッチボールを行うには慣れが必要です。
担当者の習熟度によってこの点は改善の余地がありますが、対面営業時のノウハウがオンラインでも活躍するとは限らないという点には留意しておきましょう。
新しい営業マニュアルや教育の必要性がある
オンライン商談ツールの導入には、それを上手に扱うための教育を新たに従業員へ提供する必要があります。ツールを導入してすぐ効果をあげることは難しく、導入からスムーズな運用までには時間がかかります。
また、担当者向けのマニュアル作成を行い、ヘルプデスクなどを設置する必要も出てくるので、ツールの導入に伴う社員向けのサポート対応も整備しておきましょう。
オンライン商談ツール・システムを導入する際の
注意点・ポイント
このようなオンライン商談ツールのメリット・デメリットを踏まえ、導入の際の注意点も確認しておきましょう。
オンライン環境の整備を進める
オンライン商談ツールにまず欠かせないのは、インターネット環境の整備です。オンライン商談ツールを活用するにあたって、電話回線だけでは不十分であるため、ツール活用を行う現場に光回線やPCの設置を進め、万全の体制を整えましょう。
テレワークの導入を行う場合、社員に貸し出すためのPCやスマートフォンの導入も必要になってくるため、漏れなく検討を進める必要があります。
社内外に向けた情報共有の仕組みを整える
オンライン商談を円滑に進めるためには、情報共有の仕組みも整備しなければなりません。「社内でのやり取りはこのツールを使う」「社外での打ち合わせにはZoomを使う」など、ルールの策定を行うことで、現場の混乱を最小限に抑えられます。
リモート環境では口頭で情報を共有したり、フィードバックを行ったりができなくなるため、特に社内コミュニケーションのシステムを整えることは大切です。
オンラインならではのコミュニケーション教育を実施する
オンライン商談ツールを使った営業活動は、対面営業とは異なるノウハウが求められます。そのため、商談ツール活用に向けた教育も実施し、担当者のスキルアップを促進しましょう。
最近では、ツールのベンダーから運用ノウハウを提供してもらうこともできるため、初めてのIT活用などの場合には、サポートが手厚い企業を選ぶといった姿勢も重要です。
オンライン商談のおすすめツール
最後に、実際のオンライン商談で活躍しているおすすめのツールについて紹介しましょう。
Zoom
Zoom(ズーム)は近年多くの企業が導入しているビデオチャットツールで、上記で紹介した今治タオル(株式会社藤高)でも導入されています。
ビデオ会議や商談ということであれば、多くの企業がZoomを使っているため、ひとまずZoomを導入しておけば安心という普及率の高さが魅力です。運用は無料からスタートできるため、必要に応じて有料のサービスに切り替えられるという、コストパフォーマンスの高さも魅力です。
Google Meet
Google Meet(グーグルミート)も無料で使えるビデオチャットツールです。Zoomと同じく、導入企業の多いサービスです。
専用のアプリをインストールしなくても、Webブラウザから気軽に利用できる導入ハードルの低さや、Googleアカウントとの連携で他のサービスとの共通利用にも優れていることが特徴です。
スマホなどからの利用も容易なので、運用環境が制限されないことも魅力の一つです。
ベルフェイス
ベルフェイスはビデオ通話やオンラインでの会議、プレゼンテーションを実施するためのツールです。有料のサービスですが、それだけに豊富な機能を搭載しています。
相手との接続は非常に高速で行われ、まるで受話器を取るような感覚でビデオ会議を開始できます。
打ち合わせ内容は動画として記録し、議事録として保存しておく機能も標準搭載しています。さらには、営業担当者しか見ることのできないトークスクリプトも表示できるなど、営業活動に必要な機能を数多く備えています。
まとめ
オンライン商談の可能性は、技術の革新とともに広がり続けています。近年は無料で使えるツールも普及し、オンラインで営業を行う文化が定着しつつあるため、導入のハードルは下がってきています。
スモールスタートでの導入も十分に効果を発揮するため、まずは導入に向けて検討を始めるところから考えていくことをおすすめします。