効果的な組織戦略を実行するためには、ある程度セオリーに則った施策を心がける必要があります。世界中の中小企業に選ばれ、国内企業においても結果が出ている経営戦略として有名なものの一つがランチェスター戦略です。
今回は、ランチェスター戦略がどのような理論に基づいているのか、具体的な実行方法、そして国内でランチェスター戦略に成功している有名な事例を紹介します。
ランチェスター戦略とは
ランチェスター戦略は、事業者が販売競争に勝つための戦略として広く知られている考え方です。弱者が強者に勝つための方法、いわば中小企業がどうすれば大企業に勝てるのかを体系化した戦略です。
通常、中小企業は大企業と同じ戦略を取っても、人的資源や予算の都合から、どうしても大企業と比較して小規模な施策しか実行することはできません。大企業の土俵で中小企業が戦えば負けることは明らかですが、ランチェスター戦略は大企業を中小企業の土俵に引き込むことができる施策です。
具体的には、経営資源を自社の得意な領域に集中して投下し、大企業に勝る独自性やプロモーションを展開し、売上と顧客の支持を固めるという方法です。「面」で戦っても中小企業に勝ち目はなくとも、「点」で戦う方法を選ぶことで、大企業と渡り合うことができます。
ランチェスター戦略の発祥
ランチェスター戦略の発祥は、19世紀後半、第一次世界大戦時のイギリスに遡ります。当時提唱された「ランチェスターの法則」は、当時の空中戦における勝敗と損害のデータをもとに、兵力数をどれだけ投下し、その比率が相手の兵力と比べてどれくらいかによって損害や勝敗が決定することを導いたものです。
当時発見されたランチェスターの法則は2つあり、これらは現代のランチェスター戦略にも応用されています。後ほど詳しく解説します。
ランチェスターの法則は、第二次世界大戦時にもアメリカの数学教授によって研究が進められ、軍事戦略の一つのモデルとして定着することとなりました。また、戦後は企業の販売戦略にも応用されることとなり、ランチェスター戦略として広く普及し、現在に至ります。
ランチェスター戦略から派生したマーケットシェア理論
ランチェスター戦略は、多様なマーケティングへと応用が効くとして幅広く採用され、新しい理論の誕生にも貢献しています。代表的なのがマーケットシェア理論で、これはその企業における市場占有率がどれくらいに達しているかによって、市場における優位性が決まることを表す考え方です。
マーケットシェア理論においては7つの目標値が定められており、自社がどれくらいのシェアを占めているかによって、ステータスや次に展開すべき施策が決定します。どのような目標を設定して行動すれば良いのか、自社にどのような脅威が迫っているのかなど、目標値を参考にすることで、さまざまな情報が得られたり予測を立てたりできます。
ランチェスター戦略に期待できる効果
ランチェスター戦略を採用することで、中小企業は多くのメリットを期待することができます。ここでは、期待できる効果について解説しましょう。
個人事業・中小企業でも大企業と対等にビジネスを展開できる
ランチェスター戦略の最大のメリットは、大企業が参入している領域であっても、同等以上に販売競争を闘うことができるという点です。
大企業はさまざまな施策に対して潤沢な資本を投入できますが、個人事業主や中小企業はそういった戦い方はできません。その代わり、どこか一点の領域や大企業が重視していない、ニッチな領域に多くのリソースを投下することで、市場における突破口を開くことができるのがランチェスター戦略の強みです。
取り組むべき課題やプロジェクトが明らかになる
ランチェスター戦略を実施することで、取り組むべき課題やプロジェクトを明らかにすることができます。そのため、貴重なリソースを無駄にすることがありません。
ランチェスター戦略を実行に移す場合、大前提としてリソースを投下すべき場面を限定する必要があります。どのようなところにリソースをつぎ込むべきかは、資源を投下する前に丁寧な検証や問題意識の共有を社内で実施しておく必要があります。
複数の取り組みを実行してリスクを分散できない点は課題ではあるものの、検討の結果優先すべきマーケットを一つに絞り込むことができるため、経営資源を無駄にする心配がありません。
大企業の戦略が可視化される
ランチェスター戦略を実行する上では、自社の立場や強みを明らかにするだけでなく、大企業の立場や戦略についても深い理解が必要です。ランチェスター戦略の実行を通じて、競合である大企業の動向を丁寧に分析することができるため、自社の採用すべき戦略や施策を見出す手がかりを得られます。
漠然と大企業と戦うとなると、勝機を見出せず苦労することは免れません。ランチェスター戦略に則って堅実に展開することで、熾烈な販売競争にも勝ち筋が見えてきます。
ランチェスター戦略における「弱者」と「強者」の定義
ランチェスター戦略において重要な概念となるのが、「弱者」と「強者」の定義です。弱者と強者の定義づけを正確に行うことで、販売競争に勝てる見込みが高まります。
弱者の定義
ランチェスター戦略における弱者とは、純粋な戦闘力で劣っている側を指します。ランチェスターの法則に戻って戦闘力を説明すると、兵士が持っている武器の数や質と、兵士の数を掛け合わせたものが戦闘力といえます。
現代における戦闘力の表し方は多様化していますが、抱えている社員の数や導入しているシステムの質などは、戦闘力を決める重要な要素といえます。
中小企業と大企業の販売競争に当てはめると、人的資源に余裕のない中小企業は弱者に分類されます。
弱者が強者に勝つための戦略としては、一点集中と少数精鋭です。従業員の労働環境を整備して一人ひとりのパフォーマンスを改善したり、ITツールを刷新して余計な作業を自動化し、数少ない人員を複雑な業務に配置したりといった方法がセオリーです。
また、弱者戦略を採用するためには、まず自社が大企業と比較して弱者であるという認識を持つ必要があります。
強者の定義
弱者とは反対に、ランチェスター戦略には強者の存在も挙げられます。ランチェスター戦略における強者とは、戦闘力で弱者を上回る存在です。中小企業と大企業で販売競争が発生した場合、人的資源に優れる大企業が強者となります。
弱者に分類された中小企業は一点突破でリソースを投下し、質を重視する戦略で強者を破ろうと仕掛けます。一方の強者は、弱者を寄せ付けないための戦略を実行することがセオリーとされています。
弱者を寄せ付けない戦略とは、自社の量的資源を最大限に活かした人海戦術です。多様な商品ラインナップを用意して、弱者の差別化をあらかじめ封じ込めたり、売れ筋商品をどんどん量産・販売することで、売上を伸ばしたりします。
販売網もどんどん広げていき、弱者が戦えるニッチな隙間をこちらから埋めていくことで、対等に戦える環境を潰す戦略です。
たとえ中小企業であっても、ランチェスター戦略の強者の心理とセオリーを把握しておくことで、そのことを踏まえた戦略策定が可能になります。自分たちの強みや戦い方を洗練させると同時に、「大企業はどう動くか」ということを予測しながら展開していく柔軟性も必要です。
ランチェスター戦略の2つの法則
ランチェスター戦略における弱者と強者の定義や戦い方を踏まえ、理解しておきたいのが第一の法則と第二の法則です。ランチェスターの法則と呼ばれるこれらのルールは、第一次世界大戦時に提唱された概念ですが、今でも有効な法則としてマーケティングに採用されています。
ここでは、弱者と強者がどのような法則に基づいて動くべきなのか確認しましょう。
第一の法則
ランチェスターの第一の法則は、一騎打ちの法則です。兵士同士、戦車同士、飛行機同士が一対一で戦う際に適用される法則と考えられてきました。
第一の法則に則ると、最後に勝利するのは兵士や兵器の数が多い陣営です。一対一の戦いで一人ずつ戦力が損耗し、最終的には兵力が足りない陣営が底を突き、兵力で上回る陣営に軍配が上がるという考え方です。
また、この考え方は、戦闘力が同等である場合に通用する法則です。銃を持っている兵士と剣を持った兵士が一対一で戦えば、銃を持った兵士が勝つのは自明です。そのため、質において劣っている陣営には、この第一の法則は通用しません。
そのため、第一の法則に則って販売競争を考えると、数で劣っているぶん劣勢であることはもちろん、その質においても大企業と同等かそれを上回っていなければ、まともに戦うことはできません。
そのため、現代で弱者が強者に勝つための戦略としては、特定のビジネス領域に狙いを定めたり、競合を一社だけに絞って販売競争を仕掛けたり、顧客体験価値を高めて競合と差別化したりと、さまざまな戦略が採られています。
第二の法則
ランチェスターの第二の法則は、「強者の法則」や「集中効果の法則」と呼ばれています。一人で複数の敵と対峙したり、複数の相手へ同時に競争を仕掛けたりするような手法を選びます。
強者はすでに人的資源を豊富に抱えているため、弱者との対峙においては、その質にこだわればシェアを奪われる心配はありません。強者は第二の法則に則り、数の優位性を最大限に活かした戦略を選ぶこととなります。
ランチェスター戦略の3つの原則
自社が弱者であれ強者であれ、ランチェスター戦略を実行する上で必ず守るべきルールとして3つの原則が存在します。これらの原則を前提とした効果的なマーケティングを実行しましょう。
一点集中主義
1つ目の原則は、一点集中主義です。狙うべき目標を一つに絞り、多角的な展開を控えることで、効果的な経営資源の投下を促せます。一点に集中するといっても、何の「一点」に絞るかは時と場合、自社の強みに応じて異なります。
地域密着型をアピールするのであれば、地元志向で一つの地域で展開するのでも良いですし、自社が特定商品のプロフェッショナルであることが強みとなるのであれば、「メロンパン専門店」のように、一つの商品に特化した経営戦略を採ると良いでしょう。
ただ、時代や競合の潮流を読むことなく、頑なに一点張りを続けていることは、かえって弱みにもなりかねません。顧客に飽きられてしまったり、競合が同じ地域に出店してきて価格競争に巻き込まれたりと、さまざまなリスクが起こり得ます。何に一点集中すべきかは、常にリアルタイムで判断することが重要です。
足下の敵攻撃の原則
足下の敵攻撃の原則とは、自社よりも1つランクの低い競合をターゲットとして競争を起こし、シェアを奪っていく戦略です。
自分よりも僅かに及ばない競合を相手に取ることで、市場競争で勝利する確度を高められます。相手を丁寧に分析し、どのような点に強みを絞り、一点集中させていくかを検討することが大切です。
No.1主義
No.1主義は、ランチェスター戦略の最終的なゴールともいえる考え方です。つまり、その領域において絶対的な勝者となることです。
現代におけるNo.1主義は、特定の市場において他の企業の追随を許さない、圧倒的なシェア一位を獲得することです。2位と僅差ではNo.1になったとはいえず、絶対強者となることを最終目的とします。
ランチェスター戦略を実行する場合、「この領域で頂点に立つぞ」という気概のもとで進めることが成功への近道といえます。
ランチェスター戦略実施の欠点
ランチェスター戦略はシンプルで実行に移しやすい戦略である反面、運用の際には気をつけるべき点もあります。
弱者と強者を読み間違えると機能しない
ランチェスター戦略においては、誰が弱者で、誰が強者であるかを正しく把握しなければなりません。弱者と強者の立場を読み間違えてしまうと、自社の強みを発揮できなかったり、相手が得意とする領域で競争を仕掛けてしまい、痛手を被ったりする可能性があるからです。
ランチェスター戦略においては、自社と相手の活動を正しく分析することが重要です。
自社領域の市場規模を正しく把握する必要がある
ランチェスター戦略には、自社がその領域においてどれくらいの市場シェアを獲得しているのか、十分に認識しておくことも必要です。
自社の市場規模がわかっていないと、対峙すべき競合他社や目指すべき領域や企業が不明瞭になってしまい、一点集中の原則や足下の敵攻撃の原則を適用できない可能性があるためです。相手の立場を知るとともに、自社の立場への深い理解も欠かせません。
ランチェスター戦略の成功事例
ランチェスター戦略は多くの企業に採用されているだけあり、日本企業においても成功事例は少なくありません。最後に、ランチェスター戦略の代表的な成功事例を紹介します。
株式会社ジャパネットたかた
通信販売会社として名高い株式会社ジャパネットたかたは、ランチェスター戦略を採用して一大通販事業者として上り詰めた有名企業です。
同社は体制が盤石となった現在こそ強者の法則に則り、広域戦を仕掛けて他社の追随を許すまいとしていますが、大企業の仲間入りとなるきっかけとなったのが弱者の法則に則った局地戦です。
当時はまだ参入企業が少なかったラジオ・ショッピングに注目し、メディアという強力な味方をうまく活用したことで、通販事業者として国内有数の存在へと成長することができたのです。
ハウステンボス株式会社
長崎を代表するテーマパークを運営するハウステンボス株式会社は、テーマパークとしては弱者の立場にある「ハウステンボス」の強みに注目し、ディズニーリゾートやUSJが持たない「自然豊かな街並みを持った『都市』」としてプロモーションを展開することで、強力な差別化に成功しています。
東京からは距離があるものの、中国の上海や韓国のソウルとは近いという強みにも注目し、国際的なMICE需要も取り込むことで、大幅な黒字化に成功しています。
まとめ
ランチェスター戦略はイギリスで生まれた古典的な考え方ですが、現代でも十分に適用して効果が得られるほど骨太な戦略です。
弱者と強者の立場を明確にし、それぞれのやるべきことを明らかにしているシンプルなセオリーであるため、正しく運用することで大きな成果が得られるでしょう。
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