生産性は、企業が競争力を高め、利益を生み出し続けるために不可欠な要素の一つです。しかし、その重要性を理解していながらも、実際には生産性がなかなか上がらずに頭を抱えている企業も少なくありません。
そこで今回は、生産性の定義や種類についてお伝えした後、生産性が高い企業の特徴と生産性の向上に成功した企業の取り組み事例を紹介します。
「生産性」の定義
生産性とは、労働時間や資本などのリソースに対して、どれだけの成果物を生み出すことができたかという比率のことです。簡単にいえば、モノやサービスを作るために投入したリソースをどれだけ効果的に使うことができたかを示しています。
利益や生産量といった成果物を、生産のために投資したリソース量で割って算出します。つまりは、投入するリソース量に対して成果物が多くなるほど生産性は高まり、成果物が少なくなるほど生産性は低下します。
生産性の種類
一口に「生産性」と言っても、実際にはいくつかの種類に分かれます。ここでは、中でも使われることが多い「労働生産性」「人時生産性」「資本生産性」の3つについて紹介します。
労働生産性
労働生産性とは、「労働時間」または「労働者数」に対して、どれだけの成果物を生み出すことができたかという比率のことです。わかりやすくいえば、「労働者1人が生み出す成果」「労働1時間が生み出す成果」を可視化した指標です。
・労働生産性 = 成果物 ÷ 労働時間または労働者数
企業で「生産性」ということばが使われる場合、この「労働生産性」を指していることが一般的です。生産性を向上させたいのであれば、必ず視野に入れておきたい指標の一つです。
人時生産性
人時生産性とは、従業員の労働1時間に対して、どれだけの成果物が生まれたかを示す指標のことです。考慮するインプットの範囲を「労働時間」に限定し、従業員1人が1時間あたりに生み出した成果物を算出できるのが特徴です。労働生産性よりもやや狭い概念となります。
・人時生産性 = 成果物 ÷ 従業員の総労働時間
人事生産性は、1人1時間あたりの生産性を可視化できる分、よりシビアな指標といえます。企業の競争力を高めるために必要不可欠な指標の一つです。
資本生産性
資本生産性とは、投資した設備や機械、土地などの資本1単位に対して、どれだけの成果物を生み出すことができたかを表した指標のことです。企業が保有する資本がどれだけ成果に貢献しているのかの可視化に役立ちます。
・資本生産性 = 成果物 ÷ 有形固定資産
資本生産性は、設備や機械、土地といった企業の資本の利用頻度や稼働量を増やすことで向上させることができます。
生産性が低い企業の抱える課題
続いて、生産性が低い企業が抱える主な課題について解説しましょう。生産性を高めるためには、まず自社の課題を把握し、それらの克服に努めることが重要です。
ムダな仕事が多い
生産性が低い企業の抱える課題の1つ目は、仕事に“ムダ”が多いことです。1日の労働時間は有限ですから、ムダな仕事に多くの時間を費やすほど、生産性は落ちてしまいます。
また、ムダな仕事だとわかっていながら取り組んでいると、モチベーションが低下し、コア業務における業務効率も悪化してしまいます。生産性を向上するためには、業務の“ムダ”をなくすための取り組みが必要です。
ノンコア業務に時間を投資している
メール返信や情報の入力といったルーチンワークは“ムダ”ではないものの、直接的に利益につながる業務ではありません。このように、成果に直結しない業務のことを「ノンコア業務」といいます。
生産性を高めるためには、コア業務により多くの時間を投資してより高い成果を出すことが必要です。しかし、ノンコア業務に多大な時間を費やしていると、アウトプットと対比してインプットばかり増えてしまい、生産性がどんどん悪くなってしまいます。
生産性を高めるためには、ワークフローを簡素化したり自動化ツールを導入したりするなどして、ノンコア業務に投資する時間をできる限り短縮することが重要です。浮いた時間をコア業務に投資すれば、自然と生産性は向上します。
従業員のモチベーションが低下している
生産性の低い企業の抱える課題の3つ目は、従業員の仕事に対するやる気やモチベーションが低下していることです。モチベーションが低いと、同じ労働時間の中で生み出すことができるアウトプット量が減るため、生産性が低減します。
企業の資本が十分に整っていたり従業員一人ひとりが高いスキルを保持したりしても、モチベーションが低ければ生産性を高めることは難しいでしょう。従業員のモチベーションを低下させている要因を取り除き、モチベーション高く仕事ができる環境を整えることが重要です。
生産性の高い企業の特徴
ここまで、生産性の意味や生産性が低い企業が抱える問題についてお伝えしました。そこで次に、生産性の高い企業に共通する特徴を6つ紹介します。目指すべき到達点を設定する際にお役立てください。
業務の可視化ができている
生産性の高い企業の特徴の1つ目は、業務の可視化ができていることです。というのも、従業員一人ひとりの業務内容や業務フローが可視化できていると、業務の“ムダ”を省いたり業務担当者を変更したりといった生産性向上のためのマネジメントがしやすいからです。
業務の属人化が進んでいる状態では、生産性を下げているムダな業務を特定することすらできないため、何をどう改善すべきかがわかりません。生産性を向上させたいけれど、何から手を付けて良いかわからないという企業は、まず業務の可視化から取り組むと良いでしょう。
「目標」を共有・認識している
生産性の高い企業の特徴の2つ目は、社内やチームでしっかりと「目標」を共有できていることです。上司が従業員に明確な「目標」を示すことで、従業員は目標達成に向けて仕事に取り組めるようになります。この場合、従業員は日々の仕事にやりがいや楽しさを感じやすくなるため、仕事の生産性は自然と向上します。
「仕事にやりがいを見出してほしい」というのは、経営者なら誰もが思うことです。しかし、ときには上司側から従業員に対して「目標」を共有し認識してもらうことも重要です。
上司が「生産性」を意識し、リードしている
3つ目の特徴は、上司が「生産性の向上」を意識してチームを適切にリードできていることです。従業員が生産性を高めるためには、優秀なリーダーと仕事に集中できる環境が不可欠です。
上司がしっかりと「生産性」を意識していれば、従業員が集中して作業している最中に遠慮なくムダ話をしたり、不必要な会議を何度も行ったりすることはしないはずです。従業員の生産性を向上させたいのであれば、仕事への割り込みを減らし、集中できる環境を作ってあげる必要があります。
また、従業員の目標となるような優秀なリーダーがいると、自然とチームの団結力が強まり、生産性は向上します。
スキルアップの場を設けている
4つ目の特徴は、従業員がスキルアップをするための場を設けていることです。全社一丸となって従業員のスキルアップに取り組むことで、従業員は同じ時間でより多くの成果物を生み出せるようになり、生産性は向上します。
生産性向上に必要なスキルの一例としては、「ITスキル」「コミュニケーションスキル」「資料作成スキル」などが挙げられます。これらのスキルは、従業員に業務時間外で習得してもらうことは容易ではありません。そのため、スキルアップを目的としたセミナーや社内研修を定期的に実施することが効果的です。
また、高いスキルを保持している従業員が外に流動しないための仕組み作りができていることも生産性が高い企業の特徴の一つといえます。生産性を高めるには、従業員のスキルアップに取り組むこと、スキルの高い人材を定着させることが重要です。
職場の人間関係が良好である
生産性が高い企業の特徴の5つ目は、職場の人間関係が良好であることです。わかりやすくいえば、“ムダ”な心配事やストレスを取り除き、仕事に集中できる環境を整えられていることです。
職場は仕事をする場とはいえ、人間関係がギクシャクしていれば従業員が目の前の仕事に専念することができず、生産性は悪くなってしまいます。職場からできる限り心配事を取り除き、良好な職場関係を築けている企業は、生産性が高い傾向にあります。
オンオフを上手に切り替えられている
5つ目の特徴は、オンとオフを上手に切り替えるための環境が整っていることです。どんなにスキルやモチベーションが高くても、疲労が溜まっていたりネガティブな気持ちになっていたりすると、パフォーマンスは低下します。
そのため、生産性の高い企業では、「長時間働くこと」を美徳とせず、オンとオフを明確にすることでいかに生産性良く働けるかを重視する傾向にあります。どのようなスケジュールなら生産性が高まるのかを知るためにも、有給の取得率や残業、休日出勤日数などを把握・管理し、従業員がオンとオフを上手に切り替えられる環境を整えましょう。
生産性を上げるには?企業の生産性向上の成功事例
ここまでで、生産性の高い企業に通じる特徴を理解していただけたと思います。続いて、生産性を上げることに成功した企業の事例を紹介しましょう。
味の素株式会社
味の素株式会社は、「Work@A〜味の素流働き方改革〜」を推進するにあたって、時間を意識した働き方の導入や、業務・活動の見える化など、さまざまな時間生産性の向上に取り組んでいます。また、挨拶の励行により良好な人間関係を整えたり、ダイバーシティを推進したりするなど、働きやすい・働きがいのある職場作りに積極的に取り組んでいる企業としても知られています。
これらの取り組みの結果、2015年度では2007年度と比較して、総実労働時間が減少したのに対して、営業利益は増加。生産性の大幅な向上に成功しています。仕事のやりがいや生産性の向上を実感している従業員も増えており、今後もさらなる生産性の向上が期待されています。
ヤフー株式会社
ヤフー株式会社は、2020年2月、「月5回まで」としていたリモートワーク制限を解除し、在宅勤務を全面的に導入しました。大多数の従業員は、在宅勤務でもパフォーマンスが落ちなかった、さらにはパフォーマンスが向上したことを報告しています。
この結果を受け、ヤフー株式会社は従業員がより生産性高く働けるようにフレックスタイム勤務のコアタイムを廃止したり、リモートワークの補助金を出したりするなど、新たな働き方への移行に取り組んでいます。
ヤマサハウス株式会社
続いて紹介するのは、住宅設計や建材販売などを幅広く手がけるヤマサハウス株式会社の事例です。
ヤマサハウス株式会社では、「学習する組織」というコンセプトの下、全社員参加型の勉強会を定期的に開催し、全社員一丸となってスキルアップに取り組んでいます。従業員の能力が高まったこと、そして社内の暗黙知を効果的に共有できたことによって、付加価値および労働生産性の向上に成功しています。
また、ヤマサハウス株式会社は、ITを活用した生産性の向上にも積極的に取り組んでいます。スマホを活用したWeb会議や電子申請システムなどを導入し、コア業務により多くの時間を投資できる環境を整えています。
まとめ
今回は、生産性が高い企業の特徴や、生産性を上げることに成功した取り組み事例などを紹介しました。
効果的に生産性を向上させるためには、生産性の高い企業を参考に、自社の抱える課題を一つずつ解決していくことが欠かせません。この記事でお伝えした生産性の高い企業の特徴や実際の成功事例などを手本に、生産性向上に取り組んでみてはいかがでしょうか?