従業員の給与管理は、自社の資金の流れを把握する上で重要なことはもちろん、正しく従業員に給与が支払われているかを客観的に確認できるようにする上でも大切です。中でも、賃金台帳の作成は、労働基準法によって事業主が取り組むことを義務付けている業務であるため、台帳作成においては正しい理解が必要です。
今回は、賃金台帳の書き方について、記載すべき必要項目や、台帳作成時のポイントについて解説します。
賃金台帳とは
賃金台帳は、従業員に給与を支払っていることを証明するための根拠となる台帳です。従業員の生活を守る上で最重要の給与の支払いに滞りがないよう、賃金台帳の作成によって正確に記録することが求められています。
賃金台帳は労働者名簿や出勤簿と並んで、法律によって作成が義務付けられていることから、「法定三帳簿」のうちの一つとしても知られています。賃金台帳については労働基準法第108条に記載されており、従業員を雇用する場合、すべての事業主はその作成と保存が必要です。
参考:e-gov法令検索
賃金台帳の作成対象となっているのは、事業所で働いているすべての労働者です。正規雇用のスタッフはもちろん、パート・アルバイトのスタッフ、日雇い労働者に対しても適用されるため、スタッフを抱えている事業主の方は迅速な作成が求められます。
賃金台帳の保存期間
賃金台帳の保存期間は、労働基準法第109条に基づき原則として5年間の保存が定められています。誤って処分してしまわないよう、それぞれの台帳の保存期間を確認の上、適切な管理が必要です。
参考:e-gov法令検索
また、賃金台帳は必ずしも紙で保管しなければならないわけではなく、電子媒体での保管も可能です。電子媒体であれば保管のために物理的なスペースを必要とせず、台帳が必要なときにすぐ検索して引っ張ってくることもできるため、積極的に活用することをおすすめします。
ただ、賃金台帳の電子化はただ電子媒体であればなんでも良いわけではありません。台帳に記載された情報をすぐに印刷できることや故意の書き換えができないこと、記録した日付が確実に書類に反映されることなどが条件として定められているため、専用のシステムの導入が必要です。
給与明細との違い
賃金台帳と同じような役割を果たしているのが給与明細です。給与明細は労働者に対して発行するもので、給与の支払額や控除額を詳細に記している書類です。
賃金台帳と給与明細の相違点としては、次の3点が挙げられます。
- 作成の目的
- 保存期間
- 記載項目
まず作成の目的ですが、給与明細は労働者向けであるのに対し、賃金台帳は給与の支払い状況を企業の目線から記載・管理することが目的です。そのため、賃金台帳には給与明細などに記載されている勤怠情報などが記載されないなどの違いが出てきます。
また、給与明細は発行後に企業での保存が法的に求められていないのに対し、賃金台帳は法的根拠としての役割が大きく、5年間の保存が義務付けられています。そのため、記載項目にも違いが見られ、賃金台帳には給与明細には記載されない複数の法定項目が記載されています。
給与の支払い状況を示すという点ではどちらの書類も同じですが、微妙な役割の違いがあるため、これらを両立して運用することはできない点に注意しましょう。
賃金台帳が必要になるタイミング
賃金台帳の作成は法律で定められているだけあり、業務上必要になるタイミングが複数あります。賃金台帳が必要になるタイミングには次のものが挙げられます。
雇用保険手続き
従業員の雇用保険手続きを行う場合、賃金台帳の提出を求められる場合があります。従業員の転勤が発生する場合や、雇用している被保険者の従業員が介護休業を取得する場合には、賃金台帳を用意しておく必要があります。
退職手続き
雇用している従業員の退職手続きを進める際には、離職票の発行が必要になりますが、この際賃金台帳を用意しておく必要があります。離職票の交付には確認書類として賃金台帳を提出し、退職者が被保険者ではなくなったことを証明するためです。
労働基準監督署や年金事務所の調査
労働基準監督署や年金事務所は、企業が従業員に対して適切な給与支払いを行っているかどうかの調査を行うことがあります。実施タイミングは不定期で、抜き打ちでの検査となりますが、この際に必要なのが賃金台帳です。
賃金台帳に記されている労働日数や残業時間、休日出勤などの情報を参考にしながら検査が行われます。賃金台帳の内容に不備があった場合には、再提出が求められたり、この際に罰則が課されたりする場合もあるため、日頃から適切な賃金台帳の作成に努める必要があります。
賃金台帳の書き方

賃金台帳の作成には複雑な操作は必要ないものの、次の記載項目を満たしておく必要があります。具体的にどんな情報を記載しておけば良いのか確認しましょう。
- 氏名
- 性別
- 賃金計算期間
- 労働日数
- 労働時間数
- 基本給や手当の種類およびその額
- 休日や深夜などの時間外労働時間数
- 控除内容とその額
氏名
労働者の基本情報として、氏名の記載は不可欠です。事業所で労働者に登録番号を割り振っている場合、氏名と併せて番号を記載しても問題ありません。
性別
氏名と併せて、労働者の性別についても記載が必要です。男性・女性の区別を明らかにしておきましょう。
賃金計算期間
賃金計算期間とは、賃金計算の際に加算すべき期間のことを指します。いつからいつまでの労働時間を給与計算に適用しているのかをここで明らかにしましょう。
月末締めの場合は「2022年5月1日〜2022年5月31日」、10日締めの場合は「2022年5月11日〜2022年6月10日」といった形式での記載が必要です。
労働日数
労働日数は、賃金計算期間の間にその労働者が何日働いたかを示すものです。タイムカードや出勤簿といった根拠を用意の上、記録しましょう。
労働時間数
労働時間数は、賃金計算期間内に何時間労働者が働いたかを示すものです。労働日数と併せて適切に管理しましょう。
基本給や手当の種類およびその額
賃金台帳においては、基本給とその他の手当を分けて記載することとなっています。月給の場合は「基本賃金」を記載し、時給の場合には時給単価と労働時間を掛けた純粋な額を記載します。
各種手当については、「扶養手当」や「通勤手当」といった形で記載します。
休日や深夜などの時間外労働時間数
労働時間数において、休日出勤や深夜労働が発生していた場合には、残業手当や深夜割増手当を記載します。深夜割増が必要とされている労働時間帯は、午後10時から午前5時です。
控除内容とその額
健康保険料や雇用保険料が発生し、控除が必要の際には控除内容と金額を記載します。保険料や税金だけでなく、その他経費として計上している控除項目も併せて記載します。
賃金台帳に不備があるとどうなる?
賃金台帳は法律で定められた手続きに基づき、その記帳と保管が求められています。適切な管理が行われていなかったり、賃金台帳を作成していなかったりすることが判明した場合、労働基準法違反とみなされます。
賃金台帳の不備が初めて発覚した場合などは、労働基準監督官による是正勧告などに留まりますが、度重なる不備の発覚や事態が重大であった場合などは、監督官の判断により罰則が適用されます。
罰則が適用された場合、労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰金が課されます。法に則った賃金台帳の作成を行い、罰則適用や勧告を回避しましょう。
参考:e-gov法令検索
賃金台帳の作成で覚えておきたいこと
賃金台帳を作成する場合、次のポイントを押さえておくことで、効率的で正確な台帳作成を実現できるでしょう。
- 作成ソフトや書式に指定はない
- テンプレートを活用する
- 源泉徴収簿と併用する
- 作成内容の修正は翌月に行う
- 手書きではなくシステムを活用する
作成ソフトや書式に指定はない
賃金台帳の作成は法律で定められている義務ですが、実はその作成方法や書式については指定がありません。そのため、賃金台帳を決められたソフトで、決められた書式で作成するために新たなシステムなどを導入する必要はなく、既存のツールを使って台帳作成を行いましょう。
テンプレートを活用する
賃金台帳に書式についての定めはないものの、記載すべき項目については具体的に決まっているため、どの企業でも記載項目に大きな違いはありません。そのため、すでにインターネットなどで公開されているテンプレートを使って賃金台帳作成を行うことで、効率的に業務を進めることも可能です。
たとえば、厚生労働省では賃金台帳のテンプレートを誰でもダウンロードできるよう公開しています。労働基準法第108条に基づいて用意されているフォーマットであるため、ダウンロードしてすぐに使い始めることができます。
源泉徴収簿と併用する
給与明細との併用ができない賃金台帳ですが、実は源泉徴収簿との併用は可能です。法律上、源泉徴収簿と賃金台帳は別の書類として扱われていますが、記載が必要な項目は同様であるため、これらの書類のフォーマットを兼用している企業もあります。
すでに源泉徴収簿を作成している場合は、そちらのフォーマットに合わせて賃金台帳を作成すると、ケアレスミスのリスクも小さくなります。
ただ、併用はできても書類としての区別はつけておく必要があるので、両書類を混同してしまわないよう保管の仕方に工夫を施しましょう。
作成内容の修正は翌月に行う
賃金台帳を作成した後、その記載内容について誤りがあったことが判明することもあるものです。修正が必要な項目が見つかった場合、次の月の給与を記載する際にまとめて修正を行います。
すでに作成した賃金台帳に手を加えるのではなく、次月の給与から調整が必要な項目を踏まえた計算を行い、二ヶ月単位で辻褄が合うように記載します。
賃金台帳そのものを従業員に見せる必要はありませんが、給与の調整を行ったことは給与明細にも記載しなければならないため、調整を行った際には個別に説明し、納得してもらうことが大切です。
手書きではなくシステムを活用する
賃金台帳は紙媒体でも作成は認められていますが、手書きで作成するのは記載項目が多く、非常に手間がかかるためおすすめはできません。書類作成ソフトなどを使い、最低でもPCを使った手動入力による作成が良いでしょう。
また、近年は賃金台帳を自動で作成してくれるソフトもリーズナブルな価格で導入ができます。入力作業を自動化できるソフトは作業効率を大幅に効率化できるだけでなく、現場への業務負担を削減し、人手不足の解消にも役立ちます。
紙媒体を使わないペーパーレス化の推進のきっかけにもなるため、各種書類作成業務は賃金台帳作成も含めて自動化を進めておくと非常に便利です。
まとめ
賃金台帳の作成が必要な理由や、具体的な台帳の書き方について解説しました。
法定三帳簿の一つである賃金台帳は、雇用者を抱えている事業主は全員が作成しなければならない重要性の高い書類です。賃金台帳の作成を怠ると、労働基準監督署からの勧告を受けたり、労働基準法に違反しているとして罰則が課されたりすることもあるため、迅速な対応が求められます。
賃金台帳は給与明細とは異なる項目を記載しなければならないこともあり、作成には手間もかかります。少しでも作業負担を軽減するためにも、業務のシステム化を進めて現場への負担を軽くする工夫も大切です。
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